オンラインメッセージ



さて、どうしようか。
少年は大学寮の自室で、困っていた。
宿題とテストがやっと終わったのでインターネットをしていたところ、困った現象が発生したのだ。
少年がインターネットをしていたデスクトップ型パソコンの本体は、特に変わったこともなく動いている。
しかし、少年の勘は、パソコン本体に何かがいると警告を発していた。
パソコンの画面上にはこれまたどうということもないブラウザなどが起動している。
チャットの画面にはたくさんの文字列が並んでいた。
動画で描写されたどうでもいい画像がいろいろ動いていた。
・・・あー、ホントにどうしよう。
パソコン本体にいるのだから、フツーの生身の人間ではないことだけは確かだが、別に救いにも何にもならない。
人間以外の生き物なんて山のようにいる。
何か手がかりない!?
必死で最近の思い出を手繰った結果、少年はテスト終了後に友人たちと話したことを思い出した。


 テスト終了後、廊下で夏休みの計画や何やらで話が盛り上がった時に出た話だった。
「そういえば、アークはもう知ってる?」
無表情に緑色の髪を短く切りそろえた青年が言った。
「何をさ?多分知らないから教えてよ。」
少年が聞き返すと、話が始まった。
「最近、インターネットで流行っている話。インターネットをしていると、いきなりウイルスを取り込んだような状態になってコンピュータの全データが消えてしまう。」
「おい、ちょっと待て。」
薄茶の髪をした美青年が慌てたように口を挟んだ。
「全データ!?どこからどこまでだ?」
「ええと・・・。オペレーションシステムも入るって言っていた。」
もっとも長身で、筋肉質な青年が苦笑いした。
「ディトナ、根こそぎっつーのと変わらんような気がするが。」
「うといフリスクの言う通りだよ。神秘的な話じゃなくって、ウイルス対策には全力を注ぎましょうって話?」
アークがそう言うと、ディトナは首を振った。
「ううん、神秘的な話。ウイルスじゃないみたいだから。」
「・・・ひょっとして、ワクチンソフトを開発してる企業が、侵入されたあげく何も対策をうつことができていないというあの話
か?」
「フリードリヒ、知ってるのか?」
「知っている。あの事件のおかげで株価がいくら下がったと思っている。」
「そういう話かぁ。」
「うん。それがホームページを見たとたんに感染するとか、メールを見た瞬間とかそういうことではない、みたい。」
「みたい、って・・・。」
「みたい、としか言いようがないな。信憑性に疑問が残るのは確かだ。」
フリードリヒが宙をにらんだ。
・・・ワクチンソフト作ってたって会社、言い訳大変だっただろうなー。
アークは何となくそう思った。
まあ、ビジネスで言い訳が大変じゃないことなんてほとんどないと思うけど。
「チャットで会話をしているうちに感染する、というのはな・・。」
「・・チャット?また珍しい感染源だね。」
「うん。すぐに感染して、パソコンが起動できなくなるとか動きが遅くなるとか、そういうことじゃないみたい。」
「でも、オペレーティングシステムが消えちゃったら起動できないよ。」
「ウイルスというより、たたりと言われたほうがまだ納得しやすい。会話をしているうちに徐々にハードディスクの中身が消えて、気付くと本体に入れておいた情報が何もない、だからな。」
「気付いた時点でチャットやめればいいだろ。」
「やめさせてくれないらしい。」
「ブラウザを閉じても閉じても、また開くらしい。」
「恐ろしいなー。」
「フリスクはそれよりまず、普通のウイルス対策に力を注いでよ。レポートの提出直前にパソコン壊さないように。」


 などと、今考えれば微笑ましい話をしていたような。
断言できる。
絶対これはウイルスじゃない。
こんなに気配が濃いプログラムなど見たことがない。
すでにいくつかのプログラムが消されたらしく、プログラムの一部が起動できない状態になっている。
ちなみに、恐怖のチャットはまだ続いていた。
ディスプレイ上に、文字列が踊る。
"大学生さんですか。こんにちは。"
"こちらこそこんにちは。"
"夏休みって短いんですよね。ちょっと残念。"
"短くても、宿題が出ないだけいいです。"
"ええと、すいません。ちょっと込み入ったこと聞いていいですか?"
・・・一体、何を聞くつもりだ。
いつパソコン本体から得体の知れない生き物が出てきてもいいように、アークはキーボードを持ってなるべく本体から離れた。
ディスプレイは視力のおかげで遠くからでも内容が確認できる。
"あの、魔法使えますか?"
"使えないと、私が入っている学科ではやっていけません(笑)"
アークの表情は笑っていない。
ディスプレイと本体を高速で行き来する眼差しも、緊張がたぶんに含まれている。
ディスプレイの中身が一体どんな表情をしているのかは、想像もつかない。
"すごいですね!ボクにはあまり力がなくって"
嘘付け、この野郎。
こっちが気付いてないと思ってるのか。
"そうなんですか。でも、別に力なんてなくても生きていけますよ。"
"えへへ、ありがとうございます。もしかしてひょっとして、空間操作魔法とか使えます?"
・・・使えると言ったら、どうするつもりだ。
空間操作魔法は様々なところに需要がある。
軍でもゲリラでも暗殺者でも研究員としても。
ただし、天空大陸の構造にもっとも深い係わりを持つといわれる魔法でもあるため、とても強引に雇おうとする者も後を絶たない。
"空間操作魔法ですか?私はちょっと・・・"
アークは腰に短剣と銃を吊るしてあることを確認した。
ここでどうでるか、それが問題だ。
"・・・・そうか!あなたですね!?"
何がだ。
そんなわけのわからないものに選ばれたくない。
とっととオンラインでどこにでもうせろ。
アークの心境とは関係なく、メッセージは吐き出され続けた。
"よかった。やっと見つかった!見つけられなかったらどうしようかと思った!"
"ボクはこうなっちゃったから、あなたに託さなきゃいけないんだ"
"勝手に託さないでください。すみませんが用があるので落ちますね。"
強烈にいやな予感がして、アークはいいかげんにメッセージを打ち込み、ブラウザを閉じようとした。
"あっ、待ってください!城主様にお会いしたら伝えろと言われていたんです"
"月の魔剣を探してください。今持っている太陽の魔剣と合わせれば"
そんなもん、持ってないよ。
っつーか、ブラウザ落ちないし、インターネットとの接続が切れない。
間違ってもこの状況で本体に触りたくないので、本体の電源を直接切るというのは却下だ。
電源ケーブルか、インターネット接続ケーブルを魔法を使ってちょん切るしかないか。
"あの皇帝を殺すことができるはずです。城主様のお力があれば、我々のように無様に力尽きることなどあるおはずがございません。"
本格的に危ない話になってきた。
よし、やっぱりここはケーブルを切る!
"お会いできてよかったです。城主様がこんなおかわいい方だなんて・・///"
アークは反射的にハードディスクをにらんだ。
パソコンにカメラなどの入力機器を取り付けた覚えはないし、事実ついていない。
それでもこちらの顔が見えるということは・・・!!!!
"城主様の完全なる勝利をお祈り申し上げます"
アークは方針を変えた。
ハードディスクを叩き壊すと、中身の危ないヤツが自由に飛び回りだす可能性がある。
それを避けるためにも。
真剣に魔法の構成を組む。
"城主様が現れるのを、ボクやリーダーがずっと待ち"
そこでチャットの文字列が止まった。
アークが魔法を発効させたのだ。
本体に入っていたこいつをパソコンの外に押し戻す。
こんな魔法を使うのは初めてなので成功するか否かは怪しいが、非常時だ。
パソコンの本体から気配が消える。
どこにでもいい!!どっかに吹っ飛べ!!!
アークは精一杯の魔力をパソコンに注ぎ込んだ。


 翌朝、アークはレポートボックスにレポートを出していた。
「でさー、ホントにパソコン壊れたんだけど。電源入れても画面真っ黒だよ。」
フリスクはレポートの束をホチキスで止めながら、苦笑いした。
「夏休み最初にやることは再セットアップか・・。」
「フリスクも何かやったの?」
「必要なプログラムを消したみたいで、主要ソフトが動かん・・。」
「やった、仲間!」
こうしてめでたく夏休みは始まった。


 あんまり知りたくなかった後日談。
あの変なウイルスもどき、被害者何人かの話をまとめると、僕以外誰も城主様だの皇帝をぶち殺そうとか言われなかったみたい。
・・・・黙っとこう、何かイヤになってきた。
END






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*atogaki*
ということで謎が増えるもの増加。
自分で言うのもなんだけど、ホントにこの話終わるかなぁ・・・。
当初の予想より話が大きくなってきたような・・。