強引な始まり



車は都心のきれいな商業用ビルのような建築物の前で止まった。
普通こういったところにあるような卑猥な店もなく、酔っ払いなどの姿も見ない。
舞がきょろきょろしているのがわかったのか男性は言った。
「ここは平和な通りだから安心していいよ。明日から通学路になるからね。」
それならよかった。
・・・平和な通り?
舞は首を傾げる。
どこかで同じことを聞いたような。
男性は舞の微妙な表情にか気付かなかったのか、舞の代わりにトランクを引いてビルに入っていく。
舞は遅れまいと歩いていった。
エントランスは閑散としていた。
もしかしたら昼間は賑わうのかもしれない。
男性は受付と乱雑に書かれた窓口にいた。
「すみません、鈴夜舞の部屋のカードキーをいただけますか。」
あっという間にキーは手に入ったようだ。
「じゃあ、行こうね。」
男性と舞はエレベーターに乗った。
男性は5階のスイッチを押す。
舞は緊張しきっていて、ただただ男性についていっていた。
そこでちょっとしたことに気付く。
「あの、この学校の学費っていくらですか?」
男性は大丈夫だよ、と言ってから、
「ここに住んでいるのはみんな学費免除の人だよ。」
と説明した。
「あと、あと、ノートとか教科書とかは明日買いに行けばいいんですか?」
「大丈夫。ちゃんとみんな部屋に置いてある。」
それ以上質問もなかったので、舞は黙っていた。
エレベーターから降りると男性は慣れた様子で歩き出した。
こちらはついていくだけで必死だ。
小柄な体格がうらめしい。
ただでさえ、行き方を覚えるという重大なことがあるのに。
薄暗い通路を通って、突き当たりに部屋があった。
男性がカードキーで部屋を開ける。
そこは広い部屋だった。
最新型の大きなプラズマテレビに三つのソファ、勉強の机もモダンだ。
トイレと浴室は別の部屋で、お風呂にはシャワー室もあった。
ベッドはキングサイズ。
ソファの真ん中のテーブルに教材一式がおいてある。
「あの、わたしここで生活していいんですか?」
あまりの豪華さに舞が青くなっていると、
「いいんですよ。眠いと思いますから、僕は退散しますね。」
男性は退室した。
す、すごいなあ・・・・・。

 舞が荷物の片付けをしようとトランクを開けたところ。
ピーンポーン
部屋の玄関に誰か来たようだ。
舞がドアを開けると。
女の子3人が立っていた。
「こんばんは、鈴木洋子です!」
なぜか真円になっている眼鏡をかけた子が自己紹介した。
「真原ともよです!」
舞と目と目が合うくらい身長の低い子がいった。
「姫島愛菜です!」
黒い髪を腰まで伸ばした子も自己紹介をする。
「わたしは・・ええと鈴夜舞です。」
三人に部屋に入ってもらうと。
「きゃー、抱きしめたいくらいかわいい!」
洋子にいきなり抱きつかれた。
「ほんときれいな髪、キスしていい?」
「遠慮します。」
「へー、デラックスルームってこうなってるんだ。」
え?今、何かおっしゃりましたよね?
「え、デラックスルーム?」
「んもう、何言ってるの!普通の部屋はこんなに広くないわよ。」
洋子に真顔で言われた。
「で、どんな能力持ってるの?」
え?もう何回心の中でえ?と思っている気がするが、どうしても耐えない。
「ええと・・・教科書に落書きしてたら落書きで描いたものが教科書から飛び出したんですけど。」
三人の目がらんらんと輝いている。
「あ、そうそう。」
そこに舞を案内してくれた男性が入ってきた。
3人を見て、
「今日来たばかりで、明日から授業なんだから休ませてあげなさい。ほら、自室に帰る。」
3人は文句を言いつつ去っていった。
「あの、わたし、デラックスルームに住むほどすごい人間じゃないんですけど。」
男性はにっこり笑った。
「大丈夫、君にはその資格があるんだ。堂々としていなさい。」
男性がクローゼットを開けると春夏、秋冬の制服が二着づつ入っていた。
「学校にはこれを着てきて下さい。何か着心地が悪いとかトラブルがあったら、エントランスに言ってください。じゃあ、おやすみ。」
男性がいなくなると部屋は一気に静かになった。
明日からどんな生活が始まるのか。
荷物を整理しながら、舞はドキドキしていた。
END



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*atogaki*
ホントにドキドキするスタートです。
ちょっと学園○リスとすばら○きこのせかいが混ざったような展開に。
友達百人できそうな勢い。