ハロウィンには雪が降ったが、肝心のクリスマスには雪は降らなかった。
クリスマスは寮の予算からではなく学園の予算から金がでるパーティーだ。
簡単な正装をしてちょっとしたスペースで踊ったり、テーブルに乗った料理を食べてもいいパーティー。
だが残念なことに寮監はそうはいかない。
寮監はなるべく動きやすい正装をして集団に紛れ込んでいなければならない。
軍用じゃないかと疑うようなトランシーバーを肩からぶら下げて歩き回る。
もちろんダンス禁止。
何か起こった時のためだ。
舞もメモ帳とシャープペンシルをカバンに詰めてカナッペを食べていた。
針渡も正装をしているがつまらなさそうにしている。
実はこのクリスマスパーティー、一番アクシデントの発生率が高いイベントだ。
原因のほとんどは男女間の感情のもつれ。
寮監としては鼻をへし折るの折らないののケンカを放っておくことはできない。
むしろ針渡はまた愛菜に何かして怒られ、彼自身がトラブルになりそうな気がする。
更に気の毒なのは凍だが。
クリスマスパーティーが華やかに行われているころ。
トランシーバーを肩からぶら下げ、凍は学術に励んでいた。
好きでやっているわけではない。
クリスマスパーティーの男女間のもつれでクリスマスパーティーに行くことができなかった人物や興味のない人物が学生寮に残っている。
彼らを見ている寮監も必要だ。
どうせなら、舞と仲良く過ごすため得意科目のおさらいをしようと教科書とノートを広げている。
苦手な英語は、この際、見なかったことにする。
舞はネイティブ並みに英語の読み書きも会話もできるため、彼女に追い付くのは至難の業だ。
図書館の書庫にあった米国の学術的な有名誌の一部を訳してもらったこともある。
短期間で追いつけたら天才だ。
じゃんけんでほぼ毎回負ける天才になりつつある自分に腹も立ってくる。
ぴっ
トランシーバーが音を立てた。
そして、いきなり雑音に変わる。
人間の声は聞こえてこない。
これは寮の事務フロアからだ。
パーティー会場の方にも連絡を送る。
「事務フロアから連絡。」
それだけ言って、凍はジャンパーを着て部屋を飛び出した。
目の前にはPTSDになりそうな場面が広がっていた。
何人かのスーツを着た大人が様々な関節を折り曲げられ、動かない。
立っている男は長身で一応スーツを着ていたが、なぜかサングラスをかけている。
人数は3人。
銃器類を持ち出されなければ何とかなりそうな数だが。
嫌な予感がする。
何の気配もなく男が凍の顔に殴りかかってくる。
凍は避けて反撃しようとした。
声にならない声を上げる。
殴りかかった左手が痛い。
腕力には自信がある方だが、こんな反応が返ってくるのは人生で初めてだ。
ひょっとして。
こちらの頭を狙った一撃をかわし、左手に熱を込める。
がこん
人間の腕ならしてはいけない音がした。
かわいい雷のような音がしてくる。
これが灼熱の手で男の腕を熱でもってもいだ結果。
凍はついぽかんとしてしまった。
その隙に。
「うわ!」
腹を蹴られる。
受け身はとったものの痛いものは痛い。
トランシーバーも飛ばされた。
しかし、痛がっている場合ではない。
早く知らせなければ。
凍は放送室のドアを開けて、避難命令を出した。
舞は全力で走っていた。
凍からの連絡が切れたっきりになったからだ。
メリークリスマス!などと言っていられない。
衣装が少々邪魔だがメモ帳とシャープペンシルを持ち出す。
寮の正門を開けるといきなり無残な死体と機械で出来たような腕が転がっていた。
がん
放送室のドアがこちらに飛んできた。
運動神経なら自信がある。
舞はドアを蹴り返した。
足が衝撃で痺れるがそんなことは言っていられない。
「針渡さん、やっぱりトラブルです!」
トランシーバーに向かって叫ぶ。
向こうも了解、と返す。
通信中にガラスが割れる音がした。
凍が放送室のコントロールパネル前のガラスを割って、飛び出す。
「気をつけろ!こいつら機械だ!」
「えええっ!」
舞は出てきた男一人を落書きで描いた丸と棒線で構成された簡単な図形ではがいじめにしていた。
ぱん
予想以上の速度でその戒めが解ける。
そこに凍が炎をまとった右フックを男の顔面に当てる。
頭が溶けて非常に見栄えがよろしくないことになったが、機械達はかまわないらしかった。
動いてこちらにやってくる。
右腕がもげた者と頭がない者と五体満足なもの。
宗教的なものを感じさせないでもないが、かなりの脅威だ。
「人型のロボットに襲われています!どうぞ!」
舞は柱の裏に隠れてトランシーバーに話しかける。
応答がある前に。
がしゃん
柱が砕けた。
背が低くてよかった、と今以上に思ったことはない。
トランシーバーを捨て、左腕をひねる丸と棒線の図形をメモ帳に描く。
男、いやロボットは抵抗しているが何とか舞は凍のもとに向かうことができた。
「どうします!?」
「どうするも何も!応援を待つしかない!」
1体は両手も両足も熱でもげていた。
残るは1体、というところで本当に応援が来た。
防弾チョッキを着ていていかにも特殊部隊風の大人たちだ。
「こいつらは機械だ、弾は通じねぇぜ。」
相当疲れたのだろう、凍は左腕を抑えていた。
「任せておけ!手榴弾もあるし後続部隊も来る!君たちはパーティー会場に避難してくれ!」
他の生徒も応援部隊に守られつつパーティー会場に向かっている。
生徒がいなくなったらしいことを確認してから、凍と舞はパーティー会場に向かった。
END
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*atogaki*
いきなり色気もくそもないクリスマス。
凍にとってはパーティーには行けないわロボットに殴られるわで嫌なクリスマス。
応援部隊の人にがんばってもらうしかありません。