化ける日



新学期学力テストが終わると、秋は深さを増していた。
新学期学力テストに補習はないので、舞も安心して日々の勉強をこなしていた。
本人は必死でやっているのだが、学力が追いつかないのはなかなか寂しい。
もうすぐ十月になるせいか、ちょっと肌寒い。
「もう、ミシンが回ってこないなんて最悪!」
空き教室で四人で食事をしていると、洋子が嘆いた。
「私も回ってこないわ。ともよは?」
愛菜が特集サンドイッチをつまみながら尋ねる。
「わたしは朝早起きして家庭科室に並んでるから、もうすぐできそうだよ。」
レインボーそぼろ弁当を食べながら、口を押さえつつともよが答える。
「うわ、そこまでするか。んもー、ブラジャーとショーツとブーツだけならすぐできるのに。」
「学校で禁止されてるじゃないの。あきらめて早起きしたら?」
舞は完全に置いていかれていた。
ミシン?カテイカシツ?何ですか?
「舞はいいわよねー、普段着のレースの派手な服に頭巾をかぶるか、エプロンつけるかくらいでできちゃうんだから。」
「もしかして、ハロウィンですか?」
三人の六つの目玉がこちらを見た。
「ハロウィンの日はね、みんな仮装するの。」
ともよがにこっと笑った。
「そう、なんですか。私そういえば何もしてない」
「いいの!舞は金髪で普段からロリータファッション極めてるんだから、それだけで十分仮装になるの!」
洋子が品のいい黒髪をくしゃくしゃといじる。
「あー、今年はスカート穿いた仮装がよかったのに時間足りるかな。」
洋子がため息をつくと、愛菜もうなずいた。
「去年のハロウィンはレンタル使ったから味気なかったわね。私もスカートがいいんだけど、舞のワンピース借りるわけにもいかないし。」
「よかったら、貸しますけど?」
「好意だけは受け取っておく!あたし身長あるからサイズ合わないって。」
「私も好意だけいただくわ。いいこと聞いた、朝なら人が少ないものね、早起きすることにする。」
愛菜の方が幾分か前向きだ。
「私どうしよう。布地すら用意していない、う〜ん。」
「舞、黒っぽいワンピース持ってる?」
ともよに唐突に聞かれる。
「持ってますけど。」
「じゃあ、ほうきだけレンタルして黒い布買ってきてとんがり帽子作るのはどう?舞は身長低いからかわいく仕上がるんじゃないかな。」
「あ、ずるい。計画に混ぜてよ。」
洋子がずるずる体を寄せてくる。
「洋子はダメー。朝早起きする気のある人しか参加できません。」
いつの間にやら早起きしてとんがり帽子を作ることになっていたらしい。
早起きは別に苦にならないので、ハロウィンのためにがんばってみるのも楽しいかもしれない。
愛菜も加わり、ハロウィン当日まで互いに仮装を見せあわない条件で三人の同盟は発足した。
低血圧で朝に加われない洋子は放課後にがんばるそうだ。

 ハロウィン当日、寮の一階は混雑していた。
何とか家庭科の先生に相談してできたとんがり帽子をかぶり、黒くてフリルのあるワンピースを着て、ほうきと靴をレンタルした舞は周囲を見た。
「あっ、かわいい!」
そう言って真っ先に寄ってきたのは洋子だった。
かつらを借りて金髪にし、ティンカーベルのような格好をしている。
メリハリの利いた体型が人の目を引く。
「洋子さんこそステキです。裁縫上手なんですね。」
「ふっふーん、結局自腹でミシン買ったからね。これくらいできなきゃあ。」
「洋子のミシンで徹夜することになるとは思わなかったわ。」
愛菜が軍人風のミリタリーファッションで現れる。
一応、パンツではなくスカートだ。
「借りができたわ。」
「へへっ、愛菜って何に浸けても有能だからな〜、どう返してもらおうか困っちゃう。」
そこにどうやって来たのか、ともよがやってきた。
白い羽はレンタル、短めの白いスカートに白いブーツのともよがやってきた。
「みんな似合う!目の保養!」
ともよの目が潤んでいる。
「ともよさんもよくお似合いです。けれど、羽、邪魔になりませんか?」
気のせいか羽根がとれているように見える。
「大丈夫、わたしバーゲンでもいつも最前列にいるタイプだから。」
「そういえばみんなどこに向かっていらっしゃるんですか?」
「大ホールよ。簡単なパーティーがあるから。」
大ホールってこういう時に使うんだ。
「さて、あとは自由行動です。レッツゴー!」
洋子が言うと本当に三人とも思い思いの方向に去っていく。
舞も髪と帽子を気にしつつ、大河のような学生たちの列に加わった。

 大ホールに着くと、すぐに声をかけられた。
「やあ、鈴夜さん。」
「針渡さん、こんにちは。」
針谷は顔にもペイントをしていてピエロの仮装をしているようだった。
似合ってますと言っていいものかはわからない。
「てめぇは前は東長町にでも話しかけて玉砕されてこい。」
声は男だが長いローブを着て長い黒髪を流している人が針渡に話しかけた。
フードを被っているため顔はわからない。
身長は舞と同じくらい。
杖を持っていて、その人物の方が本格派だ。
「おい、何じろじろ見てんだ、オレだよ、赤井凍だって。」
「え?」
長いローブを引きずらせ歩いている姿は、普段の活発な凍とは結び付けがたい。
「あーもー、一緒の寮のやつらに「イメチェンが大事」なんて言われてこうなったんだ!」
「あのう、きれいに縫ってありますね。」
凍はなおもフードをとらない。
「オレじゃなくてダチが勝手に作りやがったんだ。サイズが合わないことこの上ねぇ。」
ばっさばっさと凍がローブをいじる。
「ゲームみたいでかっこいいですよ。」
言ってから違和感を覚える。
あれ、私ってゲーム大好きだったっけ?
ともあれ、十二月にもイベントがあるにもかかわらずハロウィンは盛り上がった。
トリックオアトリート
なんて単語は出てこない。
大ホールのテーブルの上の食事を食べて雑談ができればいいのだ。

 いきなりホールが暗くなった。
そして、スポットライトが大勢の学生上を横切る。
「さあ、今年の意外な仮装王は」
スポットライトは凍を照らした。
「赤井凍さんです!その古めかしい雰囲気のローブ、本当に頭どうかしちゃったんじゃないですか!?」
凍以外の生徒の拍手がホールに響き渡る。
「うっせぇ!」
凍がフードをとる。
「では壇上で王冠を受け取って下さい!」
非常に嫌そうに凍が大ホールに設置された小さめの表彰台に立つ。
もちろんスポットライトがずっと付いてくる。
王冠を受け取ると凍はにまっと笑った。
両手をホールの天井に向ける。
すると、雪が降ってきた。
爆笑。
会場内が笑いに包まれた。
ホワイトハロウィン。
うん、いいかもしれない。
舞は何もしていないのに楽しい気分になってくる。
他の生徒もそのようで会場は更に盛り上がる。
間違ったロマンで無事ハロウィンは終わった。
END





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*atogaki*
やっと季節が進みました。
今更ハロウィンです、そこのところはご容赦を。
凍がだんだん貧乏くじ係になっている気がします。