An overture for mercy



その日は雨だった。
響子も由枝も宿の自室で黙ってそれぞれの教材を見つめていた。
明らかに頭に入っていない、といった様だ。
「っつ、あーもうっ!何かいい手はないの!?イージェリンが危ないってのに!」
ベッドに転がっていた響子が先に教材を投げた。
由枝も教材を机にすっと置く。
「いい手か。猫の手でもいいからないものか。」
響子は置いてあった枕をベッドに叩きつける。
「猫は無理よ!演劇部じゃない、ん、だか、ら。」
響子が考え込んだ。
「演劇、演劇、そうか!もしここにもあれば!」
由枝も響子の意図がわかったようだった。
すぐさま隣の部屋、ディックとスミスの部屋に行く。
ノックなしで荒々しくドアを開ける。
ディックもスミスもベッドから跳ね上がる。
「何かあったのか!?」
「そこまで何かあったわけじゃないけど、思いついた!」
響子が顔を赤くして言う。
「何を?まさか、イージェリン関係か!」
「うん!小声で話すから聞いて!」
響子と由枝がぼそぼそと説明をする。
自分たちが考えた、『演劇』を。
「なるほど、もしもその別世界の道具があれば、できないことはない。」
スミスがうんうんとうなずく。
「ただ、あるかどうかが問題だな。なかったら自作か?」
「う〜ん、成分知らないから難しいけどやってみる。」
「ディック、時間がそんなにあるわけじゃない。さっさと探しに行こう。」
スミスとディックは、響子達に何があってもフードをとるななどと言ってから出かけた。

 暇になると響子はあの箱を取り出した。
綺麗なピアス。
いつかはしてみたい。
「きれいだな、どうしたんだ?」
由枝もそのピアスをのぞきこむ。
「ディック。正直、ちょっと気が重いかも。」
その気持ちは由枝にもよくわかった。
「その気持ち、わかるな。私も何か贈るか、高そうでこっちでも使えそうなもの。」
「え?由枝ちゃん誰かに何かもらったの?」
「スミスにブレスレットをもらった。」
そう言って、由枝は右手に付けたブレスレットを見せる。
「飾りが多いわね。けっこう値が張るかも。」
響子もじっくりと由枝のブレスレットを見る。
「元の世界では男子度外視だから、戸惑うわ。」
「似たようなものだ。さて、どうすればいいかな。」
二人はため息をついた。
ため息をついている場合ではないのだが。
これから『演劇』の準備がある。
成功しなければみんなの首が本当の意味でとぶ。
がんばるだけで済む問題でもない。
由枝がカバンを漁りだすと、響子もカバンをいじりだした。
END





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*atogaki*
やっと話が動かせました。
ここから先ははっきり言って読める方が多いんじゃないかと思いますが、
よろしくお願いします。