どこにもいないもの  遠く感じるあの頃




天空大陸上のとある館。
黒い髪の少年と、赤毛の少年がパソコンのモニタ部分を見ていた。
「こうやったら、こうなる。な?」
赤毛の少年が言うと、黒い髪の少年はうんうんと頷いた。
「で、消すのがこうだ。やってみ。」
黒髪の少年はリラックスした態度で、その操作をやってのけた。
「おっ、できるようになったじゃねあえか。免許皆伝!」
赤毛の少年がそう言うと、黒い髪の少年は照れたようにえへへ、などと言っていた。
「オレにも教えろよ、ダグラス。」
アリストが二人の背後からパソコン画面を見た。
「やめろよ、ぎゅうぎゅう詰めになるだろ。」
ダグラスが嫌そうに背後を見た。
「あ、僕免許皆伝らしいから、今から教えてもらえば?」
黒い髪の少年が勧めるとアリストは頭を振った。
「悪いな。オレはこの館に残された本を読む予定なんだ。」
「へぇ、僕もだよ。奇遇だね。」
話しているとダグラスが欠伸をした。
「じゃあ、俺様は寝るぞ。」
「おやすみ〜。」
こうして今日のパソコン教室は終わった。

 館の一階でアークとアリストは本を読んでいた。
アークは最近何でも読むようになったが、最初に読むのはもちろん魔導書だ。
アリストも機械の仕組みの本を読んでいる。
二人は夜の見張り組みで、朝になったら寝る。
どちらも本に集中しているため、本のページをめくる音だけがした。
しばらくすると、声が聞こえた。
兄さんの声だ。
足音もだんだん近付いてくる。
アリストは足音には気付かなかったようだが、声がだんだん大きくなってきたので兄さんが近付いてくるのがわかったようだ。
ばん
ドアを叩きのめす勢いで兄さんが入ってきた。
「アリシア!私は・・っ!」
はい?
アリシアさんってどちらさまでしたっけ?
アリストも知らないらしく、びっくりまなこを披露していた。
「あの・・・兄さん、アリシアさんって誰?」
そう尋ねると兄はため息をついた。
「・・・・・・忘れてくれ、それじゃ」
「教えてよ!」
アークが声をあげた。
「探してる人がいるなら、僕らも協力できるかもしれないじゃない!」
「・・・・故人だ、見つかるはずがない。」
「兄貴、じゃあ何だってさっき叫んでたんだ?」
アリストも会話に加わる。
「言いにくいことなのだが・・・彼女を見た気がして、な。」
「霊?とりあえずこっちには来てないけど。兄さん、口走ったからにはその人のこと教えてよ。気になるじゃん。」
兄は悲しげな目をして、顔を伏せた。
「・・・昔の女だ。私より頭がよく、ライフルの達人だった。」
うんうん
三人は部屋の中心に集まった。
「私たちは付き合っていたんだが、最後に彼女は私にライフルを向けた。」
「え?」
「私の首さえもらって行けば・・・・・賞金がもらえる。その金で弟の薬代を稼ぐのだ、と言ってな。」
「・・・・・恋人同士だんたんだよな?」
「少なくとも、私はそうだと信じていたし、今も信じている。彼女のライフルが暴発した。彼女を闇医者に連れて行ったが、もうだめだ、ということだった。」
「ちなみに、その弟さんは?」
「私は彼女に弟がいることすら知らなかった。・・私の失態だ。」
アリストは兄の肩をぽんと叩いた。
「過去は過去、今は今、どんまいどんまい。」
「そうだよ。僕もまた剣の稽古、してほしいから。少なくとも兄さんのせいじゃないよ。」
アリストとアークの笑顔に慰められたのか兄は顔を上げた。
「ありがとう、では私も植物学でも読むか。」
こうして三人は楽しい読書の時間を楽しんだ。
END






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*atogaki*
暗い話だ〜、明るい話を書こうとしたら暗い話に。
ちょっと待ってくれ〜、という気分です。
でも、兄さんの年齢考えるといろんなことがあったんだろうな、と思います。