天空大陸上の都市ティカーノ市内のとある大学の大学寮。
その大学寮の一人部屋で少年一人と青年三人は、テレビ画面を見つめていた。
テレビ画面には車上で格闘戦を演じる男女が映っている。
時折、ヒーローが走り回る画面に切り替わり、緊迫感が伝わってくる。
悪役がヒロイン役を殴り飛ばした。
そしてヒロイン役に止めをささんと思わせぶりにゆっくりと歩き出す。
ヒーロー役は間に合うのか。
決定的な場面を見ようと、四対の目はテレビに釘付けになっている。
静電気でも起こったかのような小さな音がした。
テレビ画面が一瞬にしてただの黒い画面になる。
同時に部屋の照明も消える。
今は夜、しかもカーテンも閉まっているので、非常用の簡易照明のオレンジ色が室内を照らしている。
「・・・ディトナ、どこまで見たか、覚えてる?」
少年が右横に座っている青年に尋ねる。
「覚えていない。アークは?」
「ダメ。つい展開に見入っちゃって。」
少年の左横に座っている青年も口を開いた。
「一応念のために聞いておくが、フリスク、時間を見ていたか?」
後ろに座っている青年は明るく返す。
「全然見てなかった。フリードリヒ、お前のDVDだろ?わかんないのか?」
「今日初めて見たから、わからない。」
こうして映画のちょっとした鑑賞会は停電で幕を閉じた。
アークがうんざりした口調で、
「あのさ、フリスク、窓開けてくんない?」
と言った。
フリスクは舌打ちして窓を見た。
「分厚くていらんタオルでもないか?」
「壁際にあるのなら何でもいいよ。」
フリスクは立ち上がった。
置いてあるジュースやらポップコーンやらを倒さないように器用に移動する。
タオルを一枚持って無造作に窓を開け。
フリスクはタオルを投げつけてから窓に張り付いていた誰かを殴り飛ばした。
ああああああ、という悲鳴と地面に何か大きなものが墜落する音がした。
ひびが入った窓の向こうは星など見えない陰気な空だ。
「焼き破りかなあ、割れちゃってるよ。」
アークは窓ガラスに触れ、嘆息した。
「事務にまた行かなきゃな。それより、他はどうなってるのか、見てこようぜ。」
フリスクの提案で四人は部屋の外に出た。
部屋の外に出ると、やはり部屋の電気が落ちて他の部屋の様子をうかがおうとしている学生が大勢廊下にいた。
「なあ、そっちもか?」
「ああ、こっちもだ。」
「オレなんか宿題のデータがとんだぜ。」
そこかしこで囁くような会話が飛び交っている。
「あ、フリスクさん。」
フリスクは同じ部屋の学生に声をかけられた。
「大丈夫でしたか?」
「まぁな。別にたいしたことはしてなかったし。」
「僕らは宿題も出てなかったらから。」
「ちびも大丈夫だったんですか。」
そう言っているとなぜか視線を感じた。
「もしかして、また」
「そうかもしれない。」
「いつもトラブルの真ん中にあいつらいるし」
「しっ、こっち見たぞ。」
どうもこちらはトラブル発生源の常連としてとらえられているらしい。
最近、あんまり言いたくないようないろいろなことを起こしているからかもしれない。
「・・・電源を見に行くか?どうも停電している時間が長い気がする。」
フリードリヒがわざとらしいタイミングでそう提案した。
「そうだね。」
「どーせだし。」
こうして四人は地下にある電源のコントロールルームに向かった。
懐中電灯を持って学生寮の地下にあるコントロールルームに行くと、事務員のものではなさそうな足跡があった。
「明らかに戦闘目的の靴の足跡だな。」
「事務員さん、こんなのはいてないよね。規定で革靴じゃなかったっけ。」
などと言いながら歩いていくと、床に黒いしみのようなものがあった。
アークとフリードリヒはそのしみを見て立ち止まった。
それを見てフリスクも立ち止まる。
ディトナだけが気付かず進んで行き、そのしみに一歩を踏み出す。
すると。
ディトナの足がひざまで床より下に吸い込まれた。
フリスクが素早くディトナを引っ張り出す。
よく見ると黒いしみは通路の幅と同じくらいの大きさで光を吸い込むかのように異様に黒い。
「もしかして、この黒いものは違う空間につながっているのか・・・。」
フリードリヒがつぶやく。
アークが付け加える。
「何か、僕らが実習で使うゲートみたい。あれって全く違う時間と場所につながってるけど・・・。」
フリスクはおもしろいものを見るように懐中電灯を黒いものに向けた。
「じゃあ、これはどこにつながってるんだろうな。」
「さあねぇ。何とかふさがないと先に行けないのは確かだね。まさか事務の人、ここにはまったとか言わないよねぇ。」
「そうかもしれない。注意しないで見るとただのシミに見える。」
「学校のゲートと性質が似ているとすると・・・どこに行くか全くわからない上、塞ぐ方法もない。」
フリードリヒも検分するかのように黒いものに懐中電灯を向ける。
「うーん、ものは試しってことで何か放り込んでみる?」
「何をだ?」
「とりあえず、これで。」
そう言って、アークは懐中電灯を放り込んだ。
懐中電灯が黒いものの中に消える。
その瞬間、突然黒いものが縮んだ。
「何だったんだ?」
フリスクが首を傾げた。
「見れば見るほど学校のゲートに似ている。不思議だな。」
フリードリヒも不思議そうに言った。
「うーん、変なの。」
「・・・電源は?」
ディトナの一言で三人は当初の目的を思い出した。
電源をコントロールする機械を見ると、やはり誰かに操作された痕跡があった。
「誰かが電源を切った跡がある。」
「たいした専門知識がなくても十分に操作できるな。」
そういうディトナとフリードリヒに機械の操作は任せることにした。
フリスクは冗談半分でフリードリヒの顔を懐中電灯で照らして時々怒鳴られてる。
ディトナは狂った配線の一部を直している。
そのディトナにアークは話しかけていた。
「それにしても、いいかげんイヤになるよ。」
「何が?」
ディトナもいつもの棒読み口調で応じている。
「だってさー、これでトラブルに巻き込まれるの何回目?僕らがトラブルの根源だって方程式でもできそうだよ。」
「そうではないつもり、は通用しない?」
「通用させたいねぇ。」
それぞれ言っていることは何ともコメントしがたがったが、数分後寮の電源は回復した。
後日、電気事業者が来ることになり、ことはほぼ円満に解決した。
ちなみに。
この時電源の見回りに行った事務員は、熱帯気候のゲートの向こうで翼竜に襲われているところを見つかったそうな。
END
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*atogaki*
何となく息抜きに書いたもの。
ドタバタコメディなのかも。
冒頭の映画の描写はマト○ックスレボ○ューションズを参考にしています。