ある都市の高級住宅街の一角に、屋敷があった。
大きな和風建築、一体どんな人間が住んでいるのか、好奇心をそそるような立派な家。
その家屋の一室で、少年は目覚めた。
電気をつけていないこたつに入って、ついそのまま寝てしまったらしい。
テレビも少年が最後に見たときはシナリオがありきたりのドラマをしていたのだが、今はワイドショーが戦争について立場が謎の人々が議論をしている。
戸締りがしっかりしていて光の量だけでは時間が定かではないが、携帯電話を見ると今は午前11時。
ちなみに、寝ている間にもメールが届いている。
「ちぇ。」
少年は呟いて、一応メールを見た。
ほとんど、友人からだ。
「アーク、明日どうする?オレは暇だから、何でもいいけど。」
「やっほー、アーク、入学式の準備できた?アークが来たら、うちのガッコも楽しくなりそうだわ。」
「なあなあ、今日、新しくできたショッピングセンター行かないか?この地方初のゲームショップができてるぜ!」
「昨日、っつーか今日?はありがとな!また遊ぼうぜ!」
「今日、遊びに行ってもいい?うるさいのが家に来るから逃げたいのよ。」
「夜はありがとう。借りは返します、またいつか。」
「前々から言ってたとは思うが、今からそっちに行くからな。」
アーク少年の顔は軽く引きつった。
今から?
着信したの、10時半じゃん。
ってことは、もう来るよね。
少年は急いで行動した。
できればシャワーでも浴びたいが、その暇はない。
顔と歯を磨き、和だんすから適当に着替えを引っ張り出し、着替える。
広い家の中を歩き回っているのだ、これだけのことでも結構時間がかかる。
さあ、たぶんこれで大丈夫。
朝ごはん(昼ごはん兼用)をどうするか・・・・。
ピーンポーン
来たか。
アークは携帯電話から尋ねてきた人物にメールを送り、玄関に向かった。
アークは小学校を卒業する年齢の人間にしては小柄だ。
そのせいか、尋ねて来た人物と並ぶと、兄弟に見えるかどうかも怪しいぐらいの体格差がある。
「お前、有名私立中学への入学決まってんのに、夜遊びしてるだろ?」
身の丈190センチを超えていそうな青年は言った。
見るからにお人よしそうで、その悠然とした態度は裕福に育ったのだろう、と他人に想像させる。
今はスーパーのビニール袋を持っていて、ちょっと家庭の主婦っぽいが。
「まぁね。・・・って、フリスク、何でわかったのさ?」
アークも外観は裕福な家の子供らしい。
当人がそれらしくしていれば、フリスクとそう変わらない印象を与えるだろう。
「あのなあ、オレの人脈をなめるなよ?」
「そっちこそ、有名国立大の学生のセリフ?」
「この年なら自己責任で通るさ。いるだろうが、夜中に出歩くのが好きなやつが。」
アークの脳裏に何人かの顔が浮かんだ。
自分と似たような年の人物と、フリスクと同じくらいの年の人物と。
「かなりいるんだけど。」
「ディトナだ。あいつ、好きなんだよな・・。」
ここまで話して、やっと居間についた。
フリスクは室内を一瞥して言った。
「・・・さっき起きたところか・・・。」
「う。わかる?」
「・・・こたつとつくえとカーペットとテレビ見ればな。」
なるほど、コタツはやたらと慌てて直した跡があり、つくえの上には携帯電話が並び、カーペットには長時間人がいたと思われるしわが寄っている。
とどめに、テレビは一時間テレビショッピングをしていた。
「ちっ。」
「ち、じゃないだろ。ま、いいけどな。長い休みのときはいつもこうだし。昼飯の材料持ってきたし、作ってやるよ。」
「わーい、ありがと。」
「ってことで、おとなしく座ってろ。ゼッタイ、手伝うなよ。」
そう言ってフリスクは台所のほうに歩いていった。
アークは再びコタツに収まった。
フリスクとは得たいが知れない昔からの友人だ。
アークの父が超がつく資産家で、フリスクの父はその右腕の一人だった。
アークは愛人の子供ということで、今は微妙な立場だ。
少年が産まれた当時は独身だった父も今は妻子持ち、その妻子には毛虫のように嫌われている。
愛人の母は、といえば2年前にアメリカで蒸発している。
少年の手元に残ったのは、愛人対策の人質という立場と、ロンダリング済と思しき母の財産。
そういうわけで、このでかい屋敷に一人で暮らしているアークだが、一応心配なのかよくフリスクが来る。
・・・料理が絶望的に下手なため、念押しつきで手伝うなとは言われるが。
無意味に過去を思い出していると、フリスクがトレーに食器を載せ、足でふすまを開けた。
「ありがと。」
「ったく。で、入学式の準備くらいはしてるよな?」
フリスクがトレーをつくえに置き、座った。
食器にはおいしそうな焼肉とサラダがのっかっている。
「全然してないよ。いただきまーす。」
「おい。・・いただきます。」
「面倒だし。」
「あのなあ、あの中学校の入学式っていったら、父兄の見栄の張り合いだぞ?うかつに出てみろ、どれだけキツイか。」
「ちっ、うかつなことしたらヤバイってぇ〜。」
アークの脳裏に、嫌いな人々の顔が浮かぶ。
「まったく、お前、一応首席で受かったんだろ?」
「まぁね。あのアホといっしょにされても困るけど。」
「確かにヤツはアホだが、それ、あの奥さんの前で言うなよ。」
「もちろん。てめぇのアホなガキが落ちた中学、僕は首席で受かりましたよー、なんて言わないよ。」
はっきり言うと、あの奥さんの子供とコイツじゃ、力が違いすぎるんだよな・・・。
フリスクは心の中でため息をついた。
あの奥さんとは、アークの父親の本妻である。
ついでに言うと、彼女はなぜアークが彼の子供として保護されているのか、真相を知らない。
立場から言ってアークが後継者候補になる可能性はかなり低いのだが、もし彼女の子供と同列に立つとアークが圧勝する。
そのせいか、アークへの態度は永久凍土以下の冷たさだ。
「っつたく、俺の周りは人間関係のギクシャクしたヤツばっかりだ。」
「同感だよ。」
「俺をギクシャク組の頭数に入れるなよ。」
「はいはい。忠告ありがと。昼から制服買って学用品買うよ。ごちそうさま。」
「お粗末さま、俺もごちそうさま。・・・制服すらまだ買ってなかったのか?入学式、明後日だろ?」
「サイズとって注文だけはしてあるから、大丈夫。あとはカバンと靴かな?」
「ようは、教材一式以外、何も買っていないと。」
「フリスク、正解!賞品にこの名義借りケータイを!」
「そんなもん、いるか!」
その日の午後、アークは某デパートに行った。
制服がここでしか売っていないからである。
上級生のダグラスに、カバン選び付き合って、とメールを送る。
アークのショルダーバックには常に複数の携帯電話があった。
どーでもいい人間用、プリペイド式の友達用、ちょっと表では言えない知り合い用。
「・・・制服売り場、どこだろ?」
アークはすでにデパート内で迷っていた。
まあ、いいや、しらみ潰しに見て回るから。
こうして、アークの余計な知識が増えていくのであった。
常人の数倍の時間をかけて、制服売り場にたどり着き、制服一式を配送で買い会計をしていると、
「よう。」
とアークは声をかけられた。
ちょうど店員が金を持ってレジに行ったところなので、声のした方を見る。
赤毛でそばかすが多めだが、華やかでチャーミングな少年が立っていた。
こちらも小柄で13才には見えづらい。
「ダグ!来てたの!?」
「まーな。オレさまだって、去年はここで制服買ったんだぜ。」
ここでは他校の制服も売っているためか、それなりに人がいた。
そんな人々の視線を二人はしっかりと集めていた。
両者ともに美少年、しかもタイプが違う。
ダグラスは活発な少年、アークはおとなしそうな少年、に見える。
むろん、実際の性格や話の内容には関係のないことだが。
「なあ、聞いてくれよ!うちのババァが。」
ちなみに、ダグラスの「ババァ」とは彼の実母である。
「また、塾増やすとか言い出してさ。」
「ダグ、必ず学年の総合成績5番以内に入ってるのに?」
「だろだろ!?そう思うだろ!?今年、ボケがまた大学滑ってさ。」
一応言っておくと、「ボケ」とは彼の兄である。
「ふーん。また一年?」
「それが最近やけ酒あおって引きこもってて困るんだ。」
「ま、がんばれ。僕にダグの塾行き止める権利ないよ。」
「見捨てるなー!リオンに殺される!」
話がややこしい局面に達したところで、店員がお釣りを持ってやってきた。
話が聞こえたのか、笑顔が引きつり気味だ。
アークはにっこり笑って釣りを受け取る。
店員の顔は妖怪でも見たようにさらに引きつった。
ダグラスのおすすめのかばん屋でも愚痴は続いた。
「デートの回数、もっと減りそうなんて言ったら、投げられる!」
アークは自分好みのカバンを探しながら応じる。
「男らしく潔さを発揮して、投げられなよ。」
ダグラスはカバンを1つ手に取った。
「これどうだ?教科書入りそうだし、よくない?」
「ん〜、まあまあ、かな。妥協するなら、これかな。」
「ふ〜ん。オレさまとお前をいっしょにするなよ。オレさまは受身なんかとれない。」
アークはそのカバンを置いて、次なるものを探した。
「僕に恋愛はよくわかんないけど、リオンの気がすむならいいんじゃない?」
「オレさまはいいのか・・・。」
「だって、ねぇ。主にダグの事情だし。格闘技でも習ったら?」
「これ以上、何も習いたくない。疲れる。」
アークの目は地味な一角で止まった。
「あ、これ、いいかも。」
アークは隅に置かれていたカバンを手に取った。
「拾いもんだな。いけてるぜ、それ。」
「じゃ、これにするや。すいませーん。」
アークはカバンを買ってから、ダグラスとくつを見に行った。
長くなり過ぎた帰路(すでに間違った電車に二回も乗った)、アークは思った。
なんだかんだと、みんな大変なんだよね。
僕も世間と血縁には用心しなきゃ。
こうして、少年の春休みの一日は過ぎていった。
END
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*atogaki*
何となくパラレルを書いてみた。
何か、さりげに違法色が・・・。
どこまでいっても、こういう人格だってこと?
続きがあるのかないのかは未定。