押し付け会



夕暮れをいくらか過ぎた時間帯の学習塾で。
座ってテキストを見ていた黒い髪の少年が顔を上げた。
その顔を見て、黒い髪の少年の横に立っている赤毛の少年は ニヤリを笑う。
「おいおい、アーク、ほんとに知らなかったのか〜?」
黒髪の少年は嫌そうに先輩である赤毛の少年を見た。
「ダグ、僕はやだって。僕だって高校受験のために今から勉強してるのに。」
「おれ様だって、お前と一緒の高校受験のために勉強してるさ。しかし、テストで首席になったのが運のつき、今に至るんだ。」
ダグ、本名をダグラスという少年は肩をすくめた。
「いやだってば。僕はおとなしく帰宅部を満喫したいんだ。」
アークはそう言ってため息をついた。
「そのうち、エイフェリア先生にも言われるぜ。生徒会に入れって。」
塾の終了後、アークはダグラスに勉強についてわからない点があると言われ、現代国語をダグラスに教えていたのだが。
ひょんなことからこんな話題になった。
「生徒会ってクラブ活動の統括とか体育祭、文化祭の計画とかやるんでしょ?」
「そうさ、国語を教えてもらった礼に忠告したんじゃないか。おれ様が会長、リオンが会計、これでお前が入ったら生徒会にいる友人は3人目だな。」
アークは開いていたテキストを閉じた。
生徒会には、アークは参加したくなかった。
ただでさえ学校と塾の授業についていくための予復習に余念がないのだ。
生徒会にまで参加したら本気で体力勝負になりそうである。
「だーかーらー僕は参加しないって。」
「でもな、成績上位者がなるのが我が校の風習なんだ。エイフェリア先生から逃げるのは難しいぞ。」
それはアークも思っていた。
アークのクラスの担任でもあり、生徒会を担当するエイフェリア教師。
少しでも逆らうといきなりヒステリーを起こすことで有名である。
内申書が重要なこのご時世において、逆らうなどということは不可能に近い。
内申書を捨てる気なら逆らってもいいが、一学年上の勉強までわかるアークでも生徒会までやりたくなかった。
「あきらめろって。やってみたら案外楽しいかもしれないぞ。おれ様だってギリギリのスケジュールなんだ。」
伝統でも何でもいいから逃げたい。
アークは本気でそう思った。

 翌日の昼休み。
アークはエイフェリア先生を前にしてぐったりしていた。
「いろいろと習い事をしていて忙しいはずのダグラス君だって参加しているのよ。」
ダグは単にリオンと共通の時間を持つために参加してるんだと思うよ。
アークはお付き合いしている二人の顔を思い浮かべた。
習い事で忙しいダグラスは親に参加の許可を得やすい生徒会活動をしてリオンと共通の時間を持っているのだろう、とアークは思っていた。
二人はクラスまで違うので生徒会でもないと全然会わないという生活になってしまう。
「でも、僕は成績がいいだけで、ダグラス先輩みたいなカリスマもありませんし。」
「あのね。」
エイフェリア教師は笑顔で言う。
「生徒会に必要なのは、成績の面でカリスマのある人なの。ダグラス君だって同じ学年の子からはとても尊敬されているのよ。」
いや、尊敬されなくてもいいからさ。
消費者金融のコマーシャルでも聞いているような心地がする。
表面のいいとこだけ言うような。
「成績の面でのカリスマと言われましても、僕、中間で1位とっただけですよ。これからはわかりません。」
「あら、これから成績下げるつもり?」
消費者金融の笑顔が、アークをとらえた。
逃げるのはどうも難しそうだ。
時間をどぶに捨てる覚悟が必要なようである。
よし、どうせなら。
「でしたら、デュリーくんと一緒に立候補していいですか?」
「デュリーくんも確かに成績はいいわね、わかったわ、楽しみにしているからね。」
エイフェリア先生の一言でデュリーも巻き込むことに成功した。
あとでデュリーも職員室に呼ばれるだろう。
成績だけで他人を評価する傾向があるらしいエイフェリア教師をこっそり軽蔑しつつ、アークは職員室をあとにした。
END






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*atogaki*
また変な話を書きました、時系列が混乱しつつあります。
文章が池袋ウェストゲートパークちっくかもしれませんが平にご容赦を。
でも私も嫌いな人をよく小説に出すんだよなあ・・・・ひょっとしてマゾ?