Every ascetic practices



会議は踊っていた。
響子と由枝はあくびを殺すことに全力を傾けていた。
今すぐ、両軍と戦うべきだとか、姉や兄、弟の軍団を潰すべきだとか、建設的な議論が行われている。
軍神様の御使いがいるのだから心配ない、と言わんばかりに。
そんなこと言われても、というのが御使い様二名の非建設的意見である。
昨日は確かにテントの中を明るくすることができた。
ただそれだけだ。
カメラのフラッシュでもたいて、目くらましにせよ、とでもいうのか。
部外者と言えば部外者のディックとスミスも、軍関係者を冷たい目で見ていた。
「すみません、提案があります。」
由枝が声をあげた。
軍関係者は目を輝かせた。
何か偉大なことでも言いだすのではないかという期待がバカらしいほどあふれている。
「わたしも響子も、魔法、というものの使い方を知らない。
このまま戦場に行けば、もしかしたらコントロールが効かなくなって味方を殺してしまうかもしれない。」
軍関係者から激しい非難を感じる。
「しかし、あなた方は御使い殿です!戦場に出れば」
「結局、いきなり死ぬかもね。」
響子が冷たい口調ですらっと言う。
「別に私たちは不老不死じゃないもの。だいたい、「御使い」なんでしょ?神そのものじゃなくて。」
あまりの冷たさに軍関係者は響子を貫くような瞳で見つめていた。
「なるほど、修行期間がほしいということですか。」
アリクシャーが珍しく理解した、と言わんばかりにうなずく。
「そうです。」
由枝が堂々と返事をした。
こんなことで堂々としても意味などないが。
「ならば、わたしの部下で最も魔法が得意な者を稽古にあてさせましょう。ただし、期限は三日。」
アリクシャーの条件はかなりきつく思われたが、呑むしかない。

 魔法のおけいこ一日目。
土水風火の初歩的な魔法を使う、という内容だった。
昼食もゆっくりと食べる暇はない。
初歩と言えどもやったことのないことだ、いきなりできるわけがない。
響子も由枝もかなり苦戦したが一応初歩は何とかなったようだ。
教えてくれた魔法使いが上達の早さに驚いていた。
夜はもちろん東大に入るための勉強。
さぼってはいられない。

 魔法のおけいこ二日目。
魔法使いが驚嘆するほど魔法がうまくなったようだ。
初歩のひよこから半人前を上回ってきたらしい。
もちろんゆっくりする暇はない。
死ぬ気で魔法の勉強をして、夜は元の世界の勉強。
「おい、大丈夫か。」
スミスが遠慮なく響子と由枝のテントをのぞく。
響子も由枝も顔色が悪い。
ディックもそれを見て顔をしかめた。
「お前ら、魔法の修行で死ぬ気か?ちょっと待ってろ」
「大丈夫!」
響子が叩きつけるように叫んだ。
「私は大丈夫。これくらいで、へこめない!」
由枝も響子の態度に疑問を感じたが、何も言えなかった。

 魔法のおけいこ三日目。
ここが詰めだ。
ほぼ一人前になってきたと魔法使いが舞い上がっていた。
彼の成果にでもなるのだろうか。
「わっ!」
夕方、響子がいきなり倒れた。
由枝がその体を支えるが由枝自身も地面に膝をつく。
響子の意識はないようだ。
ディックがぺちぺち響子の頬を叩く。
「間違いなく疲れ、だろうな。」
ディックが響子と由枝を一気に肩に担いだ。
アリクシャーに回復魔法を使える魔法使いを聞いてそこに連れていく。
ディックとスミスはじっと回復魔法を使う様を見ていた。
太陽の光のような輝きが響子と由枝を覆い、しばらく二人の体は光っていた。
光がなくなると響子がゆっくりと上半身を上げた。
「おい、大丈夫とか言ったのはどの口だ?」
ディックが響子を睨むと、彼女は明後日の方を見て、この口でーすとこぼした。
「あのな、だいたいいくら勉強していくら努力しても、合わないものは合わないんだ。もう少し加減を考えろ。」
響子は思わずディックを見た。
赤い瞳には意外にも切なさが混ざっているように思えた。
「加減は考えるけど、勉強はやめない!それしか道はないんだから!」
それでも響子は叫ぶ。
何があったのかは知らないが、彼女は相当追い詰められているようだった。
「響子、落ち着け。」
それまで意識がなかった由枝が体育座りになって響子を抱きしめる。
響子の目には涙が浮かんでいた。
「やれやれ、どうしようもない御使いだ。」
スミスはため息をついた。
「本当にな。これだけで済めばいいが。」
空も雲も空気も、何も答えなかった。
END





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*atogaki*
疲れる話かもしれません、自分は疲れましたけど。
なぜかゲームで遊んでいたら思いついた話です。
日経監修のアレです。
話が進まないのは御愛嬌ということで、すみませんがよろしく。