The last chapter




地下の闇の中、人間が歩いていた。
道はいくつもの分岐点に別れていたが、響子も由枝もどちらに行けばいいかすぐにわかった。
男性二人がそれに付いていく形になる。
地下道はそう長くはなかった。
地味で目立たない中庭の端に出る。
「で、イージェリンはどこにいる?」
スミスが言うと、響子と由枝は同時に城自体からやや離れた塔を指した。
「あそこなら侵入しやすそうだな。」
本日のため二本の剣を腰から下げたディックが塔の頂上を見た。
別に特別すごい塔でもない。
高さもにび色のレンガも普通といえば普通だ。
二人の兵士があくびをしながら門番をしている。
「悪いが死んでもらう。」
つぶやくと、スミスとディックが隠れていた場所から飛び出す。
彼らが叫ぶ間もなく首を切られたり、電気で黒こげにされる。
なるべく人を殺したくないのは確かだが、殺さなければいけない場面もある。
由枝と響子も隠れていた場所から飛び出す。
塔の扉は簡単に開いた。
四人は全力で階段を登った。

 塔の頂上に来るころには、響子と由枝は息が上がって口もきけなかった。
イージェリンが閉じ込められている部屋はややほこりっぽかったが、イージェリンの衣装やテーブルがあった。
イージェリンは響子と由枝に水を差しだした。
雨水を溜めたらしいが、文句を言う暇はない。
「イージェリン!一番上等な服と、二番くらいに上等な服出して!」
イージェリンが慌ててクローゼットをいじっていると、たった二人で部屋に誰かさんが入ってきた。
これは運がいい。
「おや、死んでいなかったようだな。」
立派な身なりの男がうすら笑いを浮かべた。
「これから行くところは地獄かしらね。」
やはり立派な身なりの女がにっこり笑う。
ディックは彼らのセリフに何も返事をせずに、二本目の剣で男に切りかかった。
いきなりの攻撃に反応できず、ディックの剣は男の腹部に深く刺さり、大量の血を出す。
イージェリンが悲鳴を上げそうになるが、由枝がすばやくイージェリンの口をふさぐ。
スミスも間髪をいれず女を刺す。
こちらは胸に深く刃が刺さり、嫌というほど血が出た。
その間に響子は部屋の中から鍵を閉める。
由枝がイージェリンの口から手を離すと、彼女は泣きだしかけた。
「ほら!イージェリン!二番目に上等な服着て!」
響子が言いつつ自分ももっとも上等なドレスを着ようとしている。
ディックは気を失った男女を縛り上げている。
由枝も魔法を使って剣を召喚する。
イージェリンは状況に付いていけないようだった。
仕方がない。
「ほら、服着る!お兄さんもお姉さんも死んでないわよ!さるぐつわも忘れないでね!」
響子は現場監督のように、指示を出す。
やっとイージェリンが服を着始める。
「イージェリン、あれは全部血糊だから安心しろ。」
由枝も言う。
イージェリンが服を着ると、スミスが響子とイージェリンを見た。
全く同じ顔が全然違う衣装を着ている。
見物だったがゆっくり見ている暇はない。
響子に呪文をかける。
ガシンガシン
異常に気付いた兵がやってきたらしい。
部屋の扉を乱暴に叩く音がする。
「いい?イージェリン。私に口裏合わせるのよ、驚いたりしない!わかった?」
イージェリンは小さい子供のようにうなずいた。
がん
ドアが壊れた。
「何者、キサマら、よりによってイージェリン様の部屋に押し入って」
「余はそのようなものではない。」
剣を突き付けられても響子は落ち着いているように見えた。
「なんだと!何者だというのだ!」
「余は最高神エブリール。汝らに言葉を伝えるため、この娘の体を使っておる。」
響子は堂々と答えた。
兵士たちがざわつく。
「余の言葉を広く民に伝えるため、もっともよき場所を用意しろ。」
あまつさえ要求までする。
「わ、わかりました!エブリール様!ほら、早く行け!」
あっと言う間に兵士たちは散っていった。

 響子が兵士長の後に付いて歩きその後ろをイージェリンが歩く。
ポーカーフェイスで響子が歩くと廊下の端に寄った城で働いている者たちが深々と礼をする。
開店直後のデパートのようだ。
後ろに由枝が続く。
「ほっ、本当にエブリール様なのだろうな?」
先導していた兵士長が振り返った。
「余が騙りだとでも?」
ちょっと怒りのエッセンスを加えてみる。
兵士長は失礼しました、と慌てて謝った。
もう少しらしい。
「こちらでございます。」
ここで罠を仕掛けられたらどうしようと思っていたのだが、特に罠はないようだ。
バルコニーにでると大勢の民がいた。
とんでもない事態にざわざわと騒いでいる。
「余の声を聞け!」
スミスにかけてもらった声が広範囲に聞こえる魔法が効力を発揮する。
場がしんとなった。
「余はこの争いに心を痛めておる。」
痛めているんだかいないんだかわからない表情だが、権力者とおぼしき者は目を見開いた。
「そこで、余は争いを止めるためここで王たる者を指名する。」
空気が凍りついた。
「イージェリン。神々の声を聞き、聡明である彼女こそ王たるにふさわしい。」
そこでおもむろにイージェリンがバルコニーに出る。
黒いドレスを着たイージェリンはいつもの優しい表情ではなく、緊張のおももちだ。
そこで民衆が騒ぎだした。
「余の言葉、確かに伝えた。彼女の兄弟は国外追放の刑に処する。」
それでも民衆の騒ぎは止まらない。
いかにイージェリン以外の兄弟の存在が薄かったかわかろうというものだ。
響子は倒れた。
医師らしき人物が駆け寄ってくる。
「エブリール様!?」
響子はゆっくりと目を開いた。
「エブリール?それって神様の名前じゃない。私は響子よ。」
「エブリール様は天に帰られたのだ!エブリール様、万歳!」
宴が始まる。
演技は大成功、と言ってもいいだろう。
響子と由枝は豪華な部屋で眠ることができた。
END





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*atogaki*
これはわかった人、多いんじゃないかな。
手あかがついた方法だから。
自分にはこれが限界です、一応がんばりました。