天空大陸上の都市ティカーノ。
そこにある国立アーガスティン大学の裏庭でそれは行われていた。
「はっ!」
黒い髪に濃い茶色の目の少年が、右手に持った短い木刀を振るう。
攻撃をくらいそうになった大柄な青年は、左に向かって一歩踏み出した。
少年は連続して左手のやはり短い木刀を青年に向けるが、青年の方がはやかった。
大柄な青年が太く長い木刀が少年の首に当たる。
少年は微動すらしなかった。
「俺の勝ちだな。」
青年がにやりと笑うと、少年は唇をかんだ。
「あー、あとちょっとだったのに!」
少年は両手に一本づつ持っていた木刀を放り出した。
借り物なのでどうせあとで拾いに行かなくてはならないが、べつにいい。
「アークも負け。」
座って木刀にあごをのせていた緑色の髪の青年が棒読み口調で言った。
「フリスクを倒すまであとちょっと、あとちょっとが埋まんない!」
アークと呼ばれた少年が地団太を踏む。
「俺だって負けるわけにはいかないからな。」
大柄な青年は真面目な顔でそう言って、考え込むように右手をあごに当てた。
「だが、あとちょっとってヤツが曲者なんだよな。埋まりそうで埋まらない。」
「ほんと、一番の曲者だよ。さすが、帝国一の剣士の弟子だね。」
アークは軽く首を動かした。
ディトナはもちろんアークもフリスクも汗一つかいてない上、息が上がっている様子はない。
それだけでも彼らの体力がわかる。
「私も修行が足りない。さらに飛躍していかなくては。」
ディトナがぽつりと言う。
「それを言うなら僕も修行が足りないよ。もっと精進しなきゃ。」
アークは先ほど投げた木刀を取りに行った。
木刀を拾うと、すぐに言う。
「フリスク、もう一回!」
そして木刀を構える。
「お前、あんだけやってまだやりたいのか?」
フリスクが呆れた顔になる。
「今までやった分でも内出血するに決まってるんだ。今日はここまででいいじゃないか。」
「よくない。もっと剣の腕をあげなきゃ。」
「おい、じゃあ鉄線や針みたいな暗殺道具を使えない俺は殺し合いになったらどうしたらいいんだ?」
「大丈夫だよ。あれだけの腕前があるんだったら、剣一本でやってけるって。」
「では鉄線も針も使えず、フリスクにも勝てない私はどうしよう。」
三人三様の表情で彼らは向き合った。
「わかったわかった、一回だけだぞ。」
フリスクは木刀を構えた。
アークが即座にフリスクに襲いかかる。
木刀が鈍い音をたてた。
折れる一歩手前のような音だ。
フリスクはアークの右手首を木刀で殴りつけた。
その隙に左手を狙うが、アークの左手に残った木刀が狙いを達成させない。
アークは小柄さを活かしてフリスクにより接近する。
フリスクの腹の中央を狙う。
しかし、フリスクもそんなことは許さない。
大きく右から左に木刀を振るう。
アークの小柄な体は飛ばされて倒れる。
かろうじて木刀は持っている。
アークはすぐに起き上がった。
近付こうとしたところ、今度はフリスクが速攻をかけてくる。
ごん
鈍い音がしてフリスクの木刀とアークの木刀が同時に折れた。
フリスクの折れた木刀がアークの額に傷を作る。
アークとフリスクは互いの顔を見た。
「俺たちの力についていけるのは真剣だけか。」
「どうやらそのようだね。」
ディトナが拍手をした。
「すごい、私も見習いたい。」
「でも木刀折れちゃったから弁償しなきゃいけないんだけど、それってかっこ悪くない?」
「悪くない、私はそう思う。」
気のせいか、感情に薄いはずの人造人間であるはずのディトナの目が輝いているように見えた。
「あと、ガーゼでも貼らないと眉間から血が出てくるんだけど。」
「ハンカチ持ってたら、それでも当てとけ。今保健室行ったら学生アルバイターしかいないぞ。」
「あっ、しまった、そうだっけ?」
「そう。今日は学生の人が診る日。」
そうこう言いつつ、アークは眉間に持っていたハンカチを当てた。
「それにしてもここまでフリスクにかなわないなんて・・・10回以上やって全部負けたよ。」
「お前、あれだけ手ごたえがあるんだ、並以上の力は確実にあるぞ。なんでそんなに強くなりたがるんだ。」
アークは少し考えた。
「弱くて困ることはあるけど強くて困ることはないと思うから。」
「人生ってものがわかってないやつだな。強くても困ることはあるぞ。」
フリスクはそう言って、アークの頭をぽんと叩いた。
「今日は休んどけ、また明日があるさ。」
結局、アークはディトナが保健室からもらってきたテープ付きガーゼを眉間につけて、その日を過ごした。
END
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*atogaki*
翠香さまのリクエスト「drivers
high(ラルクアンシエル)」というお題で書きました。
そういえばアーク、フリスク、ディトナって準軍人なんだよね、と思った一品。
歌詞見て、着ムービーも見て書きましたが、こうなりました。
ちなみに翠香さまのみ転載可です。