つながれた手



 あ、これはダメだ。
紙切れになるのも時間の問題。
淡い金色の髪の少女は携帯電話を操作した。
これでよし。
ここはとある私立小学校。
いこうと思えば大学までエスカレーターでいける。
少女はふと幼なじみを見た。
少女は株の売買で多額の資金を集めている。
株は結構好きだ。
でも、その次か、もしかしたら一番好きなのは幼なじみだ。
男子の輪の中心にいる赤毛の少年。
「でさー、ドラゴンコースターとかいうのが今度できるらしいぜ。」
「まじかよ!俺様も行きたいな!」
・・・チャンスかもしれない。
少女は携帯電話のメール欄を引き出した。
「ダグ、また今度メリーメリー遊園地にドラゴンコースター乗りに行かない?」
そう打ち込んで少年の携帯電話に送る。
返事はすぐ来た。
「リオン!俺様今週の日曜空いてるからいこうぜ!」
男子も女子もどよめいた。
おおー、とかひゅーひゅーとかまあそんな感じで。
こうして日曜日の予定が決まった。

 遊園地の付近で待ち合わせをしていたのだが、先に来ていたのはダグラスだった。
「おはよ。ったく、危うくババアに親子教室につれてかれるとこだったぜ。」
「おはよう。あら、あなたが着てる上着大きくない?」
「あー、クソ兄貴に借りたんだ。」
そんなことを言い合いながら小学生の自由パスを購入する。
「今ならすいてるかもしれねえし、さっさとドラゴンコースター乗ろうぜ。」
「え、ええ、いいわよ。」
リオンは思わず口ごもった。
ダグラスは不思議そうにリオンの顔を見たが、そのまま歩いていった。
「きゃあああああああああああああああああああああ!」
リオンは本当に泣きながら叫んだ。
言えなかったが、本当はジェットコースターは大の苦手で毎回こうなってしまう。
しかも、このドラゴンコースター、足の部分はない。
上半身だけ機械で挟んで乗る方式のものだ。
余計に怖い。
じゃああああああああああああああああ
ジェットコースター特有の金属が滑りあうような音がする。
「いやああああああああああああああああああああああああああ!」
大回転するジェットコースターでリオンは延々と叫んでいた。
ジェットコースターはやっと止まった。
リオンは涙を拭く。
「・・・あれ?もう終わったのか?」
ダグラスが首をひねった。
え?
「もう終わったのかって・・・・・あれだけ走ったのよ?終わったに決まってるじゃない。」
リオンが言うと、ダグラスは舌を出した。
嫌な予感がする。
「ごめん、ほとんど寝てた。」
「ウソでしょ!?」
ダグラスは深々と頭を下げた。
「悪い!じゃ、俺様だけもう一回乗ってくるから!」
「わ、私も行くわよ!」
「お前、ジェットコースター、ダメなんだろ。休んでろって。」
「いいわよ、付き合うわよ!」
こうして、リオンは再び泣きながら絶叫するはめになった。

 リオンは遊園地の一角にあるベンチに座った。
「俺様のせいで・・・・ごめんな。ジュースでもおごるぜ、何がいい?」
「オレンジジュースでいいわ。」
「んじゃ、行ってくる。」
リオンはため息をついた。
心の中では、リオンはいろいろと楽しく今日のことを想像していた。
実際にやってみるとこれだ。
「よう、ねぇちゃん。」
リオンは声をかけられた。
「ねぇちゃん、俺たちと一緒に遊ぼうぜ。」
見れば明らかに暴力的な服装と人相の人間が3人ほどいる。
「いえ、私は」
「おい!俺様の女に何するんだ!」
ダグラスがオレンジジュースを持って現れた。
彼の・・・女・・・・?
「あぁん、てめぇみたいなもやしはすっこんでろ!」
ダグラスはリオンに声をかけてきた男に腹を蹴られた。
他の3人も寄って来る。
ダグラスは顔以外の部分を徹底的に殴られたり蹴られたりしているようだった。
買ってきてくれたオレンジジュースは、ダグラスの頭にひっかけられていた。
たぶん、ダグラスの意識もとびかけているだろう。
やっと症状が楽になってきたリオンは無言で立ち上がる。
気分もましになってきた。
やることは一つ。
「私の男に何すんのよ!」
手加減ぬきで一人目を投げ飛ばす。
かかってきた男の一人を足に引っ掛けて転ばせ、腹を蹴り飛ばす。
あっという間に男4人は地面にひれ伏すことになった。
「ちょっと、大丈夫?顔以外あざだらけよ。」
「大丈夫だって、俺様、勉強とゴキブリ並みの生命力がある。次、どこ行く?」
体中が痛いだろうに、ダグラスはそう言った。
「そういう目で俺様を見るなよ。せっかく自由パス買ったんだ。あと一個くらいまわらねぇと元がとれないぜ。」
お互い、あのセリフを気にしないフリをした。
「じゃあ、おばけ屋敷でも行こっか。」

 ダグラスの苦手なものが雷以外にもわかった。
「ぎゃあああ、がしゃどくろが動いたぁ!」
ダグラスは痛みもとんでいるのかリオンにしがみつく。
どきっとはするが、原因が原因だけにあまり喜べない。
「怖いのに何で正式名称知ってんのよ。ほら、右に生首があるわよ。」
「ひぃぃぃぃぃぃ、夢に出るーーーーーー!!!!」
他の女子は知らないのよね、きっと。
リオンは思った。
恐ろしげな男性の集団に殴られてもめげない、そういう強さも、おばけを見て怖がる姿も。
「うぎゃあああああ、耳なしほういちから耳がもげたーーー!」
ダグラスは走り出した。
「あ、ちょっと、私を置いてかないでよ!」
少々ダグラスを美化していたようだ。
リオンも走り出した。

 やはり、最後はこれだろう、と言って二人は観覧車に乗った。
「普通じゃない遊園地めぐりだったわね・・・・。」
「ああ。予想外のことばっか起こったよな・・・。俺様も武道習っとけばよかったな。」
リオンは少し息を吸って、なるべく表情が変わらないように心がけつつ、言った。
「習わなくてもいいわよ。私がいるわ。私、ダグの女なんでしょ?」
ダグラスが耳まで真っ赤になった。
「それは・・・・、そのう・・・・」
「私に対する告白と思っていいわけよね。」
「そっちこそ、俺様をお前の男って言ったんだから、真に受けていいよな。」
二人とも夕焼けのように赤くなった。
「う」
リオンが声を上げた。
「ど、どうした?」
「・・・・我慢してたんだけど、ジェットコースター酔いで吐きそう・・・。」
「ちょっと待て。」
ダグラスは上着を脱いで、シャツ一枚になりそのシャツの末端部分をリオンに向けた。
「ここに吐け、これなら証拠隠滅できる。」
「で、でも。」
「いいから。」
リオンは結局ダグラスのシャツに吐いた。
リオンが出すものを出し切るとダグラスは器用にシャツを脱いで上着をしっかり着て上半身が見えないようにした。
こうして、不審に思われることなく彼らは観覧車から降りた。

 リオンはトイレの近くのベンチに座っていた。
ダグラスはトイレでシャツを洗っている。
いくら武術ができてもこれじゃあねぇ。
リオンは反省した。
できないことをするものじゃない、と。
「悪い、待たせたな。俺様も吐いてた。」
「ダグも?」
「ああ、蹴られた腹がうずいてな。」
「そろそろ帰らない?」
「そうだな。」
二人は遊園地の出口に向かって歩き出した。
「あのさ。」
ダグラスが少し恥ずかしそうに言った。
「俺様はお前が俺様のこと、好き、って思ってもいいんだよな。」
リオンは顔を隠すためうつむいた。
「ええ。もちろんいいわよ。」
「俺様もお前のこと、好きだからな!」
ダグラスが地面を見たまま言った。
そして、お互いに何も言うことなく手を結ぶ。
こうして小さなカップルが誕生した。

 中等部の生徒会室でダグラスはリオンに締め上げられていた。
「ちょっと!またデート中止ってどういうことよ!」
「いや、塾の英語上級選抜テストが・・・。」
「問答無用!」
それを呆れたように見つめている少年が言った。
「何もこっそりデートに行かなくても、二人でいっしよに帰るとかそういうコミュニケーションはとれないわけ?」
「ダメよ。別れさせられるわ。」
「俺様もバレたら別れさせられる、絶対。」
少年はますます呆れ顔になった。
「ま、そうしてコミュニケーションをとるのもいいんじゃないの?」
「アーク、俺様を見捨てる気か!」
「だって、それがコミュニケーションなんでしょ?思う存分に楽しみなよ。」
こうして、小さなカップルは不思議なコミュニケーションをとりつつも、互いを見捨てないという形で未来へと進んでいくのであった。
END




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*atogaki*
かなり不思議な話になりました。
ダグラス、しばらくめちゃくちゃ痛いよ、あざ。
逆転裁判系の着メロ聞きまくりながら書いたのがいけなかったのだろうか。
いっぱい持ってるんだよね、逆裁の着メロ・・・。