The worst intention and a wonderful present



王都のある安宿。
古びた布で体を覆い、目の位置には布を巻いた女らしき者二人と大柄な男性二人が二部屋をとっていた。
誰も怪しまない。
異国には目の位置に布を巻き修業をする習慣があるからだ。
「じゃよろしく。」
ディックが部屋のカギを受け取って他の三人と二階の部屋に向かう。
二階の部屋に入ったところで。
「もうとっていい?」
響子がなぜかきょろきょろしながら言う。
「大丈夫、だと思う。」
高校生二人は布をとった。
「あー、見えないって不安だわ。で、どうしよう?」
響子が言うと全員思案顔になった。
「一応聞くが、他人から見えないようにする魔法なんかないか?」
スミスが言うと、
「やってみたらできるかもしれないが、リスクは負ってもらうぞ。」
由枝が答える
「却下。」
ディックが即答する。
「ああいう城には秘密の出口があるとよく言われるが、あくまで秘密だからな。わからない。」
由枝はそう言ってため息をついた。
「何か嫌な予感がするのよね、ここに来る前から。」
響子が口を開いた。
「何が?」
「あのさ、「軍神」ってさ、誰を助けるの?」
「呼び出したイージェリンじゃないのか?」
そう言ってから由枝が目を見開いた。
「もしかして、初めからイージェリンしか助ける気はない?」
「イージェリンの意思はこの際問題じゃない、か。なるほど。」
暗く淀んだ空気が流れる。
口にしたくもなかったが、仕方がない。

 見える、何かが、見える。
暗い納屋、もう使われていないのかかなり風化しているが一応立ってはいる。
響子と由枝ははっとした。
「ひょっとして、「軍神」の「正しい」「使い」として教えられた?」
響子とんでもない顔色をして、疑問形で言葉を発する。
「そうだろうと思う。まさか、本当にイージェリンしか助ける気はないとはな。」
男性は不思議そうにしている。
「どうも「軍神」はイージェリンしか助けるつもりはないらしい。さっきの一言で「軍神」の「使い」としてしっかりと認識されたみたいだ。
侵入方法がわかった。」
由枝が説明する。
響子があまりにも沈んでいるから。
見かねたのかディックが響子の手首をつかんだ。
「ちょっとあっちの部屋来てくれ。」
響子はゆっくりと立ち上がった。

 まだ誰も入っていない部屋のため男くさいとか女くさいという匂いはしない。
響子はベッドの上に座らされる。
ディックが何やら荷物をいじりはじめた。
あれじゃない、これじゃない、と言いながら。
「あー、これやる!」
白い箱が響子の膝の上に乗った。
「あの、開けてみていい?」
少し気分が明るくなったのか、響子が尋ねた。
「もちろん。」
開けてみると入っているのは綺麗なオレンジの石がはまった幾何学文様のピアスだった。
サイズがやや大きいので重いかと思われたが、持ってみるとかなり軽い。
「すごい!かっこいい上に重くない!」
「よかったら付けてみろよ。」
ディックに言われたが、非常に残念だった。
「ごめん、学校の規則で今はピアスできないの。」
本人に聞かずに買うんじゃなかった、というディックの心の声が聞こえるようだった。
「大丈夫、学校卒業したら即行でつけるから!それまで宝物にしてとっとくから!」
響子は箱を抱きしめた。
「あ、こんな高そうなものもらって何もお返ししないの悪いわよね!ちょっと待ってて!」
響子はまた作戦を考えていた部屋に戻った。
二人で話していたらしい由枝とスミスは不思議そうに響子に視線を向ける。
響子は自分の荷物を漁った。
めぼしいものめぼしいもの。
そうだ、高校入学祝に自分で自分に買ったアレがある。
響子はアレを持ってディックの部屋に戻った。
「おい、大丈夫か!?」
響子がいきなりすばやく行動したため、驚いたディックがドアのところにいた。
「大丈夫!はい、箱がなくてごめん!」
響子は旅行カバンの形をした飾りのついたキーホルダーをディックに渡した。
「え!?いいって、返しなんか!」
「よくない!鍵でもくっつけて使って!」
ディックは手の平に乗ったキーホルダーを見て、それをそっと握った。
「元気になってよかった。」
ディックがほほ笑む。
「え?あ、そうか。いや、私、家族が崩壊する様見てるから、ちょっと、えっと、同情しちゃって。」
「うまくいくさ。そう思わないと、やってられないぞ。」
ディックに言われ、思い出す。
「そうね、うまくいくに決まってる!で、東大入ってピアスする!」
響子は気付かなかったが、嬉しそうな寂しそうな、複雑な表情でディックは響子を見ていた。
END





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*atogaki*
嫌な話になりました。
響子にとっては口で言う以上にキツいだろうな、と考えたりします。
状況が響子の体験に似ているかもしれません。
ディックに感謝、です。
書いている方もディックがいてくれて助かりました。