Tom Recchion - "Soundtrack To A Color : Gold & Black"
Tom Recchion-produced CD due to COLA [City of Los Angeles] Fellowship, USA.
Edition of 2000 with no number. 2004.



1970 から 80 年代にかけて Los Angeles Free Music Society [LAFMS] で活動して来たトム・レッシオン。
周囲で多くの音楽家・芸術家が挫折する中、彼は現在に至るまで音楽創りを諦めずに来ました。

国勢がどんどん右傾化するアメリカ合衆国では、芸術に対する公的援助が次第に削減されていると聞きます。
COLA [City of Los Angeles = ロサンジェルス市] とて例外ではありません。

The Society for the Activation of Social Space through Art and Sound [SASSAS] 。
そんな名の、芸術と音楽で社会を活性化させようという主旨の団体が現在のロサンジェルスにあります。
おそらく、音楽家・芸術家による自衛意識が具体化されたものではないかと想像します。

トムと数名の旧 LAFMS 関係者は、現在この団体の活動に様々な形で寄与しています。
そうすることで、四半世紀を超える期間を費やし見守り続けて来た本当に面白い音楽の普及が
社会から逸脱してしまわないように働きかけているのでしょう。

厳しい情況が続く今年、ロサンジェルス市は今年 10,000 ドルずつの制作費を 10 名の芸術家に支出しました。
市有のギャラリーで 「COLA 2004」 と題されたその成果報告会が催されたのは、今年の 5-6 月でした。

この援助金を得ることができたトムは、ひとつのインスタレーションを行ないました。
自ら彼は下のように、その内容を説明しています。

「それは、2000枚のポスターで構成されたインスタレーションでした。
ポスターの1000枚は金色、もう1000枚は黒色のポスター。

隔てられた二つの部屋があり、各々はいずれかの色のポスターで覆われていました。
ポスターはしっかりと金もしくは黒に塗られ、その中央部にはとても大きく各色の名が印字されています。
さらに、ポスターの下部には各色のサウンドトラックに用いられた機材の名を記しました。

金色の部屋には光が洪水のように溢れ、黒い部屋にはギャラリーから漏れる照明を除けば光というものが無い。
金と黒の二部屋を隔てている中央の壁は、この CD を収納する棚でした。

棚の両面には、金あるいは黒のポスターが貼られていました。

このインスタレーションの為に造られた CD は 2000 枚。
CD はポスターと共に無料で配布されました。

いずれの部屋もサウンド・システムを装備しています。
2台のアップル iPod を通し、正確な反復と共にそれぞれのサウンドトラックが大気中に再生されたのでした」


この CD にはインスタレーションで再生されたふたつのサウンドトラックが収録されています。
第 1 トラックの名が 「GOLD」、そして第 2 トラックが 「BLACK」 。
共に、ミニマル・ミュージックの形を有しています。

「GOLD」では光で満たされた場所で響くのに相応しい、
幸せに満ちていて恍惚を呼び起こすような音響が延々と反復されます。
明らかに純粋な西洋のアトモスフィアからは生まれて来ない、アジアの民俗音楽に近い響きがあります。

そして恍惚的に過ぎ行く豊かな時間の中を様々な、奇妙な風貌を持つ音塊が飛び交います。
耳を澄ましていると、それらがこの四半世紀にトムが創出して来た音を含むことに気付きます。
走馬灯のような音楽、とでも申しましょうか。

もしトムによる過去の作品を聴いた経験の無い方でも、
現れては消える音のチャーミングなことには充分気付いて頂くことができるでしょう。

でも、ぼうっと聴いているとこの音楽は多分只の BGM としてしか響かないでしょう。

つまらないことの連続に思える我々の日常生活にも、実は面白いことがいっぱい存在します。
どうも、そんなものを見ることが困難な時代が到来してしまった気がしてなりません。

社会のご都合に覆われて姿のはっきりしない喜びを想起させる為の
記憶再生の刺激として 「GOLD」 は輝きを放ちます。




心と世界の両方から同時にエネルギーを召還するような 「GOLD」に対し、
「BLACK」 はあらゆるものを吸い込むそれこそブラック・ホールのような螺旋音から構成されています。

まるで極初期のスワンズを想わせる暗くヘヴィなリフレイン。

それはまさしく、経済成長後の西欧文明を背負っているように響きます。
非西欧的な響きで開放的な至福を表そうとする 「GOLD」 とは余りにも対照的。

さらに、曇天を想わせる音に重畳し繰り返される 「お前をつかまえに行くぞ」 という声。
これらの音響を 「アメリカ合衆国を表現したもの」、と解釈するのはうがち過ぎでしょうか?

しかし、時に黒の感覚は金のそれに転じるかのように振舞いを垣間見せてくれます。
何度かふいに頭をかすめるのは、黒と金が溶け合っているのかも知れないというおぼろげな気配。

引力に拮抗する、人ゆえのナチュラルな反応としてそんなものが立ち現れるのでしょうか?
「この場所にも希望は残されている」 という、トムからのメッセージなのでしょうか?

希望的観測の真偽は、結局明らかにされずに曲は終焉を迎えます。

暗闇でうごめいている無数の、音の姿を借りたモノ共はやはり
トムが四半世紀をかけて想像してきたカケラの群れ。

奇妙で、間抜けで、のろまで、そしてシブイ。


金と黒、あるいは光と闇。
二つの感覚は協力こそし合いませんが、常にいずれもが存在します。

「共存」と呼ぶには余りにも離れすぎていて、なのに単一で存在すれば世界が成立しない。
そんなものの間で浮遊する無数のカケラこそが実は相反する二つの価値をつないでいるのかも知れません。

そんな瞑想、あるいは妄想をもたらしてくれる音楽がここにあります。
心の中にある二つの部屋の為のサウンドトラック...。

ところで、「GOLD」 の終わりに猫の鳴き声を聴き取ることができます。
それは、トムの飼い猫のものだとか。

名前を 「きしみ」 というのだと、彼が教えてくれました。


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初稿 2004 年 12 月 31 日