もしここで彼らに出会い仲間にならなかったらおそらく僕は早死にしていただろう


肝心な出会い 遠く感じるあのこと



 天空大陸上の都市、ティカーノ。
そのスラムで黒い髪を長く伸ばした男性と子供が二人いた。
子供の赤毛のやせた少年が狭い路地から広い路地を見る。
すると、黒い髪を伸ばした女の子が走ってきた。
赤毛の少年が見ていると、大勢の大人が鬼気迫る表情でそれぞれの武器を手に追いかけている。
その少女は行き止まりにひっかかってしまったらしい。
「俺たちのボスをかえせ!」
「この野郎、ふざけやがって!」
「叩きのめしてやる!」
まずい。
少女が持っているのは少し大きめの短剣だけ。
あれだけ大勢の大人に勝てるハズがない。
金髪の少女も赤毛の少年の隙間からその光景を見ていた。
赤毛の少年は思わず、男性を見た。
男性はやや長い剣を持っていた。
「助けてやらなきゃ、あいつ、死んじまう!」
赤毛の少年が必死の形相で言う。
しかし、男性の態度は余裕たっぷりだ。
「ダグラス、大丈夫だ。彼が殺されるわけがない。」
彼?あれで男なのか?
こっそり、そう思いつつ、また狭い路地から様子を見る。
少年(少年?少女?)は完全に囲まれていた。
「あぁ?このかた、どうしてくれるねん!」
「おとしまえつけてやる!」
いきなりダグラスと金髪の少女は首根っこを男性にひっぱられた。
ダグラスと少女の鼻先を黄金色の光が通り過ぎる。
間違いなく魔術だ。
それも相当強烈な。
「そこの路地に隠れてるやつ、出て来い!」
少年(性別どっちだ?)が叫んだ。
男が出て行くとダグラスと少女も幅の広い路地に出て行く。
「・・・・僕の首でたんまり稼ごうってやからか?」
少年は(変声期過ぎてたらわかるのに)落ち着いた調子で言った。
この冷静さからみていつもこういうことをしているのだろう。
「お前が評判のキリングか?」
男が言うと、少年(こだわるのはやめよう)はヒュウを口笛を吹いた。
「へえ、そんな人間、いるんだ?」
「賞金首、それも実現困難な殺人をこなすという伝説がもう出来上がっている。」
少年は警戒心を強めたようだった。
「で、何?僕の首でも取りに来たの?あげるつもりはないけど。」
少年は舌で唇をなめた。
「私もサイレンサーと呼ばれている。」
男が言うと、少年はにまにまと笑みを見せる。
「ふうん、で結局何さ?」
少年はリラックスしているようで隙のない動作をしている。
「私たちの仲間になってほしい。」
男が言うと、黒髪の少年は目を見開いた。
「はい?仲間?」
「そうだ。私たちに必要なのは冷静に戦うことのできる人材だ。お前は十分に当てはまる。」
「何か特典でもあるの?」
少年が真顔になった。
「私たちは能力のある子供をまとめあげてこの大陸を変えようと思っている。弱いものは消え、強いものだけが咆哮を上げる、その世界を変えたいと思う。そのための、仲間だ。金を稼ぐプロ、コンピューターのプロそこまでは集まった。」
「なるほど、それで戦闘能力のある僕に仲間になって欲しいわけだ。」
少年はわざとらしく首を傾げた。
「さっきも言ったけど、僕が何か得すること、あるわけ?」
「この人数で動けば見張りは当番制になる。先ほどのように、道に迷うこともなくなる。自分では切れないその髪も切れる。そして、本当は欲しくてたまらないであろう似たような年の仲間が手に入る。」
少年は考え込んだ。
数秒後。
「わかった、その条件でいい。仲間になろう。僕はアーク、れっきとしたお・と・こだ!」
近付いてきた少年の顔は少女のように美しかった。
もったいない。
「じゃ、さっさと逃げた方がいいんじゃないかな?」
「そうだな。」
そして、四人はアジトにしている場所に向かっていった。
この選択が人生を思いっきり変えるものになることは、まだ誰も知らない。




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*atogaki*
アークはおそらく正義という言葉には何の重みも感じなかったのでは、と思います。
仲間、という言葉に魅かれたのではないかと。
かつてはアークにも仲間たちがいたわけですから。