真面目なのかだしか



舞は今、背が高く茶色い髪で青い瞳の少年ととある部屋で机に向かっている。
どうしてこういうことになったかはわかっているつもりだ。
朝、針渡からメールがあった。
よかったら勉強みるよ、と。
何がいいのかよくわからないが、毎度愛菜や凍に教えてもらうのも申し訳ない気がしていたので話に乗ってみた。
すると、針渡の部屋に招待された。
そして勉強を教えてもらっている。

 針渡の部屋はエアコン以外の家電製品は安いものが多かった。
本人の華やかなイメージとは裏腹に部屋に置いてあるものはファッション度外視で暑苦しい。
人のことは言えないが意外だった。
「鈴夜さん、こことここ、間違ってるよ。」
部屋の雰囲気にとまどっていると、また生物の問題を間違えた。
「失礼しました。」
「やっぱりコンタクト変えたの、気になる?」
家電製品が安いもの揃いで気になります、とは言えない。
一応、先輩だ。
だいたい、舞にしてもクローゼットだらけなのだから部屋の個性に文句はつけられない。
「あ、もしかして、オレの部屋気になる?北海道出身だから暑さに弱くてさ、エアコンないと過ごせないんだ。」
どこかのバラエティ番組で、地方による気温差には2、3年で慣れる、と言っていたような気がする。
先輩のことだ、もう適応しているのではなかろうか。
「あとはね、安く済ませてる。部屋より自分重視。」
ある意味舞も同じだ。
ファッション重視、クローゼットには嫌というほど服がある。
「すみません。」
「いいよ、そんなこと。それより勉強寄りのゲームしようか。」
基礎学力もないのにゲームをして大丈夫なのだろうか。
そもそも小学生レベルの学問がガタガタなのだ。
舞の不安は放っておかれて、明は本棚から使い古された薄い本を持ってきた。
何回も見たのか、ページの端は茶色い。
「はい、これ見てね。」
舞は明の開いたページを見た。
人体模型のようなものが書かれていて、棒線と何も書かれていない解答欄があるだけ。
「で、問題。どこに何があるのかな?」
舞は気が遠くなってきた。

 舞は嫌というほど時間をかけて解答した。
驚くことに半分くらいは正解だった。
「鈴夜さん、けっこうやるじゃない。だから、人間に襲われたらここら辺にパンチかキックを入れればいいんだよ。」
明も満足そうにしている。
「ありがとうございます。この本はよくご覧になるんですか?」
舞は少し嬉しかった。
記憶をなくしてから英語以外で褒められたことはない。
「うん、オレ医者になりたくて必死で勉強中だから。内臓も知らないで医者になれるかっ、てね。」
新鮮かもしれない。
ここで生きている友人たちは流されるがまま、生きている。
叶うかどうかはともかく真剣に夢をみているということはいいことだ、きっと。
「で、川北さんってこういうの詳しい?」
きた。
来るとは思っていたが。
「愛菜さんはどちらかというと経営に詳しい、と思いますけど。」
経営か。
明はつぶやいてから嬉しそうにしている。
「その、本人も経営初期ならわかる、とおっしゃっていました。」
「よし、どう当たればいいかはわかった。」
止めた方がいいと思う。
喉から出かかった言葉を飲み込む。
愛菜の態度からみても、無駄だろう。
「じゃ、生物次いこうか。あんまりのんびりしてると宿題終わらないからね。人体がある程度わかれば動物もわかるさ。」
そうなのか。
よくわからないが舞は精いっぱい努力することにした。
宿題はすいすい進んだが、途中愛菜のことをちょこちょこ聞かれたのは言わないことにしておこう。
END





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*atogaki*
針渡君に出張ってもらいました。
実は愛菜のことが知りたかっただけだろう、とか思うことはあります。
夢を叶えようとするのはいいことでしょう、たぶん。