Jonathan Coleclough - "Makruna, Minya"
ICR [UK], ICR 40 / Siren Records [Japan], Siren 12
2004 年出版/ CD
唐突ながら、日常生活の速度は誰かに決められているのでしょうか?
我々が一生を通じ全うする、あるいはしようとする仕事に費やす時間。
その総量を知る者が、果たして存在するものなのでしょうか?
仮に存在するならば、彼は日々我々が費やす時間の割合を算出してくれることでしょうが。
どうも、人生の速度とでも言うものが画一的なものとして我々の脳に刷り込まれている。
様々なメディアを通じてそんなことが遂行されているような気がしてなりません。
そんな刷り込みの結果、本当の時間感覚に対し我々は盲目となっている。
「時の蜘蛛の巣」にとらわれた昆虫さながらでしょうか。
「起床、食事、仕事そして就寝......」
そのサイクルで、日常は成り立っています。
我々が体験する速度だけではなく、周波数も、そして波長も。
この皮相な世界では、その全てが余りにも狭いレンジに押し込められています。
それゆえ、心地良い日常生活を送ることができなくなるのではないでしょうか?
生きるサイクルの速度は、決して一様で良い訳がありません。
もっと多様な周波数と波長が、日常生活には在る筈だと思います。
だけど幸運なことに、我々は全く違う速度・周波数・波長を伴い起こる現象が
日常生活に存在することに時々気づいています。
とてもゆっくりと、徐々に変化して行く現象に。
空を行く雲を想ってみましょう。
そして、雲の速度は決して一様ではないことを。
*
空の雲は余りにもゆっくりと動きます。
日常生活の速度を振り返ると、あり得ないくらいに。
しかし、雲の速度が確かにこの世界に在るということを疑う余地はありません。
雲の速度感覚とそれが存在するという事実は、記憶の中に刻み込まれます。
そしてそれは、中枢神経系が持つ遺伝子群の中にしっかりと残る。
その遺伝子群は、もうひとつの遺伝子群と共振を始めます。
もうひとつの遺伝子群もやはり、表層世界の下に隠されている速度と周波数そして波長に関与します。
そんなもうひとつの遺伝子群は、音楽を聴くことで活性化されます。
ジョナサン・コールクロウの音楽は、アンドリュー・チョークやオーガナムの音楽がそうであるように
この遺伝子群と密接に関係します。.
ここに、その実例を紹介しましょう。
**
この CD に収められた 2 曲では、
音響がゆっくりと徐々に、しかし確実に変化して行きます。
音響は雄大かつ逞しく、それの持つ周波数と波長が確かにこの世界に存在することを
教えてくれます。
同時に、そんなパワーがいつもは隠されていることも。
このタイプのパワーを「神秘的な」ものと考える向きもあるでしょう。
その解釈は、ちょっと待って下さい。この音楽の最も素晴らしいところは
ジョナサンがそんなパワーを日常の気配の中に開花させているところにあるのだから。
彼は、本当の周波数と波長が持つパワーを露わにします。
この世界に存在する音楽から得られる収穫物として、それらを。
雄大なドローンの下層に配された流水音と民衆の声が、本当の世界が持つ姿を
明確に描き出します。
掛け値なしの収穫物として、音楽が息づいています。
さて、ジョナサンの音楽は「荘厳なるドローン・コア」と呼ばれて来ました。
イカしたネーミングだと思います。
でも、「荘厳」というコトバは気をつけて使う方が良いでしょう。
そのコトバが辿りつくことのできないとても特別な場所に音楽を奉るためのものだとしたら、
何にもなりません。
彼の音楽が紡ぐパワーは、我々のすぐ傍に存在しています。
だからこそ、魅力的なのだと思います。
***
この CD でジョナサンは、アンドリュー・チョーク、コリン・ポター、
ニック・アラン、ルイーズ・アナブルそしてティム・ヒルに謝辞を表しています。
特に、アンドリューが持つ独特の時間感覚をこの作品中に見出すことは
余りにも易しいことでしょう。
もしこの作品を気に入られた方は、次の選択として
ジョナサンとアンドリューの共同作品である CD "Sumac" を聴かれることをお奨めします。
振出しへ戻る
初稿 2004 年 10 月 11 日