一日は0時からから始まる。
「オブジェクション」だの「ホールドイット」だのというゲームをしていて、時計を見たら0時だった。
そうだ、忘れるところだった。
「オブジェクション」と「ホールドイット」は明日に持ち越しだ。
深い緑色の髪の青年は、リモコンを押す。
テレビに電源が入り、アニメが始る。
有名な歌手が歌う明るくテンポのよいテーマソングが部屋に流れた。
録画の準備はできている。
そちらの方のスイッチも入れてから、パソコンに向かう。
どうもアニメがやっている時にならないと宿題をやる気にはなれない。
たちあげたパソコンの画面に外国語の魔法の論文がうつる。
本日最初の課題は論文の訳だ。
慣れれば簡単らしいが、なれない青年にとっては苦しいものがあった。
辞書を片手に宿題を片付け始める。
アニメの方も主人公が苦戦しているようだった。
味方らしきキャラクターがいろいろと叫んでいる。
研究所の個室の壁は薄いためあまり音量を上げられないのが残念だ。
これが大学寮に住んでいる友人の部屋ならもっと大きな音量にできるのに。
そう思いつつ、辞書をめくる。
アニメを録画して同じ研究所にいる人造人間たちにビデオを回すのも重要なことだ。
外界との接触が他の個体に比べて非常に多く研究所内での話しについていけない青年にとって、会話の助けになる。
人造人間の身で大学に通わせてもらっているだけでも恐れ多いので、勉強はサボれない。
幸い、青年がまわすビデオは周囲で評判がよいので話の種になりやすい。
いろいろ余計なことも考えつつ宿題を進める。
と、そのとき。
「いやああ、愛してるの、キミのことを!行かないで!お願い!」
テレビから一際大きな叫び声があがった。
まずい。
部屋の扉が叩かれ、扉の向こうからも叫ばれる。
「うるさい!静かにしろ!」
青年はおとなしくテレビの音量を下げた。
隣の部屋に住んでいる同僚(人造人間である)は最近特訓をしている。
訓練のキツさからくるのか、テレビの音量にうるさい。
早く部屋変えの日が来ないだろうか。
もっと温和な人物の横の部屋になりたい。
午前9時。
青年はほとんど寝ていなかった。
人造人間としての戦闘訓練にくわえ、大学の勉強とアニメの録画・鑑賞。
全て成立させるには体力が必要だ。
「ディトナ、おはよー。」
青年は、師と仰ぐ少年に声をかけられた。
「アーク、おはよう。」
ディトナも声をかける。
「宿題、全部わかった?」
ディトナが尋ねるとアークは頷いた。
「まあ、だいたいわかったけどディテールがわかんないのもちょっと。」
さすがだ。
アーク(師匠)は自分より遥かに外国語ができる。
わからなかった部分は彼に聞くのが妥当だろう。
「後半わからない部分が多かった。あと、ひとつ聞いていい?」
「難しいことじゃなかったら別にいいけど?」
質問は許されたので、してみることにした。
「恋愛とはどういうもの?」
師匠は顔をしかめた。
難しい顔をして腕を組み立ち止まって考え込む。
「・・・僕に聞くよりフリードリヒに聞いた方がいいんじゃない?まあ、すごく嬉しかったりすごく哀しかったりするような感じだけどね、僕は。」
とりあえず自分には縁がなさそうなものだ。
「すごく」嬉しいとか「すごく」哀しいとか、あまり感じたことはない。
感じたとしても、同僚が気を使って人気店のチョコレートをくれた時や同僚が死んだ時くらいのものだ。
「精神病とかじゃなくて?」
一応聞き返すと、師匠は首をかしげた。
「いや、そんなもんじゃないけど。」
なら、何なのだろう。
フリ−ドリヒに聞こう。
午後5時、ディトナは図書館にいた。
レポートの資料探しのためだ。
あれからフリードリヒにも「恋愛」について尋ねたが、明確な回答は得られなかった。
精神病とはまた違うらしいことだけはわかったが。
アニメでもドラマでもよく出るテーマなのだが、どうも共感できない。
そうだ、資料探し。
ディトナは力を入れなおした。
資料は母国語でいくつかいいものがあるらしいので、それに頼ろうと決めている。
見つけた。
ディトナは本棚から本を一冊抜き出した。
一冊目はこれ。
レポートはなるべく引用文で勝負をつけてしまいたいので、もう一冊も探しに行く。
「あ、ディトナにとられちゃったか。」
師匠が向かい側から歩いてきた。
師匠の手には外国語の資料が2冊ある。
特待生となると脳の構造が違うようだ。
「とった。見る?」
「いいや、また別の資料探すよ。」
じゃあね。
そう言って師匠は通り過ぎていった。
資料のことは少々心苦しいが、仕方がないだろう。
とったもの勝ちだ。
あと一冊、探したら研究所に帰ろう。
研究所に帰ると、ディトナの部屋の前に紺色の髪でディトナとあまり変わらない顔と服装の人間がいた。
「フュー、どうかした?」
「昨日、ディトナが薦めてくれたテレビ、見逃した。録画してたら貸して欲しい。」
ディトナは無言で部屋のドアを開けた。
フューに部屋に入るようにすすめる。
「忙しいのに、すまない。「テレパチィ戦隊」なのだが。」
言われてビデオの中から探す。
たしか、今朝、課題をしながら見ていたテレビ番組だ。
となれば、たぶん。
デッキからビデオを抜く。
これだ。
「おもしろい?」
ビデオを渡しながら話しかける。
「おもしろい。」
ディトナはここでも疑問を投げかけることにした。
「「恋愛」がテーマみたいだけど、「恋愛」ってわかる?」
フューは考え込んだ。
十数秒後。
「わからない。だけど、おもしろい。だから、見る。」
「そう、ありがとう。」
簡単な会話はこうして終わった。
食事の時間がやってきた。
団結力を高めるため、食事は研究所の人間全員で食べることになっている。
とはいっても、ここは少数精鋭を掲げる研究所なので今は10人しか人間はいない。
後輩もちゃくちゃくと育ってはいるが、まだ会話もできない。
「ディトナ、お前、大学でもがんばってるみたいじゃないか。」
自分を開発した研究員の男性に話しかけられた。
ヒゲの濃さと冷徹に見える目が印象的な男性だ。
「おかげさまで。」
そう言うと研究員はじっとこちらを見た。
「どうかしましたか?」
見られながら食事をするの嫌さにディトナが言うと、研究員は口の端を吊り上げた。
「いや、あいも変わらず変り種だと思ってな。アニメを録画する人造人間なんてお前くらいだ。高等な感情と感覚を持てる人造人間を開発できて嬉しいよ。」
嬉しいようには見えなかったが、ディトナははい、と答えておいた。
ディトナは自分の部屋に戻った。
結局、「恋愛」の意味はわからなかったがいいだろう。
今日も「オブジェクション」をして、訓練もこなしてレポートを書こうか。
さっそく「オブジェクション」のスイッチを入れる。
これでもそうだが、やはり正義が勝つのはよい。
ああではないかこうではないか、と考えつつゲームをしているうちに何とか一場面クリアできた。
思ったより時間はかからなかった。
訓練までまだ時間がある。
ディトナはビデオをチェックした。
他の仲間にどのテープを貸しているのか、ときどきわからなくなるからだ。
貸したのはどのテープか、だいたいわかったところで時間がきた。
さて、訓練に行かなければ。
訓練をこなして部屋に戻ると午後10時を過ぎていた。
今日はこれでおしまい。
明日の午前3時ごろに起きれば宿題も間に合うだろう。
睡眠時間がいつもより少し長い。
しかし、たまには休まなければ。
ディトナはベッドにもぐりこんだ。
今日も一日楽しかった。
明日も楽しいことがありますように。
END
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*atogaki*
ディトナの話です、半端に終わっておりましたがちょっと改訂しました。
それでもまだ半端かもしれません。
そして、あとがきに何書いていいのかわかりません・・・・・。
ちなみに私は「オブジェクション!」は買わない予定です。