事件付移民祭(昔編)




天空大陸上の都市ティカーノ。
大学寮の一室から、黒い髪、濃茶の瞳の少年は窓の外を見つめていた。
少し遠くに見える商店街ののイルミネーションは明るく夜空を圧倒している。
夜とも昼ともつかない不思議な明るさが、商店街を照らしていた。
移民祭の前後は毎年こうなる。
この大陸に住む人間は昔地上の都市からやってきた移民だ。
移民祭とは、人々が出会うことができた、ということを主に家族単位で祝う日である。
夜空をぶち抜きそうな商店街のイルミネーションを見つめながら、少年は何となく昔の出来事を思い出していた。

 今よりももっと小柄だったころ、少年は友人と薄汚い布をかぶってイルミネーションの傍にいた。
照明がぼろ布に当たると自分たちがエイリアンじみて見え、笑っていた。
その日は、商店街が企画した花火を打ち上げるイベントがあり、それを見るためにみんな集まっているのだ。
同じことを考えたのか、立派な服装の貴族もいれば服装が明らかに商店街にそぐわない人間も大勢いた。
騒いでいるうちに花火が打ち上げられる時間がきた。
いろいろとあったらしく、花火が空に上がらなかった。
代わりに、地上で爆発した。
悲鳴と怒号が飛び交う。
「アーク!! ずらかるぜ!」
友人が叫んだ。
「ダグ! どうやって!? パニックの真っ只中に突っ込むの!?」
こちらも叫び返す。
叫んでいるのに、群集の声に霞んで互いの声が聞き取りづらい。
「第一、ヘタするとリオンたちと合流できなくなる! それでもいいの!?」
ダグラスの動きが一瞬止まった。
アークも自分の首筋に金属質の違和感を感じた。
「へへっ、アニキの言うとおりだ。 こんないい賞金首がいてくれるなんてな。」
アークはそのセリフを最後まで聞いてから、自然な動作で自分の拳銃を撃った。
中途半端な暗がりで相手は自分の動きを捉え切れなかったらしく、あっさりと相手は倒れる。
「で? ご存知の通り僕は立派な賞金首で忙しいんだ。 友人を解放してくれるかい?」
相手は少々ひるんだようだが、ダグラスを離しはしなかった。
ダグラスが今やそいつの命綱なのだから仕方のない面もあるが。
どうするかな。
「おい! 何をしている!」
鋭い誰何がかかる。
そりゃあ、不審だよね。
10歳かそこらの子供の首にナイフを突きつけている大人なんて。
「くそ! 楽な仕事だと思ったんだがな!」
不審な大人はダグラスを道に叩きつけるようにして開放した。
アークはダグラスに駆け寄ってから銃を構える。
しかし。
「大丈夫か!? ほら、早く家に帰れ! 大人がいないと危ないぞ!」
誰何した大人の剣には血糊がついていた。
そして不審な大人は倒れている。
普通に考えて、誰何した大人が不審な大人を切り殺したのだろう。
暗がりでもアークには相手の顔や服装が見えた。
服は高そうな私服、剣は軍でも上層部しか持つことを許されないような立派なもの。
顔は、かなりの財力を持つティカーノ家の4男だ。
「怖かったのか? ほら、早く親のところに行くんだ。」
剣の腕はなかなかでも、頭のネジはどっかで落としたらしい。
僕の後ろで倒れてるヤツは何だと思ってるんだろう。
「ありがとう。ほら、ダグ、あそこに行こう。みんなあそこに避難するはずだ。」
アークがそう言うと、ダグラスは立ち上がった。
「そうだな! サンキュ、でかいアニキ。」
「言いから早く避難しろ! くそ、まだ中央に人がいる!」
ティカーノ家の4男は剣を鞘に収め、爆発の中心部に走り去っていった。
「さて、リオンたちと二次会やらなきゃ!」
「ホントにな! こんな祭りに付き合う余裕なんかないぜ!」
ダグラス、アークの順で走る。
彼らは暗く静かな通りにいたが、仲間と合流するためには大通りに出なくてはならない。
ダグラスはアークの手を引いて、パニックに陥ったどうしようもない群集のなかを通り過ぎる。
待ち合わせ場所の酒場に着くころには息が上がっていた。
酒場に入ると、アークとダグラス以外の仲間は全員そろっていた。
「みんな無事? よかったー。」
「遅かったじゃない。ま、こっちもひと悶着あったから。」
アークとダグラスはため息をついてから、仲間たちがいるテーブルのいすに座った。
二人が座ってしばらくすると、ウェイターがオレンジジュースを運んできた。
子供たちのテーブルには人数分のオレンジジュースと大きなチキンがのっている。
酒に興味が湧く年頃ではあるが、酒乱の人間が多いためこうなったのだ。
子供たちはオレンジジュースを手に取った。
「やっぱ、これだな。」
「じゃ、いくよ。かんぱーいっっ!」
「かんぱいっ!」
ジュースの入ったプラスチックのカップを互いに軽くぶつけ合う。
「また、次もよろしくな!」
「来年もまた、このメンツでいられますように!」

 そう、こんなことがあった。
よく考えればこれがフリスクと始めてあったときの出来事である。
フリスクは持ち前の鈍さで入学式の数日後まで気付かなかったから、やっぱり第一印象は当たっていたわけだ。
さて、イルミネーションなんか見てないで宿題やるか。
アークは伸びと欠伸をしてから机に向かった。
END




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atogaki
しばらくぶりに書いたので変かも。
それにしてもしばらくぶりでコレって・・・1番も終わってないのに・・・。
更新遅くなってごめんよー。

なぜこのお題にこれなのかは・・・想像にお任せします。