何かが歩けば何かに当たる



クリスマスのパーティー会場は一挙に早食い大会となっていた。
ロボットのことが校内放送され、舞と凍が保健室行きになったと聞けばそうなっても仕方がない。
舞はともかく、赤のキングである凍が苦戦するほどのロボットだ、怖くないはずがない。
誰も踊るなどという優雅な気分にはなれなかった。
「舞、大丈夫かしら?」
愛菜が料理山盛りの皿を持ったまま言う。
「保健室は先生以外通信不可能だから、わからない。」
ともよの皿は空になっており、彼女の視線は料理の持ってありそうなテーブルを求めさまよっている。
「明日、聞くしかないか。恐ろしいったら。」
洋子も愛菜に負けないほど皿の料理が山盛りになっている。
「腹が減っては戦もできぬと言いますから、お気を付け下さい。」
いつの間にやら針渡が愛菜の背後にいた。
察していたのか愛菜は平然としている。
「あなたこそ気を付ければ?能力効かなかったら、あなたが真っ先に犠牲者になるわ。」
「毎度キツイな、川北さん。あなたは僕が守ってみせますよ。」
「後ろから真っ先に焼かれても文句は言えないわね。」
だいたいの生徒の会話はロボットのことだった。
待ち合わせの定番スポットにロボットが出た、となると不安も大きくなる。
しかも、あの凍が苦戦、舞はかろうじて助かったという代物だ。
会話と食事を同時にしながら、生徒たちは不安をぶつけ合っていた。

 凍も舞も保健室にいた。
パーティー会場に行けと言われたが、その後命令が変わり保健室行きとなったのだ。
無残な遺体のフラッシュバックも厳しい。
舞も身長が標準程度あれば死んでいただろう。
紙と鉛筆がないと舞はただの女の子だ。
ケンカ慣れした凍は左手に保冷剤を巻かれていた。
事件はほとんど凍が片付けたようなものなので、事情を聞かれているようだ。
舞の能力は意外と限られている。
まず、アスファルトか紙に図を描かないと何も起こらない。
チョークでアスファルトに描いた図は、鉛筆でメモ帳に描いた図より消えるのが早い。
同じメモ帳に描くにしても、油性ペンでは何も起こらない。
カラーペンを使うとその色の図が実体化して動き出す。
なぜか鉛筆でメモ帳に図を描くのが一番長持ちする。
こうなると自分は役立たずだ。
鉛筆の図があんなにあっさり敗れるとは。
もし自分1人で対峙することになったら。
「鈴夜さん?まだショックが抜けきれないようですね。」
保健室にいる女医に声をかけられた。
「あ、いえ、比較的良くなりました。」
「この顔色は今夜はこちらにいていただいた方がいいようですね。赤井君は処置が済み次第寮に帰ってもらいます。」
情けない。
他人の足を引っ張っただけなんて。
「おい、気にすんなよ。」
凍がこちらにやってきた。
「オレだって死ぬかと思ったんだ。アレがオレの上限。腕が痛くてたまらねぇ。」
「良くなりましたか!」
「何にもしないよりはマシって程度。そっちこそ気にするな。学校側で何か考えるだろうさ。」
舞も凍も渋い顔をしていた。
「オレは自分よりでかいやつと殴り合うのに慣れてただけだ。立場が逆転してたらオレだって不安だ。」
じゃ、帰るな。
そう言って、凍は教師の一人と保健室を出ていった。
「舞さん、カウンセリングと対策はは後日行います。」
そう言ってから女医は舞の手をそっと握った。
「恐らく今夜は眠れないでしょうから付き合います。ですから、過度に不安にならないで下さい。」
あれ?
舞は首をかしげた。
怖いことの後は眠れない。
どこかで言われたことがあるような。
「あ、事故に遭った時。」
舞が脈略なくぽつりとつぶやいたため、女医は不思議に思ったようだ。
「事故、ですか。」
「はい、交通事故のあとは眠れないものだとお医者さんに言われたことがあります。事故の前のことは何も覚えていないのに後のことは覚えているんですね。」
「その通りです。今は眠れとは言えませんから、ゆっくりしましょう。食欲もないと思いますが、少しだけ頼んでおきましたから食べましょう。」
その晩は舞にとって、記憶が戻ったような戻らなかったような特別な一夜になった。
END





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*atogaki*
嫌なクリスマスです。
凍も両手に保冷剤付けてるし、舞は倒れているし。
腹が減っては、を地で行く学園でした。