プレ 移民祭




 産むんじゃなかった。
自分と同じ活動をしてくれることをずっと願っていた。
なのに、今彼は逆の事をしようとしている。
死者には何の力もないが、それでも自分は彼を憎まずにおれない。
あの孤児院に引き取らせたことが失敗だったのか。
それとも、中絶してしまうべきだったか。
子供もいれば活動が楽になるかもしれない。
そう思った自分がバカだった。
気高く頭のいいあの方に何もできなかった。
本当に何も・・・・。

 なんだ、こんなものか。
兄を出し抜くために一足先に用意しておいた成功のもとか。
客人が自分に挨拶に来る。
そう、この刺激をどれほど望んでいたか。
名家のイスに兄を座らせたくない。
たいした才能もなく、何の意欲持たず、ただ座るだけ。
許せない。
だからこそ、自分が出し抜いてやる。
客人への対応をしながら、兄を見る。
嫉妬なのか、気付かれないようにこちらをにらんでいる。
バカか、こいつは。
にらむだけにらむがいい。
憎みたければたっぷり憎めばいい。
自分の心には兄以上の刃物がある。
兄の心など粉々に砕けるような。
明日、帝宮に招かれたのが自分だけ、というのも許せなうようだ。
だから、思う。
向上心を持て、そして努力しろ、憎む前にそれだけのことはしておくべきだ。
兄より高学歴なのも手伝って、父は自分を後継者にするか迷っているらしい。
絶対に高みを目指す。
ライトアップされた場所で自分は改めて決意をした。

 移民祭の前夜祭に虚しくケーキを一人で食べる。
けっこう寂しいものがあるが、外には出られない。
どこもかしこも移民祭で人があふれかえっているし、自分の地位を利用されるのも嫌だ。
貴族のパーティーなんてぞっとする。
権力闘争の中に自分が入り込めば、間違いなく搾り取れるだけ絞られる。
そんなの誰だって嫌だろう。
ケーキを食べたら、レポートでもやろう。
一日くらい何もしなくてもいい。
自分はそれはデマだと思っている。
何もしなければ絶対に落ちこぼれていく。
高みに臨むこともできない、なんて事態にもなりかねない。
そう、自分は出世するのだ。
救うために。
正義なんて、この天空大陸上に存在しない。
正しい答えすらどこにもない。
明日は帝宮のパーティーによばれている。
さすがにこれを放置するわけにもいかないので、衣装をレンタルして行ってくるつもりだ。
武器を持たず行動しなければならないのが不安を煽るが、仕方がない。
さて、明日はがんばろう。

 権力から遠い地位。
自分が権力に近くなくてよかった、と毎度思う。
今も兄が主催のパーティーをやっているが、今すぐ兄弟げんかになりそうなほど他の兄や姉が主催者たる兄をにらんでいる。
自分は幼いころ彼に弟子入りした。
そして、剣を習った。
運動したり体を鍛えることが好きだった自分はすぐにのめりこんだ。
何といっても帝国で最強と言われた男に剣を習った。
才能があったらしくめきめき腕は上達し今や免許皆伝の身分だ。
もちろん、権力の会得にあまり関係ない特技。
だからこそ、欲しかったもの。
体を鍛えて、魔術や魔法も最低限のことを覚えて大学に行った。
友人たちは何か権力に対し強い感情を持っているらしい。
権力は一歩間違えれば、命さえ奪う。
幼いころから、それは悟っていた。
兄と姉が刑死したからだ。
自分はそうなりたくない。
権力などいらない。
平凡に暮らしたい。
しかし、この家に生まれたからにはそうはいかない。
ただひたすら権力が怖い。

 警備の人数が足りない。
そう要請されてきたものの、何をすればいいのかよくわからない。
男性と女性が手をつないだりして歩いている。
もちろん、「カップル」だ。
アニメを見ているためかそれくらいはわかるようになった。
他の人に話しても、なかなか理解が得られないため言う気はない。
明日も帝宮の警備だ。
ただ、淡々とやっていけばいいだけ。
ひょっとしたら、友人に声をかけられるかもしれないが、返事をしてはいけない。
彼らとは大きく身分が違うのだ。
仕事の要綱にも、声をかけられても返事をしてはならないとある。
こっちだ。
言われて、移動する。
そこは馬車が行きかい交差する場所だった。
手旗信号をしろ。
ディトナは道路の真ん中に立った。
そして要領よく旗を振る。
きっちり訓練されているのでおてのものだ。
今まで考えたことはなかったが最近少し考えることがある。
自分が死んだらどうなるのだろう。
やはり、代わりに適当な人造人間が出来上がる。
そんなこと、考えても無駄だ。
自分にはたくさんのストックがいる。
彼らはきっとテレビも新聞も見ないし、ましてやアニメのDVDを買うこともないだろう。
そう思うと、思ってはいけない思いが思考に混じる。
死にたくない。
そう、禁じられた思い。
だが、心の中にわいてくる。
どうしようもない。
ため息をついて仕事に集中する。

 ありえない。
二世がいるなどと、そんなこと絶対信じない。
自分がいればよいのだ。
今までずっとそうやってきた。
臓器に欠陥があればクローンを作り臓器を入れ替える。
齢を重ねないために最高度の魔法を使う。
そうして、500年以上やってきた。
今年は待ちに待った1000年祭だ。
人と人がいれば必ず争いが生じる。
強烈な戦いになることもある。
だからこそ、スラムと中央市に場所を分けた。
スラムでは宗教間の対立や集団で動く連中がいる。
川は死体で埋まり道端には死体があふれている。
この中央市に限ってそんなことは許さない。
しかし、二人目が生まれたのはスラムだ。
協力者だったあの女の息子。
皮肉なものだ。
今まで子供が成人すると処刑してきた。
地位を守るために。
女も捨てた。
なのに今、この大陸が変化を始めている。
二人目を生贄にできれば全てが解決するが、どうもうまくいかないような気がしてならない。
とにかく、自分は今最高の地位にある。
今なら二人目をどうにかできるかもしれない。
嘱託殺人業を営んでいて、それも強い者を送りこまねば絶対死なないだろう。
イスから立つこともなく呼ぶ。
小太りの男が慌てたように走ってくる。
さあ、依頼をしよう。
END





back



*atogaki*
今年の移民祭はみんなのモノローグ収集にしてみました。
結構みんな考えてますね。
自分で書いてみて、あ、そういえばそうだなということがいくつもあって。
まあ、書いてある内容からしてどれが誰かは大体わかると思いますが。
というわけでこれはクリスマスものなのでよろしくです。