驚いたことに、兵の中からエルネシカと思しき凝った衣装を着た女性が出てきた。
「そんな偽物のイージェリンに用はないわ。出ていらしゃい、イージェリン。」
しまった!響子のこと、呼び捨てにした!
由枝は自分の失態を呪った。
「そうだよ、イージェリン、出てきなさい。」
見知らぬ男性が出てきた。
いかにも農業をしていましたという日焼けと筋肉が目立つ。
服は上等なものを着ているが、もとの職業は隠しようもない。
「お兄様、お姉様!」
本物のイージェリンがすぐそこの通りから現れる。
「まるで幻の魔法をかけられたようですわ。本当にお兄様とお姉様ですか?」
イージェリンは泣いていた。
「ああ、そうだよ。もう、悪い夢など見なくていい。」
「お兄様!」
イージェリンが男性に抱きついた。
「さあ、王都へ帰ろう。」
「待ちなさい。」
響子がやっとのことで口をまともに動かした。
「イージェリン、本気で王都に帰るつもりなの?」
そう言われて、イージェリンは答えなかった。
帰るつもりなのだろう。
「アリクシャー、あんたも王都に帰る気?」
アリクシャーは迷いがあるようで鯉のように口を開いたり閉じたりしている。
「一言、言わせてもらっていいか?」
由枝が冷静さと憤怒の中間地点でイージェリンを見る。
「いくらでもどうぞ。あなた達は無力なのだから。」
エルネシカは余裕の笑み。
憤怒の方に偏らないように、由枝は言った。
「イージェリン、いくら兄と姉がいたところでどうにもならないんだぞ。」
イージェリンの肩が震えた。
「何もかも、もとには戻らないんだ。それがわからないのか?」
「由枝ちゃんに賛成。あなた、自分がどれくらいの決断をしていると思ってるの?」
イージェリンは兄にすがりついて肩を震えっぱなしにしている。
「答えなさい、私たちをどうするつもりなの!」
響子がどなると兄がイージェリンの背中をやさしくなでる。
「あなた方がどうなろうと、こちらには関係ありません。お引き取り下さい。」
兄が静かに、歪んだ余裕の笑みで答える。
「わかったわ。」
響子の手にナイフが現れた。
そして。
「響子!?」
由枝は思わず声をあげた。
響子がナイフで音もなく自分の髪を切ったのだ。
「失望したわ。同じ外観でいるのも、嫌なくらいね。由枝ちゃん、行こう。」
響子が由枝の腕を引っ張って歩いていく。
彼女たちが魔法を使うことを知っている兵士たちはあっさり道を開けた。
「俺は響子達に付くぜ。こうなったら金は関係ねぇ。」
「同感だ。」
ディックとスミスも響子達の後を追う。
兄妹三人の感動の再会はまだ続きそうだった。
そのはずなのに。
響子と由枝はもとの世界には戻っていなかった。
END
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*atogaki*
一応、期待を裏切ろうとしてみました。
読んで下さった方には予想の範囲内かもしれませんが、
まあそういうことで。
あとは、アリクシャー次第です。