やっと、やっとここまで来られた。
あとは、三年間の猛勉強のみ。
それで周囲が自分を見る目を変える。
風評被害もなくなるはずだ。
はじめての授業は難しかったが、このレベルから落ちてはいけない。
その女子高生はこぶしを握り締めた。
絶対やる。
黒い髪を長くのばした女子高生は校門をくぐった。
くぐったのは校門のはずだ。
次に出くわすのは灰色のビル群とアスファルトの道路のはずだった。
それがなぜか大量の塩化ナトリウムが含まれた水と黒い石を敷き詰めたような場所にいる。
想像を余裕で飛び越える事態に女子高生は制服とバックを見た。
別に変わったところはない。
前を見た。
塩水が音をたてて満ち引きを繰り返している。
ふと左横を見ると同じくらいの年の女子高生らしき人物がいた。
どこの学校かは知らないが、女子の制服を着てやはりバッグを持っている。
胸囲が全くない上、ちょっとかっこいい顔からは女装という単語が飛び交う。
「すみません。」
自分が誤解したようで、左横にいた人は女性らしかった。
「ここはどこか、わかりますか?」
彼女も困惑しているらしい。
「いえ、私もわからなくて。」
「失礼しました、わたしは赤城由枝と申します。」
「すみません、私こそ。始堂響子です。」
互いに挨拶をしていると、謎の音が聞こえた。
しゃきしゃきとか、ざざざとか。
響子も由枝も音源を見た。
黒い砂浜にぴったりの黒いものがこちらに向かっている。
その細長い影は近付くとハサミと胴の部分があることに二人は気付いた。
こんな感じの生き物は一般的に、カニと呼ばれている。
水族館にもいないサイズだ。
「きゃあああああ!」
「うわあああああ!」
縦に逃げる。
突進するような速度で大きなカニは南国風の植物の合間に走り去った。
そういえば。
響子は熱帯にあるような植物が多いことに今更気付いた。
しゃきしゃき
もう何が来たかは十分にわかる。
悲鳴をあげて逃げ惑う。
由枝の方が落ち着いているようだった。
響子の手を引いてジグザグに逃げようとする。
「おい!こっちだ!」
男性の声が聞こえた。
自然な金髪で碧眼で顔のつくりも西欧系の男性がこちらにやってくる。
「ディック、こっちだ!」
「そっちか!」
ディックは大柄で赤い眼を除けば日本人のような顔立ちだ。
こんな時に言っている場合ではないが、どちらも顔のつくりが整っている。
「スミス!頼むぜ!」
ディックが腰から下げていた剣を片手で空に向けた。
「ああ!」
スミスが何かごにょごにょと言うと雷がディックの剣に落ちた。
ディックは足だけでカニの上に立ち甲羅の隙間らしきところに剣を刺した。
カニはしばらく暴れていたがディックは剣を抜かない。
ディックはカニが倒れると剣を抜き、こちらを見た。
「あ、ありがとうございます。」
「すみません。」
響子と由枝が礼を述べると、スミスとディックはため息をついた。
「なあ、こいつら、本当に軍神の使いだと思うか?」
「弱いのは確かだ。」
「まあな。」
はい?
「すみませんが、「軍神の使い」とは何の話ですか?」
由枝が言うと、スミスが答える。
「そのまんま。カニごときに逃げ惑うとは。」
「スケールが違うわよ。」
響子が言うと、ディックがため息をついた。
「食用ガニしか見たことがないのか?全く、変なもん呼びやがって。」
響子の神経のどこかが切れた。
「変なもんで悪かったわね!そう思うんならさっさと元の校門に戻しなさいよ、さあ!」
「知るか!俺が呼んだわけじゃねぇ!」
「こっちだっていい迷惑よ!帰せって言ってんじゃない!」
「口論してる場合じゃない。とりあえず、本拠にもどるぞ。こいつら連れて。」
スミスが言った。
「どこよ。」
響子はあくまで強気に言った。
「お前らを呼んだ間抜けな雇い主の巣さ。」
「始堂さん、その本拠とやらに行かないと、ここでまたさっきみたいなカニが出たらどうしようもない。」
由枝が響子の分の鞄を持った。
四人は砂浜を後にした。
各個人の心境はまさしく自由主義状態だったが。
END
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*atogaki*
始めてみました。
由枝さんは他作品と別物と考えても、同じものと考えてもいいです。
何かあったら由枝が一番冷静そう、と思って書いたものですから。
更新速度に期待しないでください。