夢みる者



あ、聞き逃した。
「ダグラス、さっき何か言った?」
黒い髪の少年が、赤毛の少年に英語で尋ねる。
「アーク、お前最近変だぞ。」
やや顔色の悪いダグラスが、アークを見つめる。
「ゴメン。ちょっと進路のことがあってさ。」
ここまでの会話は英語で行われている。
彼らの英語能力は非常に高かった。
それを見て、担当の講師が手に持ったボードに何やら書きこむ。
きっと褒め言葉だろう。
アークはそう思った。
「あ、それからまたお前の家泊まってってもいいか?」
「いいよ、その代わり、依頼されたホームページ作るの手伝って。ダグラスの方がパソコン詳しいし。」
「分け前はあるんだろうな。」
「依頼のお金によるけどそれでもいい?最大でも依頼料金の半額しか出せないけど。」
「いいぜ。お前にはしょっちゅう家に泊まらせてもらっているからな。半額も出さなくていいぜ、オレ様は1000円でもいいくらいだ。」
ここまでの会話も全て英語。
また、担当講師がボードに何か書きこんでいる。
それから。
「はい、自由会話終了。一位は誰かな?」
言わずとしれている。
「ダグラス君とアーク君です!」
他の中学生たちの視線が体に刺さり通り抜けてゆく。
褒められても大して嬉しくなさそうな顔をしているのがよくないのであろうか。
何かメリットがあるならもっとがんばるし嬉しそうな顔もするが、何のメリットもないのに喜ぶのもばかげている。
見るとダグラスもあくびをしている。
こうしてみるとダグラスとアークは似た者同士と言えた。

 アークの広い上見事な和風の屋敷でダグラスはノート型のパソコン画面を操作していた。
「あのなあ、アーク。フラッシュもぎりぎりまでがんばれば、ちゃんと容量に収まるんだ。ちょっと見てみろ。」
ダグラスが呆れた、と言いたげにアークを見た。
「え?ホント?」
「ああ。ほら、ここのこの文を減らせば・・・・。」
「ふむふむ。そこか、止まるかと思っていじらなかったんだ。」
「大丈夫。オレ様に二言はない。」
こうして、依頼されたホームページは容量ががさっと減り、よりいっそう軽いホームページが出来た。
「ありがと。さあ、これを圧縮して送ってと。」
アークがそうしていると、ダグラスが唐突に聞いた。
「で、お前どうしたんだ。進路相談の開始時期からおかしいぞ。」
「そ、そう?普段どおりだと思うんだけど。」
アークが言うと、ダグラスはため息をついた。
「オレ様なんかもう一回受験して別の高校行くんだぜ。あーもう、絶対兄のせいだ!」
「実は僕ももう一回受験しようかと思ってるんだ。」
ダグラスの目が大きく見開かれた。
「お前もオレ様と同じ高校に来るとか?」
「違う違う、アメリカンスクールに行きたいんだ。」
再度ダグラスは驚いたようだった。
「アメリカンスクールって寝たの寝ないのとうるさいらしいぞ。」
「大丈夫。誰と誰の息子だと思ってるの?」
アークはにまっと笑う。
「アメリカンスクールでアメリカを満喫してから、渡米、で大学に行ってアメリカンドリームを目指す。」
ダグラスがため息をついた。
「何か壮大すぎるぞ。」
「日本で成功する方が難しいよ。父が邪魔になる。あんなのの後光なんかあてにしたくない。」
「気持ちはわかるけどな。でも、母親はどうするんだ?お前が言ってるような母親だったら、間違いなく分け前をぶんどろうとするぞ。」
「その時はこの思い出の45口径を額に当ててやるさ。」
そう言ってからアークは息を吐いた。
「だいたい、この7年間僕が生きてこれたのは血縁以外のおかげなんだ。今さら出てきたって遅いね。」
「フリスクさんやフリードリヒさんのおかげか?」
「ううん、ダグラスもリオンも他のみんなも、いてくれたから僕はつぶれたりしないで生きてこれた。母とは心の中で縁が切れてるのさ。」
アークは喉の奥で笑う。
「僕の憧れはヘッジファンドだけど、まあ道徳的にどうかと思うから他の案を考えるさ。・・・それこそ、僕は誰と誰の子供なんだい?」
ダグラスはなぜか一瞬ぞっとした。
怖い笑い。
こいつならやれるかも。
「がんばれ、オレ様もがんばるから。」
「僕もがんばるよ。敷かれたレールにはもう乗らない。」
こんな感じの会話をしてから彼らは塾の課題をやり始めた。
END




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*atogaki*
たちの悪いアークでした。
英語はまあニュアンスと言うことにしてください。
アークにとって周囲の人が(血縁除く)支えてくれてるという自覚があるからヘッジファンドに行かないんじゃないかと思います。