A person to trust



黒い砂の海岸沿いを男女4名が歩いて行った。
男性たちの服装と、女性の服装は全く違う感覚で作られたもののようだった。
「おい、連れてきたぞ!」
移動の準備をしている一団に向かって、ディックが叫んだ。
やけくそ、という点ではスミスも同じようだった。
一団には怪我をしている者も多いようだった。
響子と由枝を見て、彼らの顔にも絶望が走ったようだ。
疑いのマナコが響子と由枝に嫌というほど突き刺さる。
その中から、実用的な服を着た中年男性がこちらに向かってきた。
女子高生二人組を上から下までじっくりと見てから、ため息をつく。
何なのよ、そのため息は。
響子はそう思ったが「軍神」の「使い」を期待していたのだから、仕方がないといえばそれまでだが。
「はじめまして、始堂響子と申します。」
響子が刺々しい口調と刺し殺すような視線を伴って、初対面の挨拶をした。
「私もはじめまして、赤城由枝と申します。」
由枝はため息をこらえているようだった。
「すみません、御使い殿、アリクシャーと申します。姫を呼んで参ります。」
そう言ってアリクシャーは、まだ撤退の準備ができていてないテントっぽいものの方にに歩いて行った。
「アリクシャー氏も一気に衰えたな。」
スミスが思いっきり失礼なことを言った。
「切り札がこれじゃあな。姫君を同じ年頃の男と女だ。」
ディックが言うと、由枝がすぐ反応する。
「いや、私は女です。」
「悪い、ぺらんぺらんの女にあまり出くわさないものでな。」
どこのしたじきだ。
由枝は思ったが黙っておく。
思ったより早くアリクシャーと女の子がやってきた。
女の子は走っている。
「わお!」
響子が声を上げた。
女の子の外観は服装を除き、全く同じだった。
由枝も目を見開いている。
「あなた方が御使い様ですか。」
女の子は一礼した。
ここに来てから初めての友好的な挨拶に女子高生二人組は、しみじみありがたみを感じた。
「わたくしはイージェリンと申します。これからよろしくお願いいたします。」
はい?何をお願いされた?
「あの、失礼ですが、お、おねがい、とは?」
由枝が言うとイージェリンは歩きながら話しましょう、と返した。

 一団は山を越えるようだった。
女子高生と普段はほとんど歩かないらしいイージェリンが並んで歩く。
彼女たちは一団の真ん中にいてすぐそばにディックとスミスがいる。
「わたくし共は畑仕事をする身分でしたが、わたくしが巫女としてのちからを発揮したとき、
わたくしを姫として兄上、姉上が当時の王家を倒したのです。」
何だかもう話が読めてきた気がする。
「あのさ、もしかして、あなたのお兄様とお姉様が権力争いを始められたとか?」
響子が言うと、イージェリンは頷いた。
「互いに軍を動かし、あまたの死者がでました。わたくしはお兄様とお姉様の争いを止めようと」
「無理、に聞こえますが。」
失礼を承知で由枝が口をはさんだ。
アリクシャーが凄い目で睨んできたが気にならない。
「はい、少なくともわたくしがあのまま王宮にいれば争いは収まらないと考えて、軍神様を祀った海に祈りを捧げました。
そして、あなた方が現れました。」
響子も由枝も黙り込んだ。
「血を流すことなく、争いを止められるのは、あなた方だと、信じております。」
信じられても。
秋の青空のように響子と由枝の顔色が変わった。
軍を動員して争う兄妹に、周囲の国も何も考えないわけはない。
イージェリンはそこまで考えが至っていないようだが、アリクシャーはわかっているようだ。
慣れない山登りで足が痛いが、それ以上に頭が痛い。
私たちを信じられても、ほとんど何も知らない自分たちに何をしろと言うのか。
END



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*atogaki*
書くまでが苦しかったです。
人間関係どうしようとか、こいつはこうだからこうして、とか。
これからもじっくり軸足がそれていく気がしますがよろしくお願いします。