試練を終えて、夜にようやくイージェリン達のところにディック、スミスとともに戻るとなぜか歓迎された。
要するに、響子と由枝がとてもではないが何かを起こすことのできる御使いと思われていなかったといことだろう。
こんな時に歓迎もしていらられない、とにかく響子と由枝を休ませるために一つテントのようなものを建て、
広いそのテント内が響子と由枝のスペースだった。
用意された平民のような服に着替えてから、響子は舌打ちした。
「暗いわね。」
それを聞いた侍従らしき人物が、明かりをお持ちしましょうか、と深々と頭を下げる。
「ごめんなさい、大丈夫よ。」
響子は謝った。
明かりも限度がある。
消耗品を頼むのは気がひけた。
「あるなら小型の時計を持ってきてくれませんか?」
由枝が頼むと、先ほどの侍従がハッといい返事をして去って行った。
二人は、これだけは持たせて、とぼろぼろのカバンに東大合格カリキュラムの参考書を入れていた。
由枝に至っては洋書まで入っている。
「さて、これからどうするか。」
由枝が目を細めて洋書を読みだす。
「兄弟をどうするか。」
響子は日本史のテキストを取り出した。
由枝と同じく目を細めて読みだす。
「外国からの手助けはできれば受けたくはない。」
「だからと言って、軍隊まで擁しているやつらにどこまで耐えきれるか。」
二人とも脳が二つあるようだった。
勉強するための脳と、戦略を立てるための脳。
テキストから眼を離さないが、言うことはテキストから離れている。
不思議な吐息のような音がした。
テント内が明るくなる。
由枝のエメラルドが輝いている。
「ちからってのはこういうことか。」
由枝自身驚いた。
まさか、こんなこともちからの内に入るとは。
再びやってきた侍従が光溢れるテントに驚いたようだった。
「これでよろしいでしょうか?」
侍従の手には月齢まで数えられる懐中時計と思しきものがあった。
「ありがとう、十分です。」
由枝が頭を下げると侍従はやや興奮気味に頭を下げ去っていく。
「響子、今23時。」
「まだいけるわね。」
あっさりと響子は断言した。
由枝は洋書に飽きたのか、付箋をして本をカバンにしまう。
そして、化学のテキストを取り出す。
「どうすりゃ何とかなるっていうの。」
「さあ。少なくとも明日から響子が先頭に立たされるのは確かだな。」
「そーよねぇ。これだけそっくりだとね。」
「おい。」
テントの入り口が開いた。
男性の影がテントの床に映る。
「何やってるんだ。明日は5時から作戦会議だぞ?」
ディックが二人を見て呆れたようだった。
「こんな時に本なんかよく読んでられるな。」
「睡眠時間4時間が常識なの、あたしたちはね。」
響子はそろそろ寝る?と由枝に尋ねた。
「そんなこと言ってないで早く寝ろ。明日どれだけこき使われるかわからん。」
それもそうかも。
「この世界から帰ったら、どーしてもやり遂げたいことがあるもの。ま、寝るけど。」
「その前に体がつぶれるぜ。じゃな。」
ディックはやはり呆れた、と顔に書いたままテントを出て行った。
「じゃ、寝るか。明かりの消し方がわからんのだが。」
由枝が申し訳なさそうに言うと、響子は微笑んだ。
「大丈夫、慣れているから。」
毛布らしきものを被って、少女2人が寝転がる。
「おやすみ。」
由枝が言うとまた変な音がして明かりが消えた。
謎の沈黙が場を支配する。
「こういうもんなのね、ちからって。」
「しょうがないな、期待できなくても。」
「何とかなるなる。おやすみ。」
テントは闇と寝息に支配された。
END
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*atogaki*
どーでもよさげな話です。
頭が切れる人ってどんな感じだろう、と思いつつ書いています。
ちからとか言っても身近なところから。