聖なる者がお通りになる聖なる者がお通りになる

そは黒き羊なり


優しい光り



天空大陸上の都市、ティカーノ。
そこにあるアーガスティン国立大学のホール。
学生たちが黒い耐刃服を着て落ち着かない様子で立っている。
「今度は何が来るんだろうね。」
黒い髪の少年が言うと、大柄な青年は首を傾げた。
「軍部も手を出しづらい化け物が来るとかいう噂だが。」
「うー、見当付かない。」
各所で同じようなやり取りがなされていた。
学生は全員知らないようだ。
「諸君。」
放送が入った。
「今日現れるモンスターは我々も真相をつかみかねている。」
一挙に学生たちはどよめいた。
そんな恐ろしいものと戦えと言うのか。
「うへぇ・・・・・・やだな。フリスクよろしく。」
「アーク、お前が真っ先に立ち向かえ。」
「いえいえ、フリスク様が。」
しばらく話をしていると、また放送が入った。
「来る、構えろ!」
誰も何も言わずに構えた。
すると、大きな船のようなものが壁をすり抜けて入ってきた。
船を見るのは初めてでよい経験かもしれないが、乗組員を見るとそうも言っていられなかった。
真っ白な人骨がいそいそと動き回っている。
芸能人などでも白い歯は大切らしいが、人骨がそんなに白くてもちょっぴり爽やかなだけで意味はないだろう。
何か、ぺたぺたという音がすると思ったら、肉が腐りきったいわゆるゾンビまで蠢いている。
軍部も手を焼くわけだ。
船が大きすぎて魔法を唱えてもなかなか命中しない。
’今です’
そんな声が聞こえてきた気がした。
’今こそ、あれを’
・・・・そうだ。
今までずっと封印していて片手で数えるほどしか使った事のない魔法がある。
どうなるかわからないが、あれを使うか。
「聖なる者がお通りになる聖なる者がお通りになる」
船の正面に出て呪文を唱え出す。
「アーク、死ぬ気か!」
遠くで船の添乗員らしき者と戦っていたフリスクが叫ぶ。
アークは古代語で呪文を唱える。
「聖なる者こそがならぬもの。全てを破戒する錠の主。」
船が迫ってくる。
記念に写真にでも撮りたくなるくらい近い。
「その死を知る者よ、去れ!」
アークがそこまで言うと、月のような淡い光が降り注いだ。
ホールの光でほとんどわからないが、淡い光がある。
超心理学の常連になりそうなほどすごいことが起こった。
船が、乗組員が、淡い光に包まれて消えてゆく。
また、アークの持つ短剣も光に包まれていた。
学生たちは放心したようにそれを見ている。
フリスクは息を呑んだ。
聖属性の魔法。
間違いない。
誰もが持ちゆることのない力。
一万人に一人くらいしかそんな属性を持つ者はいない。
船が完全に消えると、アークはため息をついた。
「使うまいとは思ってたんだけど・・・。」
「ありがとよ、アーク。」
フリスクはアークの肩を叩いた。
「一応あれでよかっただろ。少なくとも他の魔法でめちゃくちゃに壊されるよりは。」
これだけ早く我を取り戻しているフリスクは貴重な存在と言えた。
他の学生は放心しているか、アークから離れていた。
「あー、おほん、今回の授業はこれにて終了。」
放送が入ると、何人かの学生はアークを避けるようにして歩いていった。
そうでもない学生の方が多かったのは幸いだ。
「お前、あんな強力な魔法使えば何でも殺せるだろ、何で封印してたんだ?」
フリスクが尋ねるとアークはわかってないなあと言わんばかりに首を振った。
「コントロールが難しいんだ。普通に使ったら敵味方どっちも全滅する。今回は船が大きかったから何とか範囲を絞れたんだけど。」
「ふーん、じゃ余った時間で遊ぶか。」
「あ、じゃあ通信対戦しようよ!」
「ようし、わかった。叩きのめしてやるぜ。」
「こっちのセリフさ!」
ちなみに。
ゲームの通信対戦は互角だった。
END






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*atogaki*
何がまぶしいんだかわからない話。
久しぶりにアークのシリアス編を書いた気がします。
風呂敷がたためるかどうか不安になってきました。
ちなみにこのブツで過去に書いた別のブツの伏線消化しました。
ちっぴり安心。