従兄弟揃いの夏



ある昔の夏。
山と川を背景にした広い一軒家の玄関。
「おーい、和樹!こっちこっち!」
小柄な少年が手を振る。
「凍兄ちゃん!」
同じくらい小柄な少年が、また同じように手を振り返しながら、凍の元に向かう。
「ほ〜ら、和樹!遅れるんじゃないわよ!」
和樹の足はぴたりと止まった。
少年たちより一回り大柄な少女も手を振る。
「おい、洋子、お前は手を振るんじゃねぇ。」
「私にだって手を振る権利くらいはあるでしょ。」
洋子は腕を組んで顎をあげる。
そんな動作が彼女には似合っていた。
「和樹!洋子ごときで逃げてたら人生大貧民になるぞ!」
屋敷の大きさには似合わないことを言って、凍が和樹に駆け寄る。
「ほら、さっさと行くぞ。曾爺さんの何回忌だっけ、まあいいや、とにかく行くぞ。」
凍は和樹の手首をしっかり握って走っていく。
「あのう、凍に洋子に和樹?もうそろそろ始まるよ。」
屋敷の玄関からつっかけを履いた少女が出恐る恐るといった体でてくる。
「ひなた、あんたも巻き添えくって遅れるって。あいつらは置いといて先上がってよ。」
「え、でも」
「おい、置き去りにするんじゃねぇ。」
凍と和樹がいつの間にやら玄関にたどり着いていた。
玄関まで廊下を走る音がする。
「全員遅刻!もう坊さん来た!」
「うわ、やば!」
現れた少年は顔の特徴がややひなたに似ていた。

 正座して長い読経に耐えるとやっと従兄弟同士の休み時間だ。
「あー疲れた。凍、足揉んで。」
ひなたと少女漫画雑誌を読んでいる洋子が、平然と言った。
「誰が!あー、ひなた、お前はオレの足を揉まなくていいからな。」
凍の足に触ったひなたが赤くなる。
「かげみの方も止めろよ、一応双子の姉だろ。」
いつの間にやらかげみは洋子の足を揉んであげている。
「尽くす双子。」
和樹が小さな声で言った。
「安寿樹寺(あんじゅきじ)の名が泣くぜ。睨むなって、人の記憶書きかえるなよ。」
「そっちこそ。人を風化させてなかったことにするなよ。」
ひなたは弟と凍の間でおろおろしていた。
「大丈夫だって。凍兄ちゃんとかげみはいっつもこうじゃん。」
さすがに和樹も呆れたようだった。
「でも、あ、そうだ、みんなで今晩花火しない?」
ひなたが提案するとその場にいた全員が彼女を見た。
「賛成!ぱーっとやろうぜ!」
「そうそう、凍のおこずかいでぱーっとね!」
「わたしのお金でいいよ?」
「遠慮するなって、ここは平等に。」
「許可とらないと花火買ってきてからやれなくなったら悲惨じゃない?」
「よーし!」
似たような年齢の子供5人はバタバタと動き出した。

 その日の夜。
子供5人は景気良く花火を買ってきて、道路に出た。
屋敷の庭は日本庭園なので着火すると怒られるからだ。
「よし、じゃあネズミいくよ!」
なぜかライターを使い慣れた洋子がねずみ花火に火をつける。
しゅーという音を立ててねずみ花火が回りだす。
なぜか和樹の方に向かって。
「うわ、何でこっち来んの!?」
和樹が救いを求めるような目で凍を見た。
凍は応えてあげることにした。
しゅわわわわわわとねずみ花火の火が強くなる。
わー、という声と共に和樹の姿が遠くなった。
「あの、火、強くしちゃって大丈夫かな?」
ひなたが心配そうに和樹が消えた方を見る。
そう、凍はわざと火を強くしたのだ。
「これで洋子の和樹いびりも短時間で終わるだろ。そっちこそもっと景気のいい花火つけろよ、いきなり線香花火もどうかと思うぜ。」
ひなたは嬉しそうに花火を見ている。
凍の横で。
ざーとしか表現しようのない音がして、凍とひなたが思わず音源を見た。
かげみがジェット花火なるものを一気に5本ほど消費している。
ものすごく明るい。
洋子に至っては道の真ん中に出て大きめの打ち上げの花火に火をつけようとしている。
って、あれ?
そういう花火は禁止と言われたはずだが。
「洋子!早まるな!嬉しそうに火つけるな!」
遅かった。
ひゅーどどどどどん
空が一瞬星達と共に激しく明るくなった。
屋敷から大人が出てくる。
お、怒られる!洋子の巻き添えで!

 というところで凍は目を覚ました。
幸せだった頃の夢を見るのは久しぶりだ。
今が不幸なのかと聞かれると困るが。
あの頃より体格も少し良くなって。
凍は伸びをした。
さて、さっさと着替えて朝飯食うか。
混んでいる時間帯だが、この時間を逃すと遅刻する。
この後、運命的な出会いが待っているのだか現時点では誰も知らない。
END





back



*atogaki*
従兄弟同士の集まりでした。
自分が小学生のころ、大学生や高校生の従姉妹と夏に会っていたので、
それを参考に書いてみました。
年齢は全然出てきませんが凍と洋子、ひなたとかげみ以外同じ年齢の人はいません。+