ほぐれない糸

アーク少年の朝は、携帯電話のアラームによって始まる。
料理など一切できないため、適当にパンを買ってきて食べる。
そして、家を出ると。
「おはようございます!」
ランドセルをせおった愛らしい少女に声をかけられた。
「あ、えっと、おはようございます!」
アークも返事をする。
変な表情になっていないか、とても心配だ。
「荷物多いね。」
「はい、今日はいろんな勉強がありますから。」
アークは荷物を持ってあげようかあげまいか迷ったが、後者の行動に決めた。
ここまでの文章である程度推察できるように、アーク少年は自分の家の隣の家に住んでいる彼女のことが恋愛という意味で好きだ。

 エリィシア、それが彼女の名前だ。
アークはエスカレーター式の学校に中学から入った。
何か得体の知れない魅力でもあるのか、アークはよく告白された。
アークはそのとき、だいたいこう言ってみる。
「料理ができる人が好みなんですけど、あなたは料理できますか?」
学校に通っている子供は大半がお金持ちなので、自分で料理をする機会は家庭科ぐらいしかない。
しかも、ほとんどの子(アーク含む)が料理ができない。
一発で他人の顔と名前を覚えられるアークにとって、料理ができるのかできないのかは顔でわかる。
そこでこう言ったらアウトだ。
「ええ、私、料理できます。」
アークはこういう意味でのウソは嫌いだ。
にっこり笑って、言わせてもらう。
「僕も料理できないんですよ。よく友人に作ってもらいます。友達としてやっていきましょう。」
で、女の子は泣いたり落胆したりしながら去っていく。
エリィシアは小学校のころからこの学校に来ている。
乗る電車が一緒なのでたまに話をする機会がある。
そのとき、アークは一度聞いたことがある。
「ねぇ、料理とかできる?」
返事はこうだった。
「ごめんなさい。私、全くダメなんです。」
今までに正直に言う人間がいなかったせいか、アークは嬉しかった。
「僕も全然料理できないんだ。」
そう言って、学校の最寄りの駅に着くまで話していた。
そして、それから。
アークは電車に乗るときにいつも彼女を探していた。
会いたかったから。
彼女は小学5年生なので校舎も違うので、電車でしか会えない。
いつの間にか、アークは彼女に恋していた。

 というわけで、今日はラッキーだ。
「勉強、うまくいってる?」
「はい、ついていけます。あの、アーク先輩は・・?」
「ついてける、っていうか僕の方が進みすぎみたいで授業聞いても知ってることばっか。」
「でも、ちゃんと聞かないといけませんよ。」
「忠告ありがと、あ、次だね。」
「そうですね。次で降りなきゃ。」
次の駅で電車を降りて、彼女と別れた後、アークはため息をついた。
いくら彼女を愛していても、無駄なことだ。
彼女の祖父は政治家、母親は有名デザイナー。
要は血統書付きだ。
自分は、といえば産みの母に対する人質。
学年首席だろうが格闘技が上手だろうが関係ない。
完璧なまでの雑種。
それでも、愛していると、楽しいから。
だから、アークはあえて自分が彼女を愛しく思う気持ちを殺さない。
ただ、会えるだけで嬉しいから。
ずっとこのままでもかまわない。
アークはそう思っている。
END






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*atogaki*
恋に恋するような少年でした。
でも、アークは母親のことがあるからお付き合いはあまりしたがらないかも。
いつ父親に切り捨てられるかわかんないし。