その頃から僕は  遠く感じるあの頃


天空大陸上の都市ティカーノ。
そこでは無音で雪が降っていた。
治安の悪いなかでもまだマシな地域の洋館に少年はいた。
三階建ての立派な建物だが、クモの巣は無数に存在し、ほこりも多い。
その屋敷の一階で少年は本を読んでいた。
「お、何か難しい本読んでるな。」
赤毛の少年が、本を読んでいる黒い髪の少年に話しかけた。
「あ、ダグラス、おはよう。」
「おはようって・・・・アーク、お前、また徹夜で本を読んでたのか?」
「うん。いつ誰の襲撃を受けるかわかんないし。それに今のうちに勉強しとけば役に立つかと思って。」
ダグラスはため息をついた。
そういう自分も実は徹夜でノート型パソコンをいじっていた。
オンラインで作業をできる機会はなかなかない。
「しっかし、お前、難しい本読むなあ。」
ダグラスはアークの背後から本を見た。
何が書いてあるのかさっぱりわからない。
「難しくないよ。これはね、魔法や魔術の基礎の本だよ。」
基礎?初めて会ったときにあんな強力な力を使っていたこいつに?
「でも、お前、初めて会った時、えらく強力な魔法を使ってなかったか?」
ダグラスがそう言うと、アークは本についたほこりでも吹き飛ばすかのように息を吐いた。
「あのね、言いにくいんだけど、今僕の使える魔術や魔法は、全部オリジナルなの。基礎からやってないんだ。」
「え?」
「だーかーらー、僕は初めからわかっている理論に基づいて魔法なんかを使ってたわけ。基礎は知らないんだ。」
「おい、「初めからわかってる理論」って何だよ?」
「さあ。何となくここをこうすればこう、みたいなかんじで。」
「何気なく怖いこと言うなー。まあ、俺様も基礎は口伝えで教えてもらったから人のことは言えねえか。」
ダグラスはアークの読んでいる本から目をそらした。
「よかったら、俺様の基礎の本読むか?」
そう提案すると、アークは初めてダグラスの顔を見た。
母親似らしく女の子のような顔だ。
つい意識してしまう。
しかも、アークの目は水気を多く含んでいた。
「うん!これ読んだら見せて!」
ものすごく嬉しそうだ。
「ま、俺様には魔法なんか使えないからそんな本は見られねぇけどな。」
ダグラスはふぃっと視線をそらした。
ぱっちん
平手打ちされてダグラスは少しよろめいた。
「あーもー、いつになったら僕を男として認識できるわけ?リオンの方がずーっとかわいいのに。」
アークはそう言うと、再び本に意識を集中させた。
また一日口きいてくれないんだろうな・・・・。

 ダグラスは手形ができた頬を押さえ二階に上がっていった。
「あ、ダグ、ちょうどよかったわ。」
金髪の少女に声をかけられた。
「兄貴なら今食材の調達に行ってるぜ。」
「それぐらい知ってるわよ。」
そしてダグラスの頬を見てため息をつく。
「あんた、ああいうタイプが好みなの?こーんな美人が傍にいるのに。」
確かに彼女は美人だ。
透き通るような淡い金髪、青い瞳は宝石のよう、口元も文句のつけようがない。
「い、いや、はははは。でなんだよ、用って。」
「私のパソコンがオンラインに切り替わらなくなったんだけど。」
やっかいそうなことだ。
しかし、もちろん断らない。
「わかった。できるだけのことはやってみる。中身がおじゃんの場合は堪忍してくれ。」
「私はその間携帯電話で株の取引してるからよろしく。」
こうして、平和な日は短期間続くのであった。
さあ、次のアジトはどこだろう。
END




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*atogaki*
自分では、こういうのを書いていると和みます。
皆様がお読みになられてどう思うかまではわかりませんが。
リオンはすでに美少女です。
ダグラスが何でアークを意識してしまうのかは私もわかりません。