黒い髪の立派な制服を着て、規定のカバンを持った少年は学内を歩いていた。
やっとおめあての扉が見つかった。
少年が扉を開けると、三人くらい座れそうな古びたソファがテーブルをはさんで二つある。
その片方に赤毛の少年と、金髪の少女が座っていた。
どちらも手にタッチパネルがうりのゲーム機を真剣に見つめている。
「ダグもリオンも何してんの?」
そう聞くと赤毛の少年がうんざりした様子で、ゲーム機から目をそらした。
「・・・・・100マス計算のソフトだぜ・・・アーク、お前もやるか?」
アークは首を傾げた。
「え?別に僕はできるからどーでもいいけど。」
一瞬、場の空気が凍った。
ダグラスが大きなため息をつく。
「いいよなー、できるやつはさー、いいよなー。」
そう言いながら、ゲーム機(本来は)の電源を切った。
リオンもため息をつきながらゲーム機の電源を切る。
「リオンは何してたの?」
「英語漬かりよ・・・・・。また今日も低得点だわ。」
言ったらまずいよね。
アークは心の中で思う。
違う友人に英語漬かりを借りたが一ヶ月もたたないうちにマスターしてしまった。
しかも、かなり幼い頃から英会話教室にも通っているので、英語は普通にしゃべる程度ならなんとかなる。
「二人とも、ここ生徒会室だよ。見つかったらやばいって。せめて、扉のところについたてを置くとか対策講じてからやりなよ。」
アークはダグラスたちの正面のソファに座った。
「僕だってTOEICやTOFLEの点数が伸び悩んで困ってるんだ。全く、これ以上何やれって?」
「げっ、どっちも受けてんのか?お前はいい、伸び悩んでろ。俺様の深刻な100マス計算に比べたらいくらかマシなはずだ。」
「そういうことはどうでもいいけど、デュリーまだ?」
「そういや、見てないな。」
「はい、文化祭の要旨。職員室でもらってきといたよ。」
「ありがと。早速読まなきゃね。」
リオンはすぐに要旨を見出した。
「もー、俺様はイヤなんだよ。正方形の箱を切ってみたりして角度をもとめたりしてさ。いいじゃん、せっかくの正方形なんだから切らなくてもいいじゃんよ。」
ダグラスはソファにべたっと倒れこんだ。
「英語に比べればマシよ。何で世界共通語なのよ、勉強しなくても翻訳ソフト使えばいいじゃない。」
要旨を見ながら顔も上げずに、淡々と言った。
「僕も仲間に入れてよ。何で千年前の文章なんか読まなきゃいけないのさ。しかも、内容が「もっと勉強しとけばよかった」だってさ。嫌味かよ。」
三人で不毛な文句を言い続けていると、扉が開いた。
シルバーブロンドの少年が部屋に入ってくる。
その少年の手には規定のカバンと異常に大きいボストンバックがぶら下がっている。
「遅れて悪い。ちょっと担任に捕まってた。」
「デュリー、今度は何したの?」
「ちょっとこのだな・・・」
言いながら大きなボストンバックから、やはり工業デザインというものを完全に無視した物体が出てくる。
今回は大きめだ。
「担任がさー、これ組み立てたくらいで怒りやがってさー。」
何やらがちゃがちゃと伸ばす。
ちょうど頭をカバーするサイズだ。
「何コレ?」
リオンも要旨から目をはなして謎の機械を見た。
「いつになく長いわね。」
ダグラスもソファから起き上がって謎の機械を見た。
「・・・・もしや、頭に何かするやつか?」
「ピンポーン!」
デュリーが嬉しそうに言った。
「ドライヤー、なの?」
「ふっ、聞いて驚け、余が作ったのは・・・」
またゲームの口調がうつっている。
「育毛機だ!」
はぁ?
そう言いたげな沈黙が流れた。
そういえば、担任はバーコード頭だったような・・・。
「もしかして、担任に試したの?」
アークが聞くと、デュリーは指を振った。
「実験台としてアークを探していた見つかった。」
アークが実に嫌そうに機械を見た。
「やめてよ、ただでさえ髪の毛多くて洗うと乾かないんだから。ダグで実験しなよ。多分、プレッシャーで円形脱毛してると思うから。」
「うるせえ、俺様は100マス計算だけで十分だ!」
すると、デュリーも首を傾げた。
「今頃やってんの?オレ、小学校のときに覚えたぞ。」
「だよねえ。」
アークが続ける。
「小学校でやるよね、100マス。」
ダグラスはすねてしまったようで、リオンが読んでいた要旨を無理に奪って読み出した。
「ちょっと!手が切れるじゃない!私だって英語、がたついてるのよ。」
リオン以外の三人が、彼女を見た。
「・・・僕、小学校の頃から英会話も文法もできたけど。」
アークが言うと、デュリーも頷く。
「オレも世界中の研究者と交流するため、英語ならみっちりやってるぞ。」
さらに。
「俺様もアークと一緒の英会話教室に行ってるし、一般的な会話くらいならたぶんできるぞ。」
悲しくなってきたのか、リオンはテーブルに突っ伏した。
「ちゃんとそういうこと、しとけばよかった〜。」
「大丈夫だって。俺様がちゃんと英語読んでやるから。」
アークとデュリーはヒューヒュー、とはやしたてる。
ダグラスは平然としていたが、リオンの顔が赤くなった。
「そういえば、要旨どこ?」
「俺様だ。あとちょっとで読めるから待っててくれ。」
「はいよ。」
こうして、要旨を読むだけ読むと、なぜか全員アークの家へ向かった。
なんだかんだ言いつつ、結局は仲間だ。
END
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*atogaki*
前回の小説よりぐっと前の話です。
彼らがどんな文化祭をするかは謎です。
やっぱりアークの家でフリスクやフリードリヒに聞いて参考にするのかな、とか思いつつ。