スーパーホワイト



 天空大陸上の都市、ティカーノ。
そこにある国立アーガスティン大学の雪だるまの銅像の前に、同じ服を着た学生が集まっていた。
「よし、俺とアーク、お前とディトナでいいな。」
身長が高くがっちりした体型の青年が言った。
この場で一人飛びぬけて身長の低い少年はうなずく。
「フリスクと僕とディトナだね、いいよ。」
その場にいた緑色の髪の青年もうなずく。
言っているうちに教授が現れた。
「よし、今日はこれから行く場所で赤い旗を持って帰ってくるのが任務だ。大丈夫だ、過去に遭難したドジは見たことがない。コンパスと地図だけ渡しておく。」
アークはグループで行動していいということを改めて感謝した。
自分ひとりなら間違いなく遭難する。
フリスクやディトナの方向感覚はまともだ。
「よし、順番にゲートをくぐれ!」
学生たちが雪だるまの像の裏へ行きそして消える。
この空間とつながったどこかに。
そして遭難時に使う赤い信号弾を渡され、アークたちもゲートをくぐった。

 アークは空間を越えてすぐ寒くなった。
この授業では着る服が決まっている。
もちろん今も戦闘服を着ているが、寒い。
アークたちが到着したのは雪山だった。
雪が積もっていないところなどなく、地面は雪に隠れている。
ちらほらと雪が降っていた。
「寒いな。」
フリスクも少し震えている。
「うん、寒い。」
ディトナは顔にも体にも何も出さなかったが、言うぐらいだから寒いのであろう。
「寒すぎるよ、これだったらコートでも着てくるんだった。」
「ゲートくぐる前に没収されるぞ。」
「わかってるけどさ・・・。」
三人はすぐに地図を見た。
そして、なぜコンパスが必要なのかすぐにわかった。
このあたり一帯雪山で、小屋もないため、目印が一切ない。
洞窟は点在しているようだが、目印にはなりにくいだろう。
「要するに北東に行けばいいんだな。」
そして、三人は歩き始めた。
「地図なんか何の意味もないじゃん。」
「そうだな、目印なんか何もないじゃないか。」
「でも、地図があったらいいときもあるかもしれない。」
「ふーん、そうかもしれないけどさ。」
三人が歩いていると、何か黒くて大きいものが見えてきた。
黒くて大きな生き物が近付いてくる。
大きな生き物はクマに似た生き物だった。
本当のクマなら今頃冬眠しているはずだが、魔法などで冬眠しないようにしているのであろう。
「よし、アーク、任せたぞ。」
フリスクがアークの肩を叩いた。
アークが唇を動かした。
アークにしか聞こえない音で話す。
静かにクマっぽい生き物が倒れた。
背中から腹まで何かが貫通したような傷跡ができている。
「毎回思うんだが、お前魔法のバリエーション多いよな。」
「うん、でも、そうじゃなかったら大学に入れないよ。僕の腕っ節なんか当てにならないし。」
「そんなことない。アークの戦闘能力は魔法と魔術がなくてもすごい。」
「そう?ありがと。」
三人は雪の中をピクニックにでも行くかのように軽やかなステップで歩く。
「ん?」
フリスクが何かに気付いた。
「え?どうかした?」
「なあ、雪の上にちっさい石がないか?」
「あ、ほんとだ。」
フリスクはその小さな石を持ち上げた。
「なぜ雪の上に?」
「さあな。」
「もしかして、隕石?」
そう言われて、フリスクは方位磁石を石に近づけた。
方位磁石が狂って、その石を指し示す。
「わー、ほんとだ、隕石かぁ。」
「すごい。見たことない。」
フリスクはちゃっかり石を自分のポケットに入れた。
そして、重要な事実に気付く。
「おいおい・・・・。」
フリスクが青くなった。
「どうしたの?」
「方位磁石が狂ってもとにもどらん。」
アークも青くなった。
「うそ、さっきやった程度で?」
「もしかしたら、始めからこれが不良品だったのかもしれないが・・・さっきと全く方角が違うぞ。」
「さっきの方角を覚えているなら、そこを進めばいいのでは?」
ディトナはこんな場合でも無表情だ。
「おぼろげにしか覚えてないからな・・・・とりあえず歩いてみるか。」
こうして三人は雪山で迷った際にとるべきではない行動をとった。

 それから数十分後。
三人は偶然見かけた小さな洞窟で腰を下ろしていた。
外は吹雪になっている。
「・・・信号弾あげてくるか。」
フリスクはため息をついた。
「うん、よろしく。」
アークもげんなりとしている。
ディトナはやはり無表情だが、微妙に疲れている気がする。
「そういえば、地上の本とか見ると、こういうところで迷ったら動いてはいけないっていうよね。」
「洞窟があってよかった。」
「その辺の木でもとってきて燃やして暖を取った方がいいんじゃない?」
「わかった、私が行ってくる。」
「信号弾あげてきたぞ。」
フリスクが洞窟に戻ってきた。
吹雪のせいで半分雪だるまのようになっている。
「で、誰か食うもんは持ってるか?」
「ビスケット4枚。」
フリスクが聞くと、アークがうんざりと答える。
「微妙にケンカになりそうな量だな。」
「しょうがないじゃん、こんな雪の中に放り込まれるってわかってたらもっと持ってくるけどさ。」
アークはふう、と息をついた。
「雪で時間もわからない。どうしよう?」
「・・・救援が来るまで待つ。」
アークとフリスクはため息をついた。
「じゃあ、私が薪をとってくる。」
ディトナは洞窟から出て行った。
しばらくするとディトナが薪を抱えて帰ってきた。
「ありがとー」
「悪いな。さっそく火をつけるか。」
ディトナが洞窟の真ん中に薪を置くと、アークが魔法で火をつける。
これでだいぶ暖かくなった。
「寝るなよ、凍死するから。」
「わかってるけど、眠くなってきた。」
「起きろ!寝かけたら往復びんた10回するぞ。」
フリスクがそう言うとディトナが眠そうに目を開いた。
「ディトナ、起きないとマジで凍死するよ!起きて!」
アークはがくがくとディトナを動かす。
フリスクはちらっと外を見た。
人影すら見当たらない。
翌日、三人は一睡もしない夜を何とかのりきった。
「フリスク、眠い〜。」
アークはしょぼつく目をこすった。
外は今日も元気印・吹雪だ。
「私も眠い。寝てはいけない。」
ディトナも欠伸をしている。
「二人とも寝るなよ。さすがに日付変わっても帰ってこないんだから捜索が始まるだろ。もうちょっとの我慢だ。地図をみた限りではそんなに広い山じゃない。」
フリスクはそう言って頭をふるった。
「早くこないかねぇ。」
「本当に早く来てほしい。」
「全くだ。またしりとりでもするか?」
「もうそんなこと考えるの嫌になってきた。「遭難」からスタートする?」
「そんな陰気なしりとりしたくねぇ。」
ざくっ
三人が平和に話しこんでいると、何かが雪を踏む音がした。
ざくっざくっ
そう、危惧はしていたのだ。
昨日襲ってきたクマのような生き物がここを巣にしているかもしれないことを。
「おい、大丈夫か!」
人の声がした。
「大丈夫だ!」
フリスクが大声で言った。
「みんな!ここにいるぞ!」
昨日の教授が来た。
「無事でよかった!これで遭難者ゼロとは言えんな。」
言いながら教授はアークたちに抱きついた。
「本当に無事でよかった!さ、帰るぞ。」
こうして、アークたちは何とか生きて帰ることができた。

 というわけで。
「まったく・・・授業で一泊二日だったんだよ。フリードリヒ来なくて正解だよ」
アークはフリスクにもらった卵の殻をやぶると中身がプリンになっているものを食べながら言った。
「三人とも、そんな危険な行動をとったのか。」
フリードリヒが呆れたという表情で言った。
「いいと思ったんだ。これ、甘いな。」
フリスクもアークが食べているのと同じものを食べている。
「二回目はやりたくない。」
ディトナもプリンを食べている。
フリスクが箱の中から卵の殻に包まれたプリンをフリードリヒに差し出した。
フリードリヒは無言で受け取る。
「そういえば、フリスクが拾ったあの隕石どうなったの?」
アークが尋ねると、フリスクはその場にいた全員の顔から視線を外した。
「おやじにとられた。ひきかえがこのプリンだ。」
その場を一瞬沈黙が支配した。
「えー!あれだけ苦労したのがこのプリン?」
アークが憎たらしそうに手元のプリンを見た。
「プリンに罪はないんだから、そんなににらむなよ。」
「ふざけるなー!」
こうして、授業一泊二日の旅は終わった。
END




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*atogaki*
ikenaさまのリクエスト「たまごプリン」と「雪山で遭難」で書いてみました。
クマに襲われたのは一回きりでよかったね、ということで。
コンパスも非常に簡単に壊れるし。
つっこみどころが多い気もしますが、まあいいか。
ikenaさまのみ転載可です。