マメ知識と意味




 天空大陸上の都市ティカーノの国立アーガスティン大学寮の一室。
そこでノート型パソコンをのぞきこんでいた青年は嘆いた。
「アーク、こんな宿題をやることに意味があると思うか?」
アークと呼ばれた黒い髪に濃い茶色の瞳でデスクトップ方パソコンの画面から目を離した少年は、肩をすくめる。
「んもー、僕だって宿題やってるんだから話しかけないでよ。フリードリヒこそ、意味ないって思うんならレポート出さなきゃいいじゃん。」
同じ室内にいてなおかつノート型パソコンのキーボードに手をやっている体格のいい青年も肩をすくめていた。
「俺だってお前に付き合って授業とって、さらにレポート書いてるんだ。アークの言う通りだぞ。」
「フリスク・・・、やる意味はあるか。」
そう言うとフリードリヒは再びパソコンに向き合った。
「ところで何やってるのさ?僕は幻惑術を使う魔物への対処法だけど。セイレーンにしてもエデンにしても耳栓は効果ないみたいだね。実践済みだけど。」
アークはイスの背もたれの部分に頭を乗せて、言った。
「フェロムシルトの反乱についてだ。とりあえず、クドグフがアイン王子を担いだとこで止まってるな。」
フリスクが言うと、フリードリヒが会話に加わる。
「ふん、まだそこか。オレはクドフグがアイン王子を担いで反乱を起こして、帝が鉄道を使って反逆者を駆逐しにかかったところまで書いた。」
「フリスクこそ焦んなきゃダメじゃん。受験の知識で止まってるよ。」
「1000年以上前の反乱の知識など何の役に立つのかわからないがな。」
「アカデミックマイスターの試験に出るよ。」
アークはさらりと言った。
「アカデミック?三科目以上も試験科目があるのに受けるのか!?お前、受かったら最年少記録更新じゃないか。」
フリスクが声をあげた。
そう、アカデミックマイスターとはそういう試験だ。
通称アカデミック。
大学受験と同じ科目でだいたい大学入学と同じくらいのレベルの初期試験を受けて、そのあと専門科目の実技を行う試験だ。
ちなみに受かるとエリートと公認される。
難関だがやる価値はある、とアークは思っている。
就職してからの給料が数パーセント上がるかもしれないし、軍でよりいい地位にたてるかもしれない。
「最年少記録更新でも何でもやってやるさ。・・・ところで、ゴーゴンの引き起こす石化って幻惑術に入ると思う?」
フリスクは一瞬考え込んだようだった。
「あれは幻惑じゃないだろう、実際に石になるらしいしな。ついでに、クドグフが実は王族だってのはガセか?」
「それはただの都市伝説だ。運送会社の会長だろう?ああ、あとオレもアカデミックは受けるからな。邪魔はするなよ。」
フリードリヒが冷静にフリスクの一言を切る。
「鉄道があった時代の反乱かぁ・・・死にたくないけど、鉄道は一回乗ってみたかったな。」
フリスクはキーボードをたたきながら返答する。
「確かに、鉄道ってのは興味があるよな。今は馬車だからな。バスっつっても昔は馬がひいてたわけじゃなかったらしいしな。」
「へぇー。」
アークが感心していると、フリードリヒが冷たい眼でアークを見た。
「知らなかったのか。今はほとんど電気駆動のエンジンの乗り物は減ったが古代はかなり普及していたらしい。鉄道も盛んだったころはこの大陸の端まで繁栄していたらしいからな。」
アークは平然としていた。
「知らなかったよ。へぇー、大陸の端まで繁栄?今から見るとウソみたいな話だね。」
「フリードリヒ、お前やけに詳しいな。」
フリスクがフリードリヒに言うと、またもフリードリヒは冷たい目線を二人に浴びせる。
「お前ら・・・、さっきから話し込んでいるが、レポートはいいのか?」
「よくない。」
アークとフリスクは意図せず同時に返事をした。
そうだ、アカデミック合格のためにも今はレポートを書かなければ。
アークは再びパソコンに向き合った。
セイレーンとエデンのことはすでに書いてしまった。
石化の魔法を使いこなすゴーゴンはレポートの範疇に入らない。
子泣きじじいもどうやら範疇には入らないようだ。
動く人骨・がしゃどくろは半々、自然発生したものについては入らないようだ。
よし、次はがしゃどくろだ。
自然発生したものとの判別が難しいがまあ何とかなるだろう。
ゴーストは自然発生だろうが、人為的発生だろうが幻術の範囲内に入る。
ただ、ゴーストと呼ぶと範囲が広すぎるため、意味をきっちりと決める必要がある。
エディンムなどどうだろう。
人間の魂が元という点がちょっとレポートに悪影響を与えそうだがいいのではなかろうか。
蜘蛛型で頭がいくつもついているという怪物・バールは範囲に入らないだろうか。
とりあえず、頭がいろいろ変わるらしいのだが。
こうして、時間は過ぎていった。

 数日後。
バーコードハゲの教授の授業にて。
「ねー、フリスク、この間のフェロムシルトの反乱のレポート残ってる?」
アークはこそこそとフリスクに尋ねた。
「データはたぶん残ってるが、どうしたんだ?」
緑色の髪の青年が小さく棒読み口調で続ける。
「科学aの授業のレポートのために。」
「機械エンジンの歴史がレポート課題なんだって。フェロムシルトの反乱あたりが簡単そうなんだけど。」
「別にいいぞ。」
そんなことを言っていると。
「・・・いつもながらふさふさしていますね、天才少年くん。はい、問い5アーク君、問い6ディトナ君、追加問題フリスク君、しっかりやるように。」
教授に解答を指名されてしまった。
「おい、貸しだぞ、わかったな・・・。」
フリスクが苦い口調で言った。
追加問題は、追加だけに発展問題が多くより一層難しい。
「はいはい。」
アークはそう言っておいた。
これもアカデミックに出るかもしれない。
そう思えば何とかやれそうな気分になる。
アークたちはホワイトボードに向かって歩き出した。
END




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*atogaki*
はい、安易なネーミング第x号。
何もかも安易といえば安易。
もしかしたら私の書いたもの全部に言えるものかもしれませんが。