びっくり文化祭




屋上から金をかけて作った垂れ幕が、さわやかな風に揺られている。
なぜかアドバルーンまで飛んでいる。
これがこの学校の文化祭なのか。
黒い髪の少年は食べ物の香りに惹かれつつ、校門に向かった。
校門には浮世絵のような刺繍がなされている布が、ポールの一番上に輝いていた。
生徒会のメンバーでも祭りの後以外は忙しくないのでアークはテキトーに歩く。
まだ昼でもないのに何か食べたくなってくるくらい食べ物の出店が多い。
「よっ、アーク。」
赤毛の少年が声をかけてきた。
一緒にきれいな金髪の少女がいる。
「ダグにリオン。文化祭二人で一緒に見て回らないの?」
「もちろん回るわよ。でも、アーク、一人でいて視線感じない?」
リオンに言われるまでもなくアークは感じていた。
特に女子の視線が痛い。
「やっぱ、お前ならもてるよな。」
ダグラスが笑いをこらえている。
そこに黒い髪を背中まで伸ばし、制服をぱりっと着こなした少女がやってきた。
なぜか、アークに近付いてくる。
「すいません、アークさん、ですわよね?」
「ええ、まあそうですけど。」
アークが答えると彼女は微笑んだ。
「よろしければ、わたくしとお付き合い、していただけません?」
アーク自身だけではなくダグラスとリオンも目を見張っていた。
普通、二人っきりのタイミングを狙ってやるものでは?
アークもそう思った。
「すみませんが、お名前を教えていただけますか?」
「セシリア=ロウエンと申します。」
そう言うとセシリアはちょっと色っぽい目でアークを見た。
色っぽい目など友人たちといれば自然と慣れてしまうため、眼力は役に立たなかった。
「僕には好きな人がいますので、お断りさせていただきます。」
アークは一礼してその場を去ろうとした。
しかし、セシリアに左手をつかまれる。
「せめて、この文化祭の間だけでも付き合ってくださらない?」
セシリアはアークの手首をがっちりつかんでいる。
つまり、逃げるのは不可能。
「しょうのない方ですね。仕方がない、付きあわせていただきます。」
アークが言うと、セシリアはやった、と言いかねない調子で歩き出した。
遠くからダグラスのがんばれよー、と言う声が聞こえた。

 セシリアはなぜかクラスごとの行事でやっているオバケ屋敷に行きたがった。
意図は読めるがかまわない。
文化祭だけ、だ。
嫌な予感がしないでもないが、よしとする。
二人がオバケ屋敷に入ると横の教室の笑い屋敷の声が聞こえてくる。
あーははははは、ひゃーーーーーーはははははははははははは。
ムードは薄い。
セシリアは顔をしかめつつオバケ屋敷内を珍しいものでも見るように見ていた。
10人くらい脅かし役がいるぞ。
人の気配に聡いアークは感じた。
しばらく歩くと下からのスポットライトが映し出した、理科室にあった骸骨の模型の影が見えた。
影は実物より大きくなかなかの迫力だ。
なるほど、一人はスポットライト係だったわけだ。
「きゃあああ!」
そう叫んで、セシリアはアークに抱きついた。
あの、タイミングずれましたよ?
よっぽど言ってやりたかったが、黙っておく。
またしがみつくセシリアを左肩からぶら下げてアークは歩いていった。
「コロシテヤルー!」
目の前にいきなりなまはげのような衣装を着た少年が高い声をあげ、包丁を振り回した。
フッ
少年が振り回した包丁が彼の手からすっぽぬけて、アークの右腕に刺さった。
抜くと思いっきり血が出ることぐらいはわかるので凶器は抜かない。
今の状態でも血がつつと流れている。
セシリアが自分の制服に触れようとしたが、アークが左手で止めた。
「すいませんが、保健室まで一緒に来ていただけますか?」
アークが言うと、仮面の下でおそらく真っ青になっている少年に言う。
こうして3人は保健室に向かった。

 包丁が刺さったという前代未聞の事態に、保健員は泡を吹きかねない顔になった。
アークは保健員に車で病院に連れて行ってくれるよう頼んで、ベッドで休んでいた。
目を瞑る。
ああ、最悪の文化祭だ。
生徒会のみんなとゴミ拾いする方がずっとよかった。
思いにふけっていると、セシリアがベッドの横に座った。
アークが軽く寝ているとでも思ったのか彼女は、アークの唇に自分の唇を重ねた。
「ごめんね。」
アークはすっと目を開いた。
タイミング的に寝ていなかったことは確かに。
「少々ルール違反ですね。」
セシリアは泣き出した。
大学生の友人たちは女の涙は面倒だと言っていたが、本当にそうだ。
この場面で僕に何をしろと?
「僕は病院に行きますから、生徒会の人に言っておいてくれませんか?」
すると彼女はまた制服に触れた。
やばい。
アークも左手で制服に触れる。
二人が出したのは拳銃だった。
アークが45口径で、セシリアが35口径。
どっちにしろこんなものをぶち込まれたらだいたい死ぬ。
「・・・私のものにならないなら、と思ったのに何でそうさせてくれないの?」
「僕にだって生存本能くらいあるさ。もうすぐ、先生が戻ってくる。早くしまった方がいいんじゃないかな。」
二人は同じタイミングで拳銃をそれぞれの制服の隠しポケットにしまう。
そこに保健員が戻ってきた。
さあ、病院に行きますよ。
そう言われてアークは保健員についていった。
セシリアとは目を合わさずに。

 後日、アークの家で。
「お前、包丁の傷、治んのにどれだけかかるんだ。」
ダグラスがアークの腕を見て言った。
「一ヶ月は見ておいてって。」
ため息をついて言う。
「災難だったわね。」
リオンもアークの腕の包帯を見ている。
「でも、ある意味セシリアさんとお前、似たような人種だな。」
ダグラスがにやっと笑う。
「拳銃突きつけあう中学生がどこにいるんだっつーの。ナイフならまだしも拳銃だぜ。」
「ああ、彼女、ロウエン組の組長のお孫さんだから。」
「え。」
「だからいつも拳銃を持ってるんだよ。護身用に。」
「じゃあ、お前は何で?」
「護身用。」
「護身用に何で45口径なんか持つんだ。」
「僕が小学校の頃にある人にもらった大切な銃なんだ。それで護身用に。」
「あ、思い出話はしなくていいからな、嫌な予感するし。」
こうして、文化祭は無事終わった。
END




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*atogaki*
文化祭編でした、けっこうあっさりした文化祭だったような。
生活の実態を見たらほぼ全員ビビってアークにはなしかけなくなりそうですが、アークもててます。
洋裁に強いのは実は武器を隠すため、というのがお子様っぽくてよいかと。