冬の休み終わり




1月のはじめのある日。
閑静な住宅街にある和風の一軒家の一室は静かだった。
その部屋には6人の中学生たちがコタツに足を突っ込んで座っていた。
彼らの目の前のつくえに置かれているのは各種問題集だった。
「アーク、ここの証明どうすりゃいいんだ?」
赤毛の少年が黒い髪の少年に問題集を見せた。
「ダグ、何で僕に聞くのさ、学年一緒なんだからアリストに聞けばいいじゃん。」
「あー、悪い、オレ数学苦手。」
アリストが即答する。
アークはため息をついた。
「一応、わかるけどね。」
そう言ってアークは複雑に描かれた四角形を指しつつ、説明を始めた。
ダグラスは、うんうんとうなずきながら説明を聞く。
「あら、それ塾の問題?」
長い金色の髪の少女が赤毛の少年の問題集をのぞきこむ。
「そうだ。オレさまは数学がな・・・、物理もイマイチ。英語なら準2級持ってるけどな。」
ダグラスが答えた。
アークも話に加わる。
「あ、取れたんだ、準2。僕まだ3級しかとってないよ。」
「それは英語が苦手わたしへのあてつけかしら?」
「いや、違う、違うぞ。オレさまは、リオン、お前くらい数学ができればいいと・・・。」
それで満足したのかリオンは英語の勉強を始めた。
アークが一応付け足す。
「リオンは毎年株で儲けてるんだからすごいよ。僕は逆立ちしても無理だね。四季報なんていいかげんにしか読んでないし。」
リオンは勉強する手を止めた。
「ちょっとアーク、四季報くらい読みなさいよ、投資家なら。基礎よ。」
「うん、わかってるんだけど・・・授業中に読むわけにもいかないしさ。」
アークは何となくその場にいる中学生の顔をぐるりと見た。
全国模試のトップクラスの人間だけがいる。
すさまじい偏りだ。
「それにしても、成績トップの人間ばっか集まったねぇ。」
「そうだな。アークが言うと嫌味っぽいけどな。」
ダグラスがアークを横目で見た。
「一年の模試でトップ、さらに二年の勉強までわかるんだからな。自信なくすぜ。」
「別に自信なくさなくてもいいよ。アリストによると僕はできすぎらしいし。」
「らしい、じゃなくて確実にできすぎだ。」
アリストが塾の問題集から目を離さずに言う。
アークは自分の英語の問題集に目をやる。
ここに今さら学校の宿題をやる人間はいない。
塾の予復習に追われているのだ。
「さて、これ読んだらコーヒーでも飲むかな。」
アークがそう言って伸びをすると、アーク以外全員が手を上げた。
みんなコーヒーが飲みたいようだ。
「アークのことだし、英文なんか5分かからねぇだろ。」
「そうだよな。代わりに、模試のときもトイレに行くと行ったっきり教室に戻れないからトイレに行けないけどな。」
「ちぇ、うるさいなー。」
話しながらアークは英文を読んだ。
郵便宅配人と半分ボケた老婦人の心温まるらしい話のようだ。
ボケた老婦人が郵便宅配人と自分の息子と間違える。
そこから二人の交流が始まる。
読んでいて眠くなるほど刺激のない話である。
「あぁー、眠い・・・先コーヒー淹れるよ。アリスト、付いてきて。」
「え?オレか?別にいいが。」
「あの、私も行っていいですか?」
黒檀のように黒い髪の少女がおどおどと言った。
「もちろん。じゃ、アリスト勉強してていいよ。」
マリアに付き添ってもらって、アークは部屋を出た。

 アークとマリアは広く寒い台所で湯を沸かせていた。
「ありがとう。これでコーヒー一気に運べるや。」
「いえ、そんな・・・。」
マリアは恐縮したようだった。
「うん、正直に言ってもありがたいもん。おどおどしなくてもいいよ。」
アークが言うとマリアは嬉しそうに笑った。
「そう言っていただけると・・・嬉しいです。」
「そっか、よかったや。」
アークも笑う。
「そういえば、ちょっと古典でわかんなかったことがあるんだけど、後で聞いていい?」
「もちろん大丈夫です。」
弾むような弾まないような微妙な会話は湯が沸くまで続いた。

 コーヒーを持っていくと、部屋に残っていたメンツは問題集から目線を外し、好き勝手なことを言っていた。
「もう、学校なんか遊園地みたいなもんだよな。」
「そうだよな、オレさまも毎日行くテーマパーク感覚だ。」
「ダグラスったら。そんなこと言ってるとまた遅刻して掃除当番に当たるわよ。」
「へぇー、掃除当番に当たったんだ。」
アークが口を挟むと、ダグラスたちはアークとマリアを見た。
それからまた話を再開する。
「くそ、バレたか。言いたくなかったのに。」
「そっかーそれで生徒会に遅れたんだ。」
「あー、生徒会に参加させられなくてよかったぜ。」
「アリストひどいぞ。オレさまは二年目だ!」
「うちの学校、基本的にエスカレーターだから生徒会抜けられないわよ。高校受験どうするのよ。」
「うっ、さ、参加しつつ勉強するしかないだろ。高校は一般試験しか受け付けてないとこ受験するんだ。」
「ひょっとしてその姿は再来年の僕の姿かい?」
「たぶんそうだろ。」
「うへぇ。」
コーヒーの香りに包まれて、話は途切れることもなく続く。
「このコーヒーなかなかいいな。どういう豆挽いたんだ?」
「残念、インスタントコーヒーだよ。豆挽く機械ないもん。」
「ふっ、そんなにしゃべってばっかいると、オレ実力テストで一位とるぜ。」
「あっ、デュリーひどい!僕も勉強するっ!」
こういった感じでその日は過ぎていった。

 後日、アークは中学校の廊下で人だかりのなか、冬休み明けの実力テストの結果発表を見ていた。
三年生のトップは見知らぬ誰か。
二年のトップはダグラスで3位にリオン、6位にアリストがランクイン。
一年のトップはアークで2位がデュリー、5位にマリアが入っている。
首席の地位は何とか奪われずにすんだ。
アークは大きく息を吐いてその場を立ち去った。
END






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*atogaki*
はい、超人畑です。 親にはもっと濃いキャラを出してみては?と言われました。でも、もっと濃いキャラって・・・・コントロール不能になりそうだ