あの演技をしてから四日後、やっと帰る方法がわかった。
「えぇ〜。」
響子は勘弁してよ、と言った。
由枝も大きなため息をついた。
帰る方法とは、あの山頂にある塔に行き、再び試練を受けるということだった。
もちろんここからはかなり遠い。
イージェリンもすまなさそうだったが、仕方がない。
「わたくしがお送りできればいいのですが」
「それはダメ。やることいっぱいあるでしょ!」
「だが困ったな、道すらわからないぞ。」
由枝も響子もため息をついた。
「しょうがねぇな。送ってってやるよ。」
「そうだな。」
ディックとスミスが言い出した。
これ以上になく気まずい旅になりそうだった。
予想は全く外れなかった。
由枝とスミスも何かあったらしく、誰も口を利かない。
制服に着替え革靴で山登りをしているのだが、やはりキツい。
話したくても誰も言葉を探せない、そんな沈黙。
長い長い時間をかけてやっとあの塔に着いた。
「もう会えないと思うけど、じゃあね。」
「さようなら。」
響子と由枝が言うと、
「じゃあな。」
「ああ、げんきでな。」
とそっけないようでいて必死に絞り出したような返事が返ってきた。
響子は少し安心した。
塔に入ると床が光っていた。
「何々、ここを通って行けと?」
「ずーっと続いてるし、そうなんじゃない?」
由枝と響子は光る床を歩いて行った。
床の光はだんだんと強くなっていく。
ここを通れと言わんばかりに。
そして壁際の輝く床を踏むと目の前が真っ白になった。
響子の目の前には灰色のビル群とアスファルトの道路が広がっていた。
後ろを見ると学校もある。
髪を触ってみると、あの世界で切ったものがそのままになっていた。
制服も革靴も汚れていない。
カバンの中を見ると、ディックにもらったピアスが入っていた。
帰ってきた、無事に。
今度はこちらに慣れるのが大変そうだ。
響子はさっさと自宅に帰った。
高校に入って初めての模試。
都心部の専門学校が会場だった。
にび色に光るビル群には人が少ない。
今日が休日だからだろう。
専門学校に入り自分の席を探していると。
「あ。」
聞きなれたけれども、滅多に聞かない声が聞こえた。
「由枝ちゃん!」
「響子!」
二人は抱き合った。
「ちゃんと戻れたのね。」
「そっちこそ!」
それから互いの目を見て。
「模試トップの座は渡さないわよ。」
「こっちは奪って見せるさ。」
ばちばち
派手な火花が散る。
定められた席に座って、響子と由枝はテキストをとりだした。
Fin
back
*atogaki*
これで終わりです。
バレンタインデーに始まりホワイトデーに終わりました。
つたない面も多かったのですが無事終わってよかったです。
読んで下さった方、ありがとうございました。