天空大陸上の都市ティカーノ。
その上のアーガスティン大学構内のピエロ像の前に体格のよい男女が同じような服装で立っていた。
そこに例外が一人いた。
濃茶色の目で黒い髪の少年だ。
「よう、アーク。」
名前を呼ばれて、少年は声の主に返事をする。
「フリスク、おはよう。」
フリスクと呼ばれた一際大柄で邪気をあまり感じさせない青年はニヤリと笑った。
「今日の授業は何人かが組むらしいぜ。」
「ふーん。じゃ、一緒に組む?」
アークが提案すると、いいぜ、とフリスクは言った。
「おはよう。できれば私も一緒に組ませてほしい。」
ぬっと無表情な青年が現れた。
「うん、いいよ。でも、こういうときは二人組じゃない?」
アークが言う。
「大丈夫。先輩に最初の授業は四人組と聞いた。」
「四人ねぇ。今で三人で・・・となると。」
「誘うやつは決まってるよな。」
三人は同時にうなずいた。
探すとすぐに目的の青年を見つけることができた。
やや線が細く整った顔立ち、間違いない。
「よう、フリードリヒ。」
フリスクが声をかけると、フリードリヒは嫌そうに振り向いた。
「何か用か?」
「授業、一緒に組まない?」
アークが誘う。
「いや、オレは別のやつと」
「よし、まだ決まってないなら一緒に行こうぜ。」
フリスクはフリードリヒの言葉をさえぎった。
「ちょっと待て、オレの話を」
「イヤだって言うなら、今度街で会った時に「パパ〜」って呼んでやる。」
アークもフリードリヒの言葉をさえぎる。
「ついでに、ダダもこねてやる。「パパ〜あれ買って〜」。」
「・・・行けばいいのだろう、行けば。」
フリードリヒは何かを諦めたようにため息をついた。
そこに教授がやってくる。
「おい、野郎ども、今日の説明するぞ。」
その場にいた学生たちはいっせいに教授の方を見た。
「よし、いいか、今日は初めてゲートを使う。」
学生たちはざわめいた。
ゲートとは天空大陸上からどことは言えない場所につながっているというものだ。
高度な魔法が使われているらしいという噂ならある。
「3、4人で組んで、これからゲートに入って出てこればいい。引き返しはきかん。一応、本気で危なくなったときのために信号弾は渡しておく。」
そう言うと教授は信号弾を掲げた。
すでに使い方がわかっているため、アークはフリスクに話しかけた。
「どこに行かされるんだろうね。」
「始めから手強いところには行かせないとは思うがな。ま、何が出てきても叩き切るのみだけどな。」
そんな感じで話しているといつの間にやら教授の話は終わっていた。
「よし、一組目から行くぞ、一組目はお前だ。」
教授は自分の目の前の学生を指した。
その学生たちはピエロ像の近くから数歩歩いた。
そして、消える。
ゲートの先につながった空間に入ったのだ。
こっちは何番目になるのかな。
考えながらアークはじっとゲートがあるらしいところを見つめていた。
アークたちの番になって、ゲートをくぐると。
彼らはいつの間にか神殿風の建物の中にいた。
通路の両脇には神々の姿を模したと思われる彫刻がされており、通路自体は階段になっていた。
ちなみに階段がどこまで続いているのかはわからない。
全員無言で階段を上り始める。
アークたちの靴が立てる音以外は不気味なほどの静かさだ。
何か金属の音がした。
全員が音源らしいところを見る。
「そういえば。」
ディトナが口を開いた。
「ここと似たような建物で仲間と戦ったことがある。」
視線は向けられていないが、意識の一部は確かにディトナに向いている。
こつこつと誰かが歩いているような音がし始めた。
「牛の頭に人間の男性と。」
アークたちが来た方向から頭だけが牛の生物が現れた。
目は白目をむいていて、充血している。
上半身は裸で、牛の頭より一回り大きい斧を両手に担いでいる。
こつこつ・・・
牛頭の生物の足音が響く。
「フリスク、よろしく!」
「くそっ!」
舌打ちするとフリスクは牛頭人身の生物に切りかかった。
金属同士が激しくぶつかり合う。
「フリスク、当たったらごめん!花ぐらいはお墓に供えるよ!」
アークが叫ぶと青白い光が謎の生物を包み込む。
バリバリという音がして光がはじける。
しかし、謎の生物は攻撃をくらったにも関わらず、平然とフリスクに攻撃を仕掛けた。
フリスクは頭を低くして斧による攻撃を避けた。
「おい、人を勝手に殺すな!だいたいこいつは何なんだ!」
フリスクが叫ぶ。
「舌!弱点は細いほうの舌!」
ディトナが叫び返す。
アークは動き回るフリスクと謎の生物をまじまじと見た。
なるほど、舌が二つあり一方は牛相応の舌、もう一方は蛇のような舌がついている。
「舌だな!」
フリスクが大剣を謎の生物の口元に当てた。
目視したときには、謎の生物は消えていた。
「フリスク、大丈夫?」
ディトナが棒読み口調で言う。
「ああ、なんてことはない。おい、アーク、俺に攻撃をあてるな、さっきちょっと危なかったぞ。」
「え〜、フリスクを助けたい一心だったんだよ。フリスクならたぶん避けるだろうと思ってさ。」
フリスクは剣を鞘に収めてから、わざとらしく咳をした。
「それより、ここは思ったことがそのまま現実になるって場所じゃないのか?」
「多分、そうだと思うよ。」
話しながら歩く。
「ごめんなさい。私は役に立たなかった。」
「気にすんなよ。」
「その通りだ。こいつの身の不幸と思ってやればいい。」
「いや、そんなこと言われても困るんだが。」
先ほどの戦闘で緊張感が抜けたようで、四人は階段を上りながら話した。
今流行の本のこと、キツい宿題や予習のこと、武術の身につけ方、などなど。
話題は尽きなかった。
「おい。」
フリードリヒが立ち止まった。
「この階段はどこまで続くのだ。」
そういえばそうだ。
「そういや、いつまでも歩いてるよな、俺たち。」
「どこかでループしてるのかな?」
「私はここのことはわからない。」
「・・・思ったことがそのままになるのならば、この階段がはやく終わってほしいと念じるしかないのではないか?」
四人は立ち止まっていたが、また歩き出した。
そうして、歩くのが嫌になってきたころに階段は終わった。
階段を上りきると寮のアークの部屋くらいの広さのスペースに出た。
狭くもないし広くもない。
何も置いていない。
出口だけがぽつねんと設置されている。
「これ以上階段がないといいな。」
アークがつぶやく。
静かな場所なので他の3人に聞こえなかったはずはないのだが、誰も反応しなかった。
通路に行こうとすると、その通路から足音が聞こえてきた。
「また何か来るのか?」
フリスクはそう言って立ち止まった。
「狭い方が不利だな。」
「うん、いざというときは頼むよ、フリスクくん。」
「あれは・・・。」
フリードリヒが小さく息をのんだ。
通路から出てきたのは、羊の頭が首から上に乗っかった、他の部分は人間の生き物だった。
つまり、さっきのやつの羊バージョンだ。
ただし、羊頭の方は細身の剣を帯剣していた。
「悪い・・・、オレの頭の中では牛の次に羊なのだ・・・。」
フリードリヒが謝る。
「ってことはコイツも弱点は舌か・・・。」
フリスクだけは一度も立ち止まらずに歩いた。
一定の距離をとってフリードリヒが続く。
そのあとに、アークとディトナが行く。
フリスクと羊がすれ違った瞬間。
アークが見切れない速さで決着がついた。
いつの間にかフリスクが剣を抜き、羊が倒れる。
「すごい・・・居合い?」
「まあな。さて、次行くぞ。」
アークはフリスクの背中が笑った気がした。
通路を歩くとまた別の部屋に出た。
「いいか、次はニワトリとか想像するなよ。」
フリスクが低い声で言った。
「わかってるよ。」
「わかっている。」
「わかった。」
残り三人がバラバラなタイミングで言った。
ふと照明が消える。
ガサガサ
小さなものが動く音がする。
「!何だ!?」
フリードリヒが大声を上げた。
「ごめん!僕だ!つい、クモの大群思い出しちゃって。」
アークも大声で言った。
夜目が利くアークにはたくさんのクモがいることがわかる
ディトナやフリスクもクモが見えているようだ。
「しばらくしたら暗闇に目が慣れるさ。」
フリスクが気楽に言っている。
アークは責任を感じてフリードリヒの手を引いた。
その次にまた部屋があった。
また何かくるのではなかろうか。
アークはそう思った。
ここまでの展開を考えると誰もがそう思うだろう。
予想に反して何も起こらない。
順番からいってフリスクの番なのだが。
「なるほど。強く何かを考えている順番に思っていることを起こす仕組みか。」
フリスクはそう言ってからまったく、とつぶやく。
「フリスク、目に見えないものとか考えてないよね?」
アークが恐る恐る質問すると、フリスクが肩をすくめた。
「あのな、俺は魔法使いを殺す訓練もしてるんだ。思念を読み取られないようにするなんて序の口だぞ。」
それだけ言って、フリスクは口笛を吹きだした。
・・・僕も修行が足りないな。
アークは思った。
結局、この授業で負傷したもの人数はかすり傷も含めて全体の半分でまだ少なかった。
強い恐怖などを形にする仕掛けが施されているそうな。
教授によると肝試しのようなものだという。
僕もまだまだだ。
アークは新たな修行計画をたてることにした。
END
back
*atogaki*
というわけでリーダーだったりするフリスクでした。
結構フツーの話ですね。
ろくでもない会話をする人々。