ただいま準備中



天空大陸上の都市ティカーノ。
そこにある中央商店街に三人はいた。
「フリスク、行きつけの店っていっても高いんじゃない?」
黒い髪濃茶の目の少年が、言った。
「アーク、あまえのような小市民には値が張るかもしれないな。」
美青年が苦笑いをした。
アーク少年は呆れたようだった。
「一応、1ジェネラル3ピープルマネー(36万円相当)持ってきたんだけど。」
「そんなに何を買うつもりなんだ?しかも金貨持ってきたのか。お前、国家転覆の疑いかけられるぞ。」
フリスクまで苦笑いした。
「ここ以外では金貨で取引するものなんだよ。金額は足りないかと思ったんだよ!僕が持ってるのはボールペン三本と鉛筆五本にノート二冊だけなんだ。」
「フリードリヒ、気分はわかるが、こいつをせめるなよ。」
「本を一冊も持たずに入学試験に合格したのか・・・。」
「試験官の人に、消しゴムは借りたんだけどね。」
そんなことを言いながら三人は商店街を歩いていた。
しばらく歩いて行くと、フリスクとフリードリヒが愛用している文具を買った店らしきものが見えてきた。
万年筆っぽい形の看板がぶら下がっている。
「ここ?」
アークが尋ねると、フリスクはうなずいた。
「ああ、ビル一個全部文具店だ。人の道具まで見る必要もなし、買い物が終わったらここに集合でいいか?」
「わかった。」
「・・うん、いいけど。」
こうして三人は店内に入った。

 店内にはぽつぽとと買い物客が来ていた。
アークは自分の文具を探す。
先ほど店員におすすめはあるかと尋ねると、漫画のキャラクターがけばけばしいくらい印刷されたお道具箱セットを薦められた。
しかし、大学にそんなものを持っていこうとはとても思えなかったので、アークは他の文具コーナーを見ていた。
迷いつつも買い物はすすんでいく。
地味だがかっこいいボールペンを見つけて買い物カゴに入れる。
筆入れも緑と黒のチェックの使いやすそうなものを買う。
消しゴムも買わねばならない。
消しゴム一個とってもいろいろな種類がある。
どれにしようか。
アークは適当な消しゴムを買い物カゴに放り込む。
ノートは5冊組のものを買っておく。
ルーズリーフも買う。
アークはとりあえず必要そうなものをレジに持っていき清算した。
そして、入り口に向かう。
入り口に着くが、フリスクもフリードリヒもいない。
暇なので文具店の隣にあるさらに高そうな文具店に入ってみることにした。

 その文具店は高級感にあふれていた。
3人くらい客がいるが、母親らしき人物が今度幼等部に入学するらしい女の子に何やら言い聞かせている。
手帳ここで買おうかな。
そう思って手帳を手にとったところで、アークは嫌なことに気付いた。
自分以外の三人の客が一直線上になる地点に割って入る。
つい右手を出す。
アークの右手の爪が割れ、親指と人差し指と中指に血がにじむ。
それでもアークは飛んできたものをつかんだ。
飛んできた鉄線をつかむと、アークは鉄線を投げたらしい男を見た。
安物の服は着ていないが、間違いなく裏社会の人間だろう。
鉄線は専用手袋をはめ、くるりとものをまいてすぱっと切る道具だ。
幼等部に入るか入らないかの子供なら、胴体でもすぱっと切れるだろう。
アークと男はしばし見詰め合っていた。
アークが仕掛ける。
鉄線をまだ無事だった左手で操る。
鉄線を扱うための手袋を着用していないため、左手も傷つく。
男はもっと無事ではすまなかった。
右手首から先の部分が切断され、床に落ちる。
女の子より先に母親らしい人が悲鳴を上げた。
男は不利だと悟ったのか右手を回収せずに店から走り去る。
母親らしき女の悲鳴と右手がなくなった男の姿で、人が集まってくる。
「レナちゃん、早く行くからね!」
まだたいして人が集まっていないうちに母親らしき女と女の子は店を出る。
守ってあげたんだから一言くらい何か言ってくれてもいいじゃん。
アークはそう思いつつ、店から出ようとした。
ところが。
目の前に制服をきた屈強そうな男二人が立ちはだかった。
「すいませんが、署までご同行願えますか。」
助けるんじゃなかったかも。
両手の痛みに耐えつつ、アークはうんざりした。
「隣の店で友人が待っているんですけど。」
この程度のことじゃ、絶対、署まで連れて行かれるだろうな。
アークもそれくらいはわかった。
店の近くには野次馬が集まってくる。
「アーク!何やってんだ?」
都合よくフリスクがやってきた。
警察の顔がこわばる。
ああ、権力っていいなあ。
「女の子が鉄線で殺されそうになったのを助けたんだけど。」
「お前、鉄線まで使えたのか。で、その子はどうした?」
「さっき出てったよ。」
わざとらしく咳払いをして、警察が割ってはいる。
「すいませんが、我々はこの少年に用があります。ぜひ署のほうまで来ていただきたいのですが。」
「ここは監視カメラがあるんだろ?すぐ白黒はっきりしそうだし、ちょっと行ってきたらどうだ。」
「ちぇー。」
「しょうがないだろ。手を切り落としたんだからな。」
「おい、何をやっているんだ?ちょっと見てくると行ったきりになりやがって。」
フリードリヒもやってきた。
何人かの警察が互いの顔を見た。
「女の子が鉄線で殺されそうになったから、僕が鉄線を返して男の右手を落としたんだ。」
フリードリヒは顔をしかめた。
「なぜそのような反撃をしたのだ?警察に連れて行かれても文句は言えないだろう。」
「放っておいたら僕の手が落ちてたよ。」
「だから警察にちょっと付き合ってやれって。」
フリスクはそう言って、アークの左手首をつかんだ。
そして警察に向かった。
「すいません、署に着いたら先にコイツの手、治療してやってください。それからいろいろ聞くなら俺は文句は言いません。」
警察官は目をぱちくりさせていた。
フリスクやフリードリヒが連行を止めると思っていたのだろう。
アークはあきらめた。
「じゃ、署に行きますか。」
言われて、警察は慌ててアークの手をとった。
「行ってこい、俺たちは寮に帰るからな!」
フリスクはそう言って連れて行かれるアークを見送った。

 というわけで。
アークは肩をすくめた。
「僕は手先に怪我して今は指に包帯、ってわけ。」
アークの話を聞いていた緑色の髪の青年は重々しくうなずいた。
「いいことをしたと思う。」
「ディトナ、うかつに褒めるなよ。右手まで落としたら警察につれてかれても文句は言えん。」
フリスクがアークの頭を叩きながら言う。
「しかし、お前、鉄線まで使えたのか。」
「うん、まあね。」
今さら言えないので黙っておく。
鉄線など3年以上前に使ったのが最後で、実は昨日まで実戦で使ったことなどない。
むろん、鉄線をつかみ返して相手の腕を落とすなどということは、初めて。
タイミングも忘れていて、いいかげんにひっぱったら相手の腕が落ちた。
要は偶然の産物だ。
まあ、黙っておいても別にいいよね。
END






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*atogaki*
友人に言われて、そういえば鉄糸が出てくる話ってないなあ、と思ってかいたブツ。
もともと深く考えてなかった設定なので、話がペラいかもしれません。
アークも鉄糸の訓練をそんなにつんでないことが判明、武器って難しい・・。