An extra:The stairs of likes and dislikes



 響子と由枝は他人を拒絶するように歩いていた。
「確かに私たちは兄や姉との戦争をやめたいって理由で呼ばれたのよ。でも、アレはおかしいわ。」
響子が叩きつけるように言えば、
「あんな怪しさ抜群の再会はないだろう。今確実にイージェリンの寿命が縮んでいるぞ。」
と由枝も言う。
「何考えてんだ?」
スミスが話しかけると、難しい顔をした響子と由枝に振り向かれた。
「あの怪しい兄妹再会のことよ。」
「エルネシカは私が呼び寄せたようなものだが、あの兄までなぜやってくる?」
ディックも考え込んだ。
「確かに怪しい。イージェリンはお飾りとして使えなくはないがいずれ邪魔になる。」
スミスまで険しい顔になる。
「そうだな、確かにイージェリンは一時的な飾りにはできるだろうが、何か少しでもあの兄と姉に逆らったら、な。」
ディックが頭を振った。
「あの再会は確かに怪しい。が、響子ちょっと止まれ。」
「何でよ?」
響子がぶすっと答える。
「髪をもう少しきれいに切ってやる。」
そう言われて、響子の表情が少々おかしくなる。
「だから、きれいに切りそろえてやるって。それくらいできるぞ。」
「ヘアスタイルがおかしいのは放っておくとまずいかぁ、じゃあそこの大きな石のところでお願い。」

 響子はディックに髪を切ってもらっていた。
ディックは短剣を巧みに操り髪をきれいにそろえていく。
「器用ね。」
響子が話しかけると、ディックは軽く笑った。
「両親の髪もこうやって切ってた。傭兵仲間に頼まれることも多くてな。」
「みんなに認められるほどなんだ。」
ディックは刃物を優しく使うことも鋭く使うこともできる、ある種の達人ということだ。
その優しい刃と男性らしいごつごつした手がさっきまでの怒りを鎮めてくれる。
「これでいいか?」
ディックが短剣をしまう。
「うん、信用する。」
響子にとっては不思議な時間が流れた。

 他人が髪を切っているのをじっくり見ているのも何なので、由枝は響子達から少し離れて景観を見ていた。
木々は若葉を生み出し、太陽の光を緑色に染めている。
これなら地上にも光が当たって美しい森になるだろう。
「何見てるんだ?」
スミスに声をかけられる。
「景色を見ていた。私たちの住んでいた国ではなかなか見ることができない眺めだ。」
「都会生まれ都会育ちか?」
「都会と田舎の中間くらいの場所に住んでる。」
風が緑を揺らす。
「兄妹でこういう緑と遊歩道がある場所に行くことはあったが、ふと足をのばすとこういう景色が見えることはほぼない。」
「オレは都会育ちだからこういう森を初めて見たとき、感動したさ。」
「そうか。昔はうちの近所も森が多かったが、宅地開発でなくなっていっている。」
スミスが考え込んだ。
「タクチ?ああ、一軒家のことか。」
ざあ
風が吹き緑の音がした。
「話が変わるが、ちょっと手を出してくれ。」
スミスに言われるがままに由枝が手を出すと、その手の平に色とりどりの飾りのついたブレスレットが置かれた。
「いつだかの仕事の報酬で貰ったが、オレが女物を付けるのもおかしいからな。これからが険しいんだ、付けておけ。」
「いいのか、こんな高そうなもの。」
「いい。それより。」
スミスは由枝の肩を軽く叩いた。
「生き残れよ。」
「わかった。そろそろ響子の髪も切れたかな?」
「行こうか。」

 由枝は響子の髪を見て驚いた。
きれいに切りそろえられていて、響子の表情を明るく見せている。
「よう、散髪屋さん、今日は張り切ったな?」
スミスがにやりと笑うと、ディックは照れたように赤くなっていた。
「ありがとう。ところでここから一番近い都市ってどこ?地図もなく出てきちゃったからわからないんだけど。」
「それが困ったことに王都なんだ。」
「王都か、そりゃまずいな。」
全員がしばらく黙っていた。
「ウリュウなんかどうだ?」
スミスが言うとディックも、それしかないだろうと納得した。
「もうすこし行けば街道に出るはずだ。そっちに行こう。」
そして全員が歩きだした。
END





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*atogaki*
話がどう進むのか、自分でもわからなくなってきました。
登場人物が勝手に動いています、歯車みたいに。
絶望しない程度に期待してください。