制服は丈夫そうな素材でできたおしゃれなものだった。
部屋に戻った後、舞は制服を着て鏡の前に立ってみた。
制服はあつらえたようにサイズが合っている。
いつに間に、とは思ったがまだ何かあるのかもしれない。
ここは謎だらけの場所。
胸に付けるクイーンのピンが、肩にのしかかる。
舞は学校指定のバックを持って部屋を出た。
一階のエントランスに行くと三種類の制服を着た生徒たちであふれかえっていた。
と言ってもただ色が違うだけだが。
「舞さん、よく似合ってますね。」
いつの間にやらそばにともよがいて、舞の肩が跳ねる。
「うんうん、かわいい子は何着ても似合うわね。」
洋子が舞を見てうなずく。
「朝のエントランスはこんなものよ。みんなが待ち合わせに使うから。」
待ち合わせとな。
これだけ人がいて相手を特定できるものなのだろうか。
「ああ、もちろん携帯電話使うのよ。」
洋子が言ってから、そっか、と言った。
「舞が携帯電話持ってるわけないわよね。ここでしか使えないし。」
「あのう、えっと。」
話からだんだんと自分がずれていっているのがわかる。
ここでの日常会話なのだろうが、どうもよくわからない。
「要するに舞がかわいくて、携帯電話が必要なだけよ。」
察してくれたのか、愛菜があっさり言った。
「これだと、ふふっ、凍に貸しが作れそうね。」
洋子が不気味に笑った。
「今度の週末、凍と携帯見に行くといいわ。あいつ、機械に強いから。」
「でも、私機械に弱くて。」
「いいのいいの、凍なら設定まで手伝ってくれるわよ。ところで今日の弁当何にする?」
ここではお昼は弁当式、と。
脳内にちょっとずつ刻んでいく。
「桜弁当。」
ともよが言うと、愛菜がため息をついた。
「あのね、桜弁当はおいしいらしいけど、すぐになくなるの、ね?妥当なところで鶏そぼろくらいかしら。」
「やっぱ、そこらへんよね。」
洋子も賛同する。
忘れてた。
「あの、ごめんなさい。私、特別授業だからもうそろそろ行かないと遅刻しちゃいます。」
「あ、引きとめてごめん。場所わかる?」
「はい、たぶん何とか。」
舞は部屋からこっそり持ってきたしおりを見つつ、教室に向かった。
舞は教室での第一声に怒られたが、あとはひたすら勉強が難しくて数字と漢字の海にのまれている気分だった。
方程式はわからない、漢字は読み間違える、古典は読み仮名についていけないと悪いことだらけ。
マンツーマン方式だからよかったものの、以前の学校のように一対多だったら付いていけなかっただろう。
教師も我慢強かった。
教えればできるのだが、何せ欠落している部分が多い。
昼休みを示す鐘の音が鳴った。
舞は教師があきれるほど即座に走りだした。
ふわりとした髪に低い背丈、愛らしい顔。
その外観を裏切る速さで舞は弁当を売る場所に走って行った。
補習をしていた教室が弁当を売る場所に近かったわけでもないのに、舞は一番乗りだった。
さすがに息が切れる。
「桜弁当四つ下さい。」
桜弁当は箱からして立派な弁当だった。
そのあとにおもに男子が集まってくる。
女子で一番乗りは珍しいのか視線が痛い。
背丈と弁当の大きさと重さの都合上ふらふらしていると、洋子たちが来た。
「す、すみません。桜弁当はとれたんですけど、ちょ、ちょっと重くて。」
洋子たちはすぐに弁当をとった。
「ありがとう、おいしそうです。」
ともよが弁当をじっと見た。
「ささ、ピクニックにふさわしい場所に行きましょ。」
だんだんと人が増えてきたので、四人は立派な弁当を持って移動した。
四人は飲食禁止の芝生の上で弁当を広げた。
なかなか凝った作りで、どのおかずもおいしそうだ。
「舞!ありがとう!夢の桜弁当が食べられるなんて!」
洋子がおかずを一品食べながら、言った。
「本当、舞にお礼を言わなきゃいけないわ。」
どれから食べようか迷っている風の愛菜も嬉しそうだ。
「おいしいれふー。」
ともよが口いっぱいにほお張りながら、礼を言った。
幸い口の中のものは飛ばなかった。
舞も食べてみて、走ってよかった、と実感した。
おいしい。
「もー、舞がそんなに走れるなんて信じられないわ。」
おいしいランチは終わり、四人は幸せをかみしめていた。
「私もここまで速く走れるとは思わなくて。」
え?
他の三人が舞の顔をまじまじと見た。
走れると思わなかった?
普通自覚していると思うのだが。
「つらいことじゃなかったら、また事情教えて。あたしたちでよければちからになるから。」
洋子が舞の顔をのぞき込む。
「それにわたし達、お互いにちからも知らないわ。よかったら放課後、エントランスで教えるわ。」
「ぜひ、私の部屋で教えて下さい。あの部屋は広すぎて、一人じゃもったいない気がするから。」
舞は笑った。
新しい環境でも、いや前の環境より楽しそうだ。
洋子に愛菜にともよに凍。
あっという間に友達が増えた。
昼からも補習があるが、それを一瞬忘れるほど昼は楽しかった。
END
back
*atogaki*
意図していたわけではないのですが、賑やかな話になりました。
登場人物五人なんだけど、それ以上にふくらんだような。
舞の補習がいつまで続くのかは、先生次第だと思います。