舞はパソコンでまとめたデータをm-pasoに転送した。
宿題と並んで、夏休み最後の試練、会議だ。
洋子や愛菜に手伝ってもらって何とかデータを形にできた。
これで済めばいいのだが。
書きなおしなどと言われたらどうしよう。
残りの紙資料をバインダーに挟んで、舞は部屋を出た。
会議室に行くとすでに凍は来ていた。
あと茶髪で緑色の目のやや背の高い男性が座っている。
凍とその男性はあまり楽しくなさそうに会話していたが、舞が部屋に入ってくると二人ともこちらを見た。
「こんばんは、君が鈴夜舞さんだね?」
男性に言われてしまい、どう会話を続けるか考えていると凍が男性を指した。
「で、こいつが針渡(はりわたり)明(あきら)。高校一年。青の代表。」
「はじめまして、鈴夜舞です。」
そう言って礼をすると、針渡も立ち上がって礼をする。
「こちらこそはじめまして。確かに、愛らしいね。」
からかわれているのか、真剣なのか。
首をかしげるところだ。
フロアの都合上凍と明の間に座る。
「あの、カラーコンタクトをご使用ですか?」
「うん。凍みたいな地味なキングは趣味に合わないんだ。」
「悪かったな。」
凍が即口をはさむ。
「凍、夏休みの宿題終わった?赤のフロアはトラブルが多いから心配だよ。」
「うるせぇ、会議が終わったら徹夜だ。」
堂々宿題が進んでいない宣言をしてから、凍は舞を見た。
「針はどーせ終わってんだろ?鈴夜は?」
仲がいいのか悪いのか、どっちだろう。
そう思いつつ、残り一割。
舞は答えた。
できてねぇのオレだけかよ、と凍がぼやく。
後輩二人組を何とも言えない目で見ている明。
「はい、無駄口はそこまでにして下さい。」
担当の事務長がノート型パソコンを持って会議室に入ってきた。
学生三人はすぐにm-pasoをプラグにつなぐ。
何をするんだろう。
舞は真剣にm-pasoを見た。
「会議」ということはいちいち出費や生徒の態度などをつつくということだった。
「赤のフロアでは最近肉体的な殴り合いが増えています。改善策はできていますか?」
「すみませんが、事務長、憂慮すべき問題ですが改善策はこちらより先生方が立てるべきかと存じます。」
凍は背筋を伸ばして答えた。
「そうですね、年齢的に反発する生徒もいるでしょう。職員会議に回します。しかし物の破損も多くなっています、以後何らかの啓発活動をするように。」
こんなこと言われるんだ。
舞は怖くなってきた。
「了解しました。」
凍は事務長側からm-pasoに送られてきた情報を見て舌打ちをしたそうな顔をしている。
「黄色のフロアの鈴夜さんはあまり報告事項がありませんね。何か隠している情報などありませんか?」
「隠している情報はありません。短期間しか担当しておりませんので、該当することが少ないのだと考えます。」
と言っておけ、と愛菜にアドバイスをもらっていたので一問目から滑ることはなかった。
「なるほど、わかりました。やや七夕の予算が多すぎますのでそこを改善して下さい。今回もそうですが、能力を発動させる道具は常備するように。」
はい。
この一言で終わった。
計算し直しじゃなくてよかった。
「青のフロアはもっとも模範的に活動しているようです。特にこちらから言うことはありません。」
「ありがとうございます。」
明はポーカーフェイスで答える。
この後も次回の予算の組み方などについて説明がくどくどとあり、会議は三時間ほどかかった。
事務長が出て行くと凍が伸びをした。
「っつたく、何で「物を壊さないで下さい」なんてポスター貼って回らなきゃならないんだよ。」
「鈴夜さん、手伝いたそうな顔してるけど手伝っちゃダメだよ。これはキングやクイーンそれぞれの仕事だからね。」
読まれた。
恥ずかしいが過ぎたことはしょうがない。
「あ、もしかしてその資料、川北愛菜さん作?」
「ほ、ほとんどそうですけど。」
「愛菜さんって資料作りなんかもうまいよ。憧れるね。」
明は愛菜のことが好きなのだろうか、それともライバルなのだろうか。
ニコニコと話すため、明の表情は読み切れない。
「凍、それより部屋に戻らなくていいの?」
「うわ、やべっ!またな!」
凍は手際よくm-pasoのプラグを抜いて走って出ていった。
あそうか、宿題。
「私も戻ります。今日はありがとうございました、おやすみなさい。」
いいかげんにプラグを抜いてm-pasoをとり、舞も会議室を出た。
「こちらこそおやすみなさい。」
明もリラックスした様子でm-pasoをいじっていた。
一時間後。
数学の壁に当たったところで、愛菜は舞にこのロジックをどう教えればいいか考えていた。
「あの、愛菜さん、針渡さんとお知り合いですか?」
舞がこんなことを言いだした。
まったく。
「付き合って下さい、とかそういうことは言われたことがあるわ。」
舞が目を丸くする。
「断ったわよ、懲りてほしいものね。針渡と赤井くんしか選択肢がなかったら赤井くん選ぶわよ。」
「そ、そうなんですか。」
「ポーカーフェイスでニヤニヤしてる男より、赤井くんみたいに正直なタイプの方がいいわよ。舞もそういうことは覚えておくといいわ。」
なぜか壁を乗り越えさせるいい説明方法が思い浮かんだ。
「舞、ここはね、こうして…」
こうして夏休みの終わりは少々の色気を含みながら、流れるように去って行った。
END
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*atogaki*
季節のずれが大幅です、できるだけ笑って済ませてやって下さい。
針渡が未練たらたらっぽいのも許してやってください。
ポーカーフェイスの男子は愛菜の好みから大幅に外れているようです。
愛菜が赤井に本気ということもなさそうですが。