難しい朝



夢を見た。
何かに飛ばされて自分が飛んでいく夢。
着地はどうなったのかわからない。
そこで目が覚めたからだ。
舞は飛び起きた。
小柄な体でキングサイズのベッドの真ん中で寝ていて、大きなテレビにソファ、
勉強机もある。
「夢じゃなかったんだ。」
舞は呆然としかけたが、すぐに動き出した。
まずベットから出て、歯を磨いて、顔を洗う。
パジャマを脱ごうとして、気付く。
今から制服着ていいんだっけ?
テーブルの上の学園生活のしおりを見ようとすると、チャイムが鳴った。
「もしもーし、朝ごはん一緒に行かない?」
洋子だ。
舞はすぐにドアを開けた。
「おはよー、ってまだ着替えてないの?」
洋子はあきれ顔になる。
「ほら、昨日の夜に来たばかりだから知らないんじゃない?」
ともよが言う。
愛菜は黙っていた。
三人とも私服を着ている。
「あ、私服だったんですね!じゃすぐ着替えます。」
「どうせ朝ごはん食べたらすぐ制服なの。だから、一番どうでもいい服にするといいわ。」
愛菜がこの後のスケジュールまで教えてくれる。
一番いい服も何もひらひらでレースが付いているような服がクローゼットの九割を占めている。
何とか一番動きやすそうなワンピースを見つけた。
いつの間にやら三人がテレビ観賞をしていたので、風呂の更衣室で着替える。
「お待たせしました!」
舞が着替えてくると、三人の目が点になった。
「あのう、ちょっと豪華すぎませんか?その服。」
ともよが三人共通の思いを口に出す。
「これが一番豪華じゃない服なんです。い、行きませんか。」
洋子が笑顔になる。
「おけ!行きましょ。」

 朝はバイキング方式だった。
一番混む時間帯に行ってしまったらしくなかなか席がとれない。
すると、四人がけの席で一人で朝食をとっている少年がいた。
座っているのでよくわからないが舞より少し身長が高いくらいで健康的に日焼けしている。
まさしくやんちゃぼうずといった感じで、やや茶色っぽい髪をしており残り一個の焼きそばパンを食べていた。
「ここにするわよ、みんなは先にご飯とってきて。あたしはあとから行くから。」
「おい。」
男の子が抗議する。
「オレまだ食ってるとこなんだけど。」
「さっさと食べなさい。あ、舞は知らないわよね、こいつは赤井凍。よろしくね。」
「オレのセリフを全部とるな!」
凍が焼きそばパンを食べながら、舞を見る。
凍の食べる手と口の動きが止まった。
「あの、どうなさい」
舞が言いかけるが、そこで洋子の軽いビンタが凍のほおを襲う。
幸い、何も吐かなかったが、凍が抗議する。
「いって、何すんだよ!」
「転校生に色目使うんじゃないわよ!朝からこうじゃ、先が知れてるわねぇ。」
洋子がふうと思わせぶりにため息をつく。
あっと言う間に凍はパンを食べ、一応挨拶をする。
「オレは赤井凍。赤のキングやってる。わりぃけど、それじゃ!」
そう言いながら、凍はトレーを持って走り去った。

 凍と無駄にもめただけで、朝食はおいしく食べられた。
「あー、凍はね、あたしたちと同い年で、赤フロアのキング。つまり一番危ない能力を持ってるやつの統括をしてるの。」
こういうところにも危ない人っているんだ。
「凍さんは強いですから、注意して下さいね。」
ともよがしゃけをこぼしつつ話す。
「ま、舞は黄色のクイーンなんだから定例会議とかでいつでも会えるわよ。」
洋子がバナナをほおばる。
「く、クイーンって何ですか?」
「そのまんま。黄色のフロアの統括を行う人だけど?」
舞はレアチーズケーキを食べながら青くなった。
「あの、その、よくわからないんですけど。」
「はー、食べた食べた。いいのよ、そのうち何か説明されるでしょ。」
洋子はのんきに構えている。
「そうよ、絶対昨日説明不足でした、って言いながら説明に来るわ。」
愛菜がはしを持って一礼する。
彼女なりのごちそうさまらしい。
全員が食べ終わると制服を着てエントランスで待ち合わせ、ということになった。
いきなりクイーンなんて言われても。
舞は先が心配になった。
END



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*atogaki*
舞の考えている「危ない人」と凍が統括する「危ない人」には大河のような差がありそうです。
そんな人をはたいて平気な洋子もつわものな気がしますが。