天空大陸上の都市ティカーノ。
そこにあるとある貴族の邸宅の庭で少年はクリスマスイブの夜を満喫していた。
周囲はたくさんの電灯が灯り、庭の緑も明るく照らし出されている。
暖房のため透明な結界が魔法により張られており粉雪とおぼしき幻が空を舞う。
地上が暖かすぎるのか空にはあまり星が見えない。
「よう、アーク、お前も誘われたのか?」
正装をちょっと崩したような服装の大柄な青年に話しかけられた。
「やっぱフリスクも招待されたの?」
「ああ、フリードリヒの招待だしな。」
アークはグラスになみなみとアイスコーヒーを入れていた。
この季節によく飲むな、とフリスクは呆れていた。
だってアルコール以外の飲み物がアイスコーヒーしかないんだもん、とアークが答える。
「おい!」
また誰かに話しかけられた。
振り向くと赤茶色の髪をして目つきの鋭い少年がいる。
「あ、エーデル、こんばんは。」
挨拶をするとエーデルも力強く、こんばんは、と言った。
「それにしても、今日のパーティーはフリードリヒ個人のちょっとしたパーティーだよね。」
「ボクもそう思ってここにきたのだ。」
「そうさ、だから見ろよ。」
フリスクの視線を追うと、フリードリヒがいた。
何人かの身なりのいい男女と歓談している。
「ホストだから、もう今日は挨拶だけで終わるんじゃないか?」
「でも、明日クリスマスで帝宮でパーティーあるでしょ。つらくないかねぇ。」
「今日は身内しか来てないパーティーだからな、そう大して疲れはしないだろう。」
そう言いながら、フリスクの視線は屋台のようなものに移っていた。
金を払って評判のよい料理店を招き、その場で料理を作らせている。
暖かい料理はどれもおいしそうだ。
アークはさっそく変わったカナッペや寿司をとった。
なかなかおいしいカナッペだ。
フリスクは別のところに行ったらしく、天ぷらなどを皿に乗せていた。
「このパーティー天ぷらまであるの?」
「あるぞ。なかなかおいしい。」
「こっちはサーモンがのったカナッペがお勧めかな。寿司はただでさえ冷えてるのに冷たいから。」
アークとフリスクが話していると、エーデルもやってきた。
皿には大きめのチキンが入っている。
「あ、いいな、それ。どこにあったの?」
「自分で探すことだ。それでこそいい料理が味わえるというものだ。」
ちぇっ
アークは大きめのチキンを探してパーティー会場を歩き回った。
しばらくして、また三人でグダグダした話をしていると、フリードリヒが近付いてきた。
「お、挨拶は終わったのか?」
フリスクが尋ねると、フリードリヒは頷いた。
「ああ、終わった。楽しんでいるか?」
「うん、ところでここの真ん中に立ってるでっかいもみの木は一体何?」
「クリスマスツリーに決まってるだろ。」
フリスクが会話に加わった。
「そうだ、クリスマスツリーだ。あれを飾り付けるだけでも金がかかっているのだ。しっかり目に焼き付けておけよ。」
言われて、アークは木をじっと見た。
木やら天使やら花やら様々なオーナメントが飾られている。
ハトやらカラフルなステッキやらもぶら下がっている。
そうか、クリスマスというのはこういうものなのか。
「じゃ、乾杯でもする?」
「そうだな、フリードリヒもやろうぜ。」
「まあ、それぐらいなら。」
「ほら、エーデルもノンアルコールのシャンパン持って。」
四人は手持ちのグラスをしっかりと持ち直した。
そして。
「かんぱい!」
ガラス同士がぶつかり合う音がした。
全員グラスをぶつけ合うと、四人は一口二口グラスの中身を飲んだ。
「つはー、やっぱ、乾杯はいいよな。」
フリスクがいう。
「夜も更けてきたな・・・。あともう少しで解散か。」
「いいじゃねえか、どうせ帝宮でのパーティーにも出るんだろう?どうせすぐ会うじゃないか。」
「悪いけど僕はここらで帰るよ。明日、昼間に単位認定試験があるから。」
「そうか。馬車を呼ぶ。少し待っていろ。」
フリードリヒがいなくなるとアークは小声で言った。
「あのさあ、あの小部屋からフリードリヒのお兄さんらしき人がこっち見てるんだけど。」
「しっ!言わない約束だ。」
こそこそと会話をする。
「フリードリヒが主催しているから文句も言わせなかったんだろう。」
「兄弟仲の噂はよく聞くぞ。」
「へぇ、仲悪いんだ。」
「何の話をしているんだ。」
フリードリヒがやってくる。
「いや、バーコードハゲの愚痴話だが。」
フリスクがさらっと言った。
「エーデルまでか?まあいい、アーク、馬車の準備ができたぞ。」
「ありがと、じゃそれに乗って帰るよ。」
「ここから馬車の乗り場までは遠いからな、ついていってやる。」
フリードリヒはアークの手をひいて歩き出した。
フリードリヒとアークの話は尽きることがなかった。
どちらも魔法や魔術の研究者としての意見交換に余念がない。
「でもさー、空間魔法使うと、ときどき失敗して違うところに出ることあるんだけど。」
「それは制御の問題だろう。制御器持ってるのか?」
「制御器はいつも持ってる短剣だよ。今日は持ってないから魔法を使うと大味になりそうだね。」
「そういう状況で使うなよ・・・・、ああ、ここだ。」
フリードリヒが止まったところの近くに馬車があった。
「今日はありがとう、明日また帝宮で会おうね。」
アークが笑って言うと、
「そうだな、明日も会うな。」
フリードリヒが苦笑いした。
アークは馬車に乗り込んだ。
「じゃあね。」
馬車の御者が馬を走らせる。
こうして、クリスマスイブは色気のない展開とともに過ぎていった。
END
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*atogaki*
クリスマス、ということで題名もそのまんまなクリスマスものを書いてみました。
天空大陸はクリスマスではなく移民祭なのでこれはパラレル設定です。
男同士の暑苦しい世界になったかも。女の子書くの苦手で・・・・。