ニューイヤーズホリデイ

 12月31日のとっぷりと暗い時間帯。
静かな高級住宅街の一角にある和風の大型の住宅の中の一室は賑わっていた。
10人ほどの人間が同じコタツに座り、テレビを見ていた。
10人とはいってもうち7人ほどは子供である。
みかんを食べたり、勉強をしていたりと態度も様々だった。
「そいでよー、アーク。それからもクリスマスパーティーのあいさつ回りが続いてよー、オレさま、何人に頭下げたか・・・・。」
赤毛の少年が手元の問題集を見ながら愚痴をこぼす。
「ダグはいいじゃん、僕なんか絶対に顔を表に出すなって言われたんだよ・・・。」
アークと呼ばれた少年も国語の問題を解きながらこぼす。
「フリードリヒ、そこに新聞ないか?」
大柄な青年が、ノート型パソコンと格闘している青年に尋ねている。
「知らないぞ。フリスク、お前がさっき読んでいたのではないのか。」
「フリスク、わたしが読んでいる。」
無表情な青年がフリスクに新聞を渡す。
「なあなあ、オレ、今日無線通信機作ってきたんだ!見てくれよ。」
「あのなあ、デュリー、何で顔をつき合わせりゃ済むところに通信機なんか持ち込むんだよ。しかも、でかすぎないか?」
デュリーは五センチ以上の厚みを持つ大型の箱のようなものを両手に一個づつ持っている。
話し相手をしているアリストはその大型の箱のようなものを見て、ため息をついた。
「マリア、次どうすればいいのかしら?」
金色の髪を長く伸ばした少女が手元に編み物を持ちながら尋ねると、黒檀の髪の少女がその手をのぞき込む。
「ええっとですね・・・・、ここを・・こう・・・うん・・・・・それでいいと思います。」
「リオン、一体なんだよ、それ?」
「ダグ?ああ、クリスマスにあげるつもりだった手編みマフラーよ。」
「家のクリスマスパーティーに行かなきゃならんってオレさまが言った瞬間に、おまえが泣いてヒステリー起こして全部ほどいたヤツか!?」
「そうよ、せっかく努力して作ったのに。」
「でも、全部ほどいたのおまえ・・・。」
「もう、ダグのせいよ。」
一体何がなんだか、といった風だ。
アークはよく考えてみた。

 そう、本日の正午まではアークが一人暮らしをしている大きくがらんとした屋敷だった。
この部屋のコタツもこんなに大きくなかった。
正午に、新年は自宅以外で迎えたいと前から言っていたダグラスとリオンが泊まりに来た。
次に、デュリーが変な機械片手にやってきた。
さらに、新年は自宅以外で迎えたい委員会メンバーのアリストやマリアがやってきた。
そこに、大学に通っている友人のフリスクがやってきて、これだけの人数がいるのならこたつを補給しようと言い出し、その増強にフリードリヒがやってきて・・・。
最後にディトナが家にいるとどっさり仕事を任されそう、と言いつつ泊まりに来た。
こうして、正月を他人の家で過ごしたいメンバーがそろい、今に至る。

 フリスクが青黄歌合戦に番組をかえた。
薄く大きいプラズマテレビに青黄歌合戦のもようが映る。
アークは大きく声を出した。
「で、みんなこっちに泊まるの?」
「ここまで来たらそうするつもりだ。」
「すまないが、そうするつもりだ。」
「いいじゃねぇか、人数多い方が楽しいぞ。」
いろいろな声が飛び交う。
要するに全員泊まるということだった。
この状況下でも勉強をしている自分とダグラスはすごいのかもしれない。
アークは塾の問題集に目を通していた。
「フリスク兄貴!数学のこの問題の証明ってどうすればいいんですか!?」
ダグラスが話しかけるとフリスクはすぐにダグラスの指している問題を見た。
フリスクやフリードリヒはアークたちの通う私立中学の先輩である。
それが。
「忘れた!フリードリヒわかんねぇか?」
一挙にやる気が削げる一言である。
「ここか?これはな・・・」
フリードリヒもやってきて説明を始める。
アークは再び問題集に目を向ける。
しかし、何か視線を感じる。
顔を上げてきょろきょろと周囲を見ると、マリアと目が合った。
「マリア、どうかした?」
アークが声をかけると、マリアは微笑んでまた彼女の編み物に目を落とした。
別に用はなかったらしい。
アークはまだあきらめず問題集を見た。
ぶー・・・ぶー・・ぶー・・
アークの携帯電話が震えた。
メールがきたらしい。
開いてみると題名が「あけおめ」で文書の内容が「あけおめ。ことよろ。」だった。
送信元はいろいろお世話になっている組織の幹部からだ。
深夜0時の混雑を避けてメールを送ったらしい。
お互い住所は知らないのでメールでやりとりしている。
いつの間に時間が経ったのか、除夜の鐘が鳴り出した。
アークは問題集を閉じた。
「俺は行くが、これから混んでる神社に参りに行くやついるかー?」
フリスクが立ち上がると、フリードリヒもノート型パソコンを閉じて立ち上がった。
「僕も!」
「オさまも!」
「私も!」
いくつもの手が挙がり、結局全員で行くことになった。

 アークはフリスクと手をつないで歩いていた。
方向音痴の極まったアークの場合、こうでもしていないと完全に迷子になるからだ。
奇跡的に他のメンバーも混雑した中ではぐれずにいた。
「五円でいいよな、金は。で、何祈る?」
「健康祈願。」
アークは即答した。
とりあえず、健康でないとできなことは多い。
インフルエンザにかかったりしたら、行動はさらに制約される。
フリスクは不思議そうに首を傾げた。
「今まで風邪にすらかかってないのにか?」
「ま、健康第一ですから。」
「オレさまはリオンといられる時間がもっと取れますように、だ。」
「バカップル事情はわかったからもういいぜ。」
いろいろ何人かで話していると、アークは何となく不思議な気がしてきた。
ここにいる人間の年齢さや立場に、だ。
アーク自身は世界的金持ちの愛人の息子で、ただの中学生である。
それが今、フリスクのような大学生や先輩にあたるダグラスとため口をきいたりしている。
何の磁場があるのかわからないが、とにかく不思議な気がしてしょうがない。
健康よりも、人脈祈願でもしようかな。
アークは少し迷いそして祈った。
END




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*atogaki*
正月の話を書いてみたつもり。
つい最近、友人と話をしていて、これって登場人物が濃いと言われ、初めてキャラクターが濃いことに気付きました。
でも、そのわりに今回は話が薄いと思うのですがどうでしょう?