A simple strategy



とりあえず考えてみたんだが。
由枝の一言で作戦は実施されていた。
イージェリンの姉の件で。
ここはイージェリンの姉、エルネシカが住む街。
由枝がイージェリンの使いのふりをして、昼夜問わずちょこちょことエルネシカの屋敷に行く。
それも何回も。
2つか3つくらいの特定のルートを通ってイージェリン、もとい響子に報告に行く。
スミスが誰か付けてきていないかをチェック。
弟のグラシェスがイージェリンについていることは知っているはず。
イージェリンの使いがいれば警戒心は増す。
王城にいる兄にアプローチするよりマシだろう、ということで。

 由枝は屋敷を見た。
赤い屋根の煉瓦造り、大邸宅だ。
自分の家よりいくらか大きい。
窓もいくつかある。
下働きの男女が忙しそうに働いているのが窓から見える。
働く人間を減らしすぎたのだろうか。
こっそりそう思いつつしばらく屋敷を見つめる。
スミスもここからは見えない位置にいて、
誰か由枝を見ている者がいないかチェックしているはずだ。
何となくある話を思い出す。
北風と太陽がどちらが旅人のマントだかなんだかを脱がせられるか、を賭ける話。
北風は思いっきり風を吹きマントを脱がせようとしたが、旅人は強くマントを握る。
そして、太陽はさんさんと大地を照らし熱くなった旅人はマントを脱ぐ。
ちょっとここで疑問がある。
「きさま!毎日このお屋敷で何をしている!!」
ご立派な鎧を着用しただみ声の兵士に声をかけられる。
「いえ、何も。」
由枝がそう答えると、兵士はいきり立ったようだった。
「ならばなぜ毎日ここにいる!」
今まで何回か誰かが付けてきていた。
ならば自分の正体くらい知っているはずだ。
「こちらの屋敷の美しさに目を惹かれて。」
由枝がほほ笑む。
すると、兵士は剣を抜いた。
「巫女姫の使いだろう!この場で切って首を送りつけてやる!」
「何でもいい!助けろ!」
兵士の一撃を何とかかわし、由枝は叫んだ。
スミスも隠れるのをやめてこちらに向かってくる。
いつの間にか由枝は兵士のものと同じような剣を持っていた。
なぜか軽い上、次に何をすればいいのかまで伝わってくる。
キイン!カン!
金属の音が響き渡る。
「北風は吹くことしかできない!太陽は照り付けることしかできない!」
由枝が兵士をリードしている。
「私には、魔法しかない、この世界では!お前のマント、切り裂いてくれる!」
人が集まり始めている。
まずい。
これでは、退路が塞がれる。
「ユエ!こっちだ!」
スミスが叫ぶ。
「わかった!」
由枝は隙を見て兵士を転ばせてから、スミスの方に走る。
「誰か、誰か!巫女姫の使いが襲ってきた!本拠地はあちらだ!」
弓や銃弾が飛んでこないだろうな。
そんなを心配しつつ由枝は全力で走った。

 気になるのはまだ剣が引っ込まないことだ。
本当に助かったなら魔法も消えるはずだ。
由枝は剣を指示通りに操る。
スミスと由枝の間にエルネシカの放った兵がいた。
「炎よ!」
スミスが一瞬にしてその兵を黒こげにする。
剣はまだ引っ込まない。
「急げ!イージェリンはあちらだ!」
スミスが叫ぶ。
由枝は必至で走った。
響子も危険に巻き込まれるが、二人ともこうするしかなかった。
この世界では。
道の突き当たり、響子が待っているところに行くと彼女はたるの上に座っていた。
スミスと由枝の次に走ってきた集団を見て、立ち上がってじっと集団を見た。
「イージェリン!」
「ユエ!」
互いに叫ぶ。
本名だったり偽名だったりするが。
由枝の剣はここでも消えない。
これから何が起こるか、何パターンか予想してはいるが何が起きるかわからない。
ここらからが正念場かもしれない。
END





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*atogaki*
最後、投げたでしょう、そう思ったあなたは正解です。
しかも、由枝にしてはけっこう大きい失敗をしています。
がんばれファイト、ということで。