A comrade



その日の夜空は響子と由枝を歓迎するかのように美しかった。
イージェリンは響子の横で寝ている。
危機感が一番ないのは彼女だろう。
ディックとスミスは軍神様の使いらしき少女達の正面に座っていた。
「敷物があっただけよかった。この服、汚したら高いから、叔母に何て言われるか。」
響子は言いながら、制服のほこりを払っていた。
「確かに貴族の着る服に似てるな、その服。」
ディックがじっと響子を見た。
「その服と荷物はどこかに置いていかざるおえないな。」
「えっ、嘘、どうしよう。」
「何か大事なものでも入ってるのか?」
ディックが不思議そうに響子の鞄を見た。
これまた貴族が持ちそうな鞄だ。
「うん、勉強道具。」
響子が正直に答える。
「はぁ?お前、死ぬ瀬戸際まで勉強する気か?」
「死ぬ気はないわよ。だから、勉強道具。」
スミスがため息をつく。
「そんなに勉強が好き、なのか?」
「好きっていうか、上の学校に行くためよ。」
ディックとスミスが盛大にため息をついた。
「そんなこと、する必要全くないと思うぞ。」
ディックは呆れたようだ。
「何で?」
「貴族の争う様がわかっていて、そんな貴族みたいな恰好をできるなら、頭は十分に上だろう。」
「これくらい誰でも想像できるだろう。」
由枝が話に加わった。
「権力が集中するところには必ず争いが起こる。それくらいたいていの人間は知っていると思うが。」
「そうはならない。特に女はそうはならない。」
「あ、そうか。納得した。」
由枝は心の底から納得した。
ここは自分たちの世界のような整った世界ではないのだ。
もっとも、さまざまな国が核武装する世界を整っていると表現できるかは謎だが。
「始堂さん、互いに最低限持っていこう。シェアすればいいだろう。」
「わかった、赤城さんのこと信じる。ところで、どこの大学志望?」
「東大。」
由枝はしれっと言った。
「ええっ!!」
響子が思わず声を上げると、イージェリンがもぞもぞ動いた。
声を絞る。
「わたしも東大志望!親近感が湧いてきたし由枝ちゃんって呼んでいい?わたしのことも呼び捨てでいいから。」
「わかった、響子。」
響子は由枝の手をとって握手した。
「この状況乗り越えて、東大も受かろうね!」
男性二人はこの急展開にどう対処すべきか、わかりかねるようだった。
END





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*atogaki*
実は話が長すぎるので「A person to trust」と分けたら少なくなりました。
確かに中世で響子や由枝の勉強はいらないだろうな、と思います。
ただ、それでいいだろ、と言えるディックやスミスも教育を受けている気はします。