冬休み3日目



天空大陸上の都市ティカーノ。
そこにあるアーガスティン大学寮の屋根に彼らはいた。
「アーク、とりあえず一つ聞いていいか。」
厚いコートを着た大柄な青年が、スコップによる作業の手を止めて言った。
「フリスク、何さ?」
話しかけられた黒い髪に濃い茶色の目の、やはり厚着をしてスコップを持った少年がこたえる。
「何で俺たちは雪かきをしてるんだろうな。」
フリスクは白い息を吐いた。
「ちょうどよい、オレもそれが聞きたい。」
薄い茶髪の、当然厚着の美青年もスコップで雪をかきながら、言う。
「フリードリヒまで、ヤだなあ。」
「私もなぜ雪かきをここでもしているのか、知りたい。」
緑色の髪の青年は珍しくため息をついた。
「ディトナもなの?ちぇ〜。」
「一つ目のなぜ雪かきをしているのか、の回答が欲しいんだがな。」
フリスクが再びスコップによる作業を再開しながら言った。
「それは、昨日僕とエーデルがつい寮の雪かきを引き受けちゃったから。」
「オレには関係ないだろう。だいたい、なぜ昨日やるはずのことを今日やっているんだ。」
「簡単だよ。・・・夜にも雪が降ったからすっかり積もっちゃってねぇ。」
「で、どうして無関係な俺たちが雪かきをしてるんだ?」
「学生は僕とエーデルしかいないから、寂しさを紛らわせようと思って。」
「もしかして、八つ当たり?」
ディトナが無表情に首を傾げた。
当たっているとも当たっていないともつかないため、アークは回答を保留した。
ことは簡単だ。
昨日、アークは一つ年下のエーデルという少年に、どちらがよりいっそう雪かきをうまくできるか、という勝負を持ちかけられ仕方なくアークは昨日から雪かきをしていたのだが。
移民祭で家に帰っていて今日寮に顔を出したフリスクやフリードリヒ、ディトナをアークが職員に雪かきに参加するなどと言ったのだ。
職員の方々は実に嬉しそうに、スコップを渡してくれたものだ。
「くそ、また降ってきやがった。これ以上積もるなよ。」
フリスクがまた降ってきた雪に舌打ちした。
「エーデルが燃えてこないといいんだけど。」
そこからはしばらく4人とも無言だった。

 それから1時間程度経過してから。
アークがスコップさばき間違えた。
故意かどうかは不明だが、フリードリヒにスコップにのった雪が当たる。
「何をする」
フリードリヒがセリフを言い切らないうちに、第二陣の雪が彼に当たる。
反応をじっくり見るためか、ディトナがじっとフリードリヒに視線を送っていた。
「おい、目的は雪かきではないのか?」
フリードリヒが雪をはらいのけている間に、アークはにまっと笑った。
そして、今度はフリスクを狙ってみる。
フリードリヒが当たったばかりだからか、フリスクは避けた。
フリスクも軽く笑って、アークにスコップ1杯分の雪を投げてくる。
それを完全にかわしてから、今度はディトナに雪を、スコップ半分ほど投げてみる。
ディトナも同じタイミングで投げてきたため、両者共に雪を被った。
フリードリヒがお返しとばかりにスコップでアークに雪をかけてくる。
アークはまたしても雪を被った。
被った雪を払おうとせず、アークはスコップでフリードリヒに雪を投げる。
ディトナはフリスクに雪をかけられてきょとんとしていた。
こうして、何となく雪のかけあいが始まる。
もう4人とも雪かきなどしていない。
互いにスコップで切り取った雪をかけたり避けたりしている。
「あっ!」
そこに赤茶色の髪の少年が現れた。
「あっ、エーデル、やっほー!」
先ほどフリスクの雪を被ったアークが赤茶色の髪の少年に声と雪をかける。
「わあっ!」
エーデルは驚いたようだったが、すぐにその場に適応してしまったようだ。
手で雪球を作り、アークに投げる。
アークはそれを避け、スコップを雪の上に突き刺した。
不器用に雪球を作り、エーデルに投げつける。
「お、そういくか!」
フリスクも勢いよく雪の上にスコップを刺して雪球を作り、エーデルに投げる。
それにディトナやフリードリヒもならう。
結局全員で雪球の投げ合いをすることになった。
「やったな!」
などと言いながらフリスクが雪球をアークに投げる。
当たったアークが、
「えいやあっ!」
とディトナに雪球ぶつける。
ディトナはエーデルに雪を投げた直後にその雪球をくらう。
エーデルはフリードリヒに雪を投げて、フリードリヒはフリスクに雪を投げるがかわされる。
結局、雪かき作業と雪合戦の時間割合は2:1程度になった。

 雪かきをしないで雪合戦をしていたため、五人は職員に少々しぼられた。
しかし、全員(厳密には一人除く)地位があるため、たいしたことはなかった。
なぜか全員アークの部屋に行き、順番にシャワーを浴びていた。
「それにしても、お前、雪合戦へたくそだな。」
フリスクがコートについた雪を払い除けた。
「僕、雪で遊んだことなかったからね。」
アークもコートを脱ぎながら言う。
「ボクもこんなの初めてだ。」
エーデルはコートを脱がず、ソファに座っている。
「今はそんなもんなのか。俺はよくやるからな。」
「何で?」
「子供ってのはそういうことが好きだからさ。よく弟に付き合ってやってるんだ。」
そんなもんなのかねぇ。
アークはふーん、とだけ返事をした。
「アーク、シャワー空いた。」
ディトナがバスから出てきた。
「あ、うん。」
アークはそう言ってシャワー室に入った。
今日は貴重な思い出の一日になりそうだ。
ちょっと嬉しい気分にひたりつつ、アークはシャワーを浴びた。
END




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*atogaki*
悠希さまのリクエスト「雪合戦」で書いた話。
雪合戦のわりに地味な話に落ち着きました。
たぶんみんなワイワイ言いながらやってたんだろうけど、セリフが出てこなくて。
ちなみに、悠希さまのみ転載許可です。