機械音痴で英語が得意



舞は自室に戻るとすぐに制服から私服に着替えた。
携帯電話も買わねばならないが、服も買う必要がありそうだ。
そう思いながら机の引き出しを開けてみた。
なぜか通帳が入っている。
嫌な予感がするが通帳を開いてみる。
百万円が入金されていた。
携帯電話とはそんなに高いものだろうか。
舞が悩んでいるとチャイムが鳴った。
舞は通帳を持ったままドアを開ける。
「やっほー、って何で通帳ぶら下げて出てくるわけ?ちゃんと金庫に入れる!」
洋子が壁と一体化した金庫を指す。
「すみません!」
舞は慌てて金庫に通帳を入れ、鍵をかける。
「通帳を見ていた、ってことは入金されている金額にびっくりしたのね。」
愛菜が優しく言う。
「えぇえぇと、あんなにもらっていいものなんですか?」
舞はいろいろな意味で慌てた。
「そりゃそうよ。携帯二台ににパソコンにプリンタにハードディスクドライブ。買う物は多いわよ。」
「携帯電話は通話用とパソコンみたいな機能のものを一台ずつ買わないといけないですし。」
青くなる舞の肩を洋子がぽん、とたたく。
「凍に手伝ってもらえばいいと思うわよ。あたしも凍に貸しができていいし。」
「朝から思っていたんですけど、洋子さんは凍さんとお友達ですか?」
凍の能力が怖いなら、ビンタすらできないだろう。
貸しができた、などと言えるわけもない。
「ああ、従兄弟よ。あたしの家系は本当の神職が多かったみたいで、そういうちからの持ち主が多いのよ。」
「本当の神職?」
「安い御祈祷なんかで出てくる神主とかと違って、本当に限られた場面でしか出てこない、本当のちからの持ち主よ。」
すごい世界になってきた。
機械のことと合わせてくらくらしてくる。
「舞さん、大丈夫ですか?」
「そこのソファに座った方がいいわ。」
ともよと愛菜に言われてソファに座る。
ソファはふかふかしていた。

 何とか舞の調子が良くなると、洋子がにっこり笑った。
「じゃ、ありがたくも何ともない能力見せるわよ。はい、ここに紙があります。」
洋子が持ってきたカバンから一枚の紙を取り出した。
赤い文字で0点と書かれているのがちょっと気になる。
しゃっ
そんな音がしたような気がした。
紙があっという間に切られ、テーブルの上に舞う。
「見えない刃、よ。ハサミで切る方が楽なのよ、これが。」
「じゃあ、仕上げでもしましょうか。」
愛菜がいつも着用している手袋をとった。
そして、洋子が切った紙で一番大きい紙に触れる。
何かが焦げる匂いがした。
愛菜が触れた部分が焼けている。
更に愛菜が指を動かすとその動きに合わせて、紙が焼けた。
そして愛菜はまた手袋を着用した。
「私が素手で触れると燃えてしまうみたいなの。だから、特例で手袋をしているの。」
ともよが洋子が切った紙を集め始めた。
愛菜が焼いた紙も混じっている。
ともよがそれらにさっと手をかざすと、元通りの0点の英語の小テストになった。
「わたしは、こんな感じ。いろいろ直せるからちょっと便利。」
三人がにこにことこちらを見ている。
そういえば、スケッチブックも買い忘れた。
仕方がない。
「洋子さん、この小テストの裏面を使わせていただいてよろしいですか?」
「いいわよ。」
舞は消しゴムを置いてから、ここに来る直前に描いたような棒線の人間を描いた。
ぼよよよ〜ん
間抜けな音がして棒線の人間が部屋に立っていた。
まずともよに握手、愛菜に握手、洋子に握手をする。
それから棒線の人間は、部屋を満喫するかのようにぱたぱた走っていた。
「すごーい。さすがクイーン!あの絵、まだ動いてるわよ!」
洋子が拍手をした。
い、いつまで動いてるんだろう。
舞は苦笑いした。
「すごいわね、握手した実感がちゃんとあるもの。」
愛菜も拍手する。
「すごいです!描いたものが出てくるなんておとぎ話みたい。」
ともよにも絶賛された。
おとぎ話と言えばおとぎ話のようかもしれないが、それを言うならこの学校自体おとぎ話で出来ている気がする。
「あの、私でよければ英語教えて差し上げましょうか?」
「え?舞って特別授業じゃなかった?」
「英語は特別でわかるんです。あとの科目はわからないんですけど。」
「じゃ、みんなで英語やる?あたしだけ、ってのもつまらない。」
「みんなで予習しましょうか。」
「やるやる!すぐ教科書とか持ってくるから!」
そう言って三人が部屋を出た。

 そこにサングラスをかけたスーツ姿の男性が入ってきた。
黙って薄い冊子を舞に渡す。
「寮長としての自覚やなすべきことの説明がすべて載っています。しっかりと読んでおくように。」
この調子だと薄い冊子は丸暗記せざるおえなさそうだ。
ため息が出た。
「忘れていましたが、一般生徒には読ませないように。」
金庫に入れておくことにする。
「では、失礼しました。」
男性は出て行った。

 先ほどの男性と入れ違いで洋子たちが来た。
「あ、寮長の指導受けてた?」
「いえ、別に。」
洋子の問いに、説得力のないことを言ってから、勉強を始めた。
たわいもない会話をして、英語でしゃべったりする。
楽しい得意科目の時間は過ぎていった。
END



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*atogaki*
思ったよりすんなり書けました。
機械音痴はやばそうです。
凍は知らないうちに借りが増えています。