An extra:The last chapter



アレから数日。
響子は城のバルコニーから星を見ていた。
エブリールの演技をしてから宴席によく呼ばれたが、さすがに嫌になってきた。
宴席をさぼって星を見る。
重苦しい黒を背景に輝く星は単純にきれいに見えた。
「おい、何やってるんだ、こんなところで。」
ディックに声をかけられる。
「星見てた。私たちの世界じゃ、滅多にこんなきれいな星空見えないのよ。」
月がないせいか、互いの表情はわからない。
星は強烈な光を地上に与えないから。
「ここでもこんなに見える日は珍しい。月とか雲とか障害物はいくらでもあるからな。」
「そっか、そういえばそういうものもあったわね。中学校で習う理科程度のことも忘れてた。」
響子がささやくように笑う。
いきなり。
本当にいきなり響子はディックに後ろから抱きしめられた。
「ここに、ずっと、いる気はないか?」
胸が苦しい。
物理的にも心理的にも。
「ごめん、私は帰るつもり。だって、私はここにいるには場違いすぎるから。」
「そんなこと、これから学んでいけばいいだろう。それにこの城にいればお前は場違いじゃない。」
ぐっと抱きしめられて息が詰まる。
「ううん、たぶん私には無理。何もここで学べない。」
響子は自分を抱きしめている腕をなでた。
「だいたい、私はもっと文明が進んだところから来たのよ?不便でしかたないわ。」
もしも。
もしも一緒の世界に生まれていたら、たぶんお付き合いは断らないだろう。
それどころか結婚すらしているかもしれない。
けれども、そうではないのだ。
自分はここにはいられない。
「ごめんね、ディック。私はあの風評の世界に帰って、あの世界で生きるしかない。」
「そう、か。」
ディックがつぶやく。
そしてやや大胆な行動に出た。
ディックと響子の唇が一瞬重なる。
響子は自分の顔が絵の具で塗ったように赤くなるのを感じた。
「何するの、初めてのキスだったんだから!」
「実は俺も。」
甘ったるいような痺れるような沈黙が続いた。
「初めてって、またもてそうなのになんで?」
響子はやっとのことで平静を保っているかのように話せた。
「もてるのと、好きになるのは違うだろ。」
ディックの顔はよく見えない。
何となくずるい気がした。
「まさか初恋とか言わないわよね?」
私は違うけど。
響子の初恋は告白直後、親が娼婦のヤツなんかあっち行け、の一言で終わったが。
「言わない。こっぴどく振られたし、うわさまで流された。」
初恋の告白とかってだいたい悲惨な結果になるのよね。
「私も初恋はこっぴどく振られちゃった。」
やっと笑いが戻る。
「もう少ししたら中にもどろうか。」
「ああ。」
響子はしばらくディックに抱きしめられていた。
END





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*atogaki*
恋愛経験ないでしょ?と思われたあなた、鋭い。
自分は振られた経験と好きと言いだせなかった思い出しかありません。
で、結末はこういうことに。
あー、もっといい書き方したい。